三戦目の相手

 闘技大会は勝ち残り式のトーナメント。タッグ部門の参加者は64組だから、六回勝てば優勝できる計算になる。僕らの目的は戦士としての力量を証明することだから、必ずしも優勝する必要はないかもしれないけど、やるからには全力で挑むつもりだ。


 それに、ギデルデ氏族推薦の戦士もタッグ部門に出場している。彼らに勝つことが、一番の証明になると思うんだけど……ともに決勝戦まで勝ち進まないとぶつからない配置になっているんだよね。ということもあって、優勝を目指しているんだ。


 今日はベスト8までを選出する予定だから、あと二戦しなければならない。その間、控え室から出られないのでちょっとだけ退屈だ。


 この控え室には僕とローウェルしかいない。試合前後の選手は殺気立ってるから、些細なことでトラブルが起きる。それを避けるために、幾つか控え室があるんだろうね。その分、部屋のサイズは小さいけれど。


 さて、今の僕には気がかりなことがある。それは三戦目の相手だ。

 実はゼフィルとマールが、この闘技大会に参加しているんだよね。そして、順当に行けば、三戦目で彼等と戦うことになる。


 観戦目的だって言っていたのに、びっくりだよね。僕らの参加が決まったときには何も言ってなかったんだけどな。


「勝ち上がってくるかな?」

「ああ、きっとな」


 僕の問いに、ローウェルは不敵な笑みを浮かべる。個人的にはちょっとやりづらいなぁと思うんだけど、ローウェルはそうでもないみたい。


「トルトは気乗りしないようだな」

「そういうわけじゃないけど……知り合いが相手だとちょっとやりづらいよ」


 素直に気持ちを告げると、ローウェルはかすかに笑みを浮かべて頷いた。


「人と争うのが苦手なのだろうな。だが、憎しみ合って戦うわけじゃない。自分の成長を披露すると思えばいいのではないか?」


 成長を披露する、か。

 クロムビートル退治のときは、基本的にゴーレムを主軸にした戦いだった。そういう意味では僕自身の成長は見せられてなかったかも知れないね。まあ、ゴーレムも僕の武器のひとつではあるんだけど。


 ここ最近は、ゴーレム頼みで戦うことが多い。だけど、僕自身も間違いなく成長しているはずなんだ。それを証明する機会と考えれば悪くないのかもしれない。


「うん、ちょっとだけやる気、出てきた!」

「そうか」


 ローウェルの笑みが少し深くなった。なんだか、優しく見守られてる感じがして、少し気恥ずかしい。


 なんとなく居心地が悪いまま時間が過ぎ、ついに係員の人が僕らを呼びに来た。二戦目は特に問題なく勝利。そして、三戦目の相手は――――やはり、ゼフィルたちだった。




「よう、驚いただろう!」


 悪戯成功と顔に書いてある。そんな笑顔でゼフィルが話し掛けてきた。すでに試合開始の合図は鳴ってるんだけどね。


「ビックリしたよ! もう教えといてよ!」

「教えたらつまらないだろうが」


 ちなみに、彼等はドルキス氏族の推薦枠で参加しているみたいだね。どういう経緯でそうなったのか聞きたいところだけど、今は試合中だ。あんまり長話していると観客が怒り出しちゃう。


「ま、詳しい話はあとでしようぜ! 成長したのはお前らだけじゃないってことを見せてやるぜ」

「ふっ……」

「おい、ローウェル。お前、今笑いやがったな?」

「いや考えることは同じかと思ってな」

「へへ、そうかよっ!」


 ゼフィルとローウェルが話しながら、斬り結ぶ。と言っても、ゼフィルの大剣をまともに受けるわけにはいかないから、ローウェルはいなしている感じかな。二人でガンガンに斬り合ってる――ローウェルの剣は鞘に収まったままだけど――から、横から手を出しにくいし、出して良い場面じゃないだろうね、たぶん。


 ということは――……


「あっちは二人でやってるから、トルト君の相手は私、かなっ!」


 マールのメイスが、ブォンという轟音とともに振り下ろされる。もちろん、僕は避けたけれど。避けていなかったら、どうなっていたことか。ちょっと想像したくない。


「マ、マール、容赦ないね!」

「あはは、Bランク冒険者なら、これくらい平気でしょ?」


 笑顔でメイスを振り回すマール。よくわからないけど、彼女の中でBランクが過剰評価されている気がする。個人的な意見だけど、そのメイスの一撃を食らって平気な顔をしていたら、もうそれは人間じゃない気がする。


 短剣だと受けることも難しい攻撃だけど、振りが大きいから避けるのは難しくない。とはいえ、隙が大きいわけでもないんだよね。最初の一撃以外はコンパクトに振って、こちらの体勢を崩しにきているみたい。


 一瞬だけ、攻撃の拍子にマールの体が流れた。チャンスだと思って攻撃を仕掛けたのだけど、それは罠だったみたい。僕の突きを躱しながら、左手の小盾で殴りかかってきたんだ。


「……っと、わあ! 盾はそうやって使うのか」

「ありゃ、外しちゃった」


 危なかったけど、自分から倒れ込んでどうにか盾の攻撃をよけることができた。少し距離をとって仕切り直しだ。


 うーん、さすがに手強いなぁ。

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