34. 神の御業のよう
論より証拠。信じてもらうためには見てもらうのが手っ取り早い。ということで、冒険者を急成長させる裏技、公開します!
「まずは、これを用意します」
と言いつつ収納リングから取りだしたのは、もはや見慣れた小箱だ。
「パンドラギフトだな」
「そうだね」
レイの言葉に頷く。普通ならここで怪訝そうな顔をされるんだけどね。レイたちは慣れてるから、むしろ納得した顔だ。
頷いたミルが、確認するように聞いてきた。
「なるほど。あの薬はパンドラギフトから出したってことね?」
「そうだよ。見てて」
パカリと箱を開ける。出てきたのは想定通りの小瓶だ。ステータス向上薬が出てきた。
「うわ……あいかわらずだね、トルト君は。出そうと思って出るものじゃないよね、普通」
サリィの言うとおりだけど、そんなのは今更だ。前から欲しいと思ったものが出てきてたわけだしね。ルーンブレイカーとか。
だからか、三人もさほど驚いてはない。むしろ、レイの表情は険しくなった。
「しかし、パンドラギフトだって貴重だろう。それに確か1日に1個しか開けられなかったんじゃないか? あれだけの薬を用意するのはやはりかなり大変たったはずだ」
「ああ、うん。それなんだけどね」
パンドラギフトの開封には命の危険が伴う。そのリスクを一度だけ回避できるのが、僕のスキル【運命神の微笑み】だ。1日に1度だけ、命に関わる大きなリスクを反転させ、幸運な結果をもたらす効果がある。だからこそ、僕は安心してパンドラギフトを使うことができた。1日1個しか開けられないってのはそういう理由だね。
でも、最近気づいたんだよね。思い通りのアイテムが出せるってことは、死亡罠みたいな効果は回避するまでもなく出てこないんじゃないかって。
というわけで、検証してみた。普通なら命がけだ。運命反転効果が発動されたかどうか確認する方法がないからね。でも、僕にはある。ずばり、廉君に聞けばいいんだ。廉君は運命神だからね。聞いたら普通に教えてくれる。
結果として、100回連続して開封しても運命反転効果は発動しなかった。だからたぶん、中身を指定して開封する場合、死亡罠みたいな効果は出ないんだと思う。一応、廉君から運命反転効果が発動したときに鳴るアラームみたいなものをもらったけど、今のところ、一度も鳴ってない。
「な、なるほど。完全に便利な箱になったというわけだな」
「そういうことだね」
説明を聞いたレイは納得するように頷いた。けど、まだ浮かない表情だ。ここまでの説明だと、結局のところ大量のパンドラギフトが必要になる。きっと集める労力について考えてるんだろうね。
まあ、心配はいらないんだけど。
「で、ここからが裏技なんだけど……」
「ここから!? 今までの説明はなんだったんだ」
「え? 前提条件かな?」
「そ、そうか……」
曖昧な表情の三人に、首を傾げつつ、説明を続ける。まあ、説明というか実践だね。
「もう一度、パンドラギフトを用意します」
「また出たわ……」
「そりゃ出るよ。ここからが大事だからね。さっきはステータス向上薬が出るようにしたけど、今度はパンドラギフトセットが出るように指定します」
「パンドラギフト……セット?」
「そんなのありなの……?」
レイたちが顔を見合わせる。まあ、完全にズルだからね。ランプの魔人にお願いを増やして欲しいって願うみたいなものだ。実際、以前はできなかった。でもね。
「じゃあ、開けるね」
「うわっ!?」
開けた途端、パンドラギフトがポポンと軽い音を立てて弾けた。代わりに似たようなサイズの箱が5つこぼれ落ちる。もちろん、全部パンドラギフトだ。結果として、4箱増えたことになる。もちろん、増えた箱から、さらに5つのパンドラギフトを出すこともできる。つまり、在庫さえあれば、パンドラギフトは無限に増やせるんだ。
ちなみに、さっきはステータス向上薬を1つ出したけど、その気になればセットでも出せる。まあ、5つくらいが限界だけどね。
「というわけで、ステータス向上薬は簡単に増やせるんだ」
「そ、そうみたいだな」
ようやく納得したみたいで、レイたちは何度もこくこくと頷く。
「はぁ……本当に凄いわね。ここまでだと、神様だって言われても不思議じゃないわね」
「トルト君の魔道具は神器だって言われてるしね。冒険者の中には、すでに崇めている人もいるみたいだよ」
ミルとサリィがそんなことを言った。口調はどちらかと言うと呆れた感じで、彼女たち自身に僕を神様だとか崇めようって気持ちはなさそうだ。だから、別にスルーするつもりだったのだけど……
「違うよ! トルトは神様じゃないもん! 神様になんて、ならないもん!」
ハルファが強い口調で口を挟んだ。予想外のことに、サリィたちは驚いている。
最近のハルファは精神的に不安定だ。普段は平気だけど、僕が神様になるっていう話になると、冗談でも取り乱すことが多い。
「大丈夫だよ。僕は神様にならないからね」
「本当に? 本当にならないよね?」
「僕はまだ冒険者としてこの世界を楽しみたいからね。ハルファと一緒にね」
「うん……そうだよね。うん……」
弱々しく呟きながら、縋り付いてくるハルファをあやす。頭を撫でてあげると、安心したように目を細めた。なんか猫みたいだ。
「ごめんねハルファちゃん。変なこと言っちゃって……」
「ううん。私こそ、ごめん……」
謝るサリィに、ハルファもバツが悪そうに首を振る。ミルとレイも何と言ったらいいかわからないみたい。戸惑いが顔に浮かんでいた。
「実はね――――」
わけがわからないだろうと思って、レイたちに事情を話した。僕が創世神様の力を受け継いでいること、太陽神様から神々のまとめ役につかないかと打診を受けたこと。話を聞いたレイたちは、驚きに顔を強ばらせている。流石に話が大きすぎるよね。
「そうだったのか……」
レイが小さく呟いた。ミルとサリィは無言だ。どう反応したらいいのかわからないのかもしれない。
少しの沈黙のあと、レイが顔を上げた。その瞳には強い意志が宿っている。
「それなら俺たちが頑張らないといけないな」
「……レイ?」
不思議そうにハルファが尋ねる。そちらを見て、レイが頷いた。
「太陽神は世界の行く末を心配しているんだろう? だったら、俺たちが心配いらないと結果で示せばいい。そうすれば、トルトを神にしようだなんて言わなくなるはずだ」
強い口調で断言すると、ミルとサリィが頷いた。スピラとローウェルもだ。シロルはニコニコしてる。
「そっか……そうだね! 私も頑張る! トルトを神様になんてさせないから!」
みんなの顔を見て、ハルファも跳ね起きた。元気になったみたいだ。良かった良かった。
いや、僕は神様になる気なんて全然ないんだけどね。みんな心配しすぎだよ。
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