第7話 できちゃった

 きっかけはゴーガのデリカシーのない言葉だった。


「ミグ、フトッタ?イタッ」


 すぐさまビンタを喰らったゴーガだが、ある可能性に気付いたのか期待した表情を浮かべる。



「コドモ、カ」

「ウン、デキタ、カモ」


 少し恥ずかしそうに言うミグをゴーガは抱きしめて喜んだ。

 ゴーガの満面の笑顔を見てミグも笑みを浮かべた。


 というわけで、兄弟が増えるよ!!やったね!!




 ◆




「シカ、ヒトリ、カッタ」

「すごいな!一人でか?」

「ウン!」

「オレモ、オレモ」

「ジーもか、鹿を仕留めたのか?」

「ウサギ」

「あいつは素早いけど、一人でやったのか。すごいぞ」

「ムフフ」


 俺は鹿の皮を片手にギーとジーの話を聞いていた。

 もうそろそろ完治するからか、狩りの話をよくしてくるようになった。


 だけど二人とも、治ったらすぐに狩りに出られるわけじゃないんだぞ。

 リハビリとかして慣らさないと。


 どうやらゴブリンは丈夫なようだが、そこら辺を怠ると怪我が長引きかねないからな。


 俺は二人の頭を撫でる。

 くすぐったそうにしながらも少し照れているようだ。

 俺に撫でられて喜んでいる二人を見て、俺も癒される。


 ちなみに現在の作業は鹿の皮から毛を抜き鞣すための準備である。




 ◆




 ゴブリンの妊娠期間は短い。

 人間であれば10ヶ月ほどだがゴブリンは1ヶ月程度だ。

 ただ、それに伴うリスクは人間と同じだ。




「ウ”ウ”ウ”ウ”ゥ”ゥ”ン”ン”ン”ン”ゥン」


 ミグは歯を保護するための革を噛みしめながら、痛みに耐えている。


 俺が出産の際に立ち会うのはこれが初めてではない。

 今世だけでも、半年の間に3人は生まれている。


 だが何度経験しても慣れない。今世でも前世でも、その痛みを知ることができないからだろうか。


 俺たちは声に引き寄せられて魔物が来る可能性に備えて巣穴の周囲を警戒していた。



 俺の隣にはゴーガがいる。


「ミグ…」


 時々巣穴の方を見ては不安そうな顔をする。



「ゴーガ、心配なら戻れ」

「モンダイ、ッナイ」


 長としての矜恃かは分からないがそう言って譲らない。

 どうせここにいても役に立たないのだ、さっさと戻ってもらった方がこちらも気が散らずに済む。


「きっとミグ、不安にしてるはずだ」

「ダガ…」

「多分大丈夫だ。だけど、一緒にいればもっと大丈夫になるだろ」

「ゴトー」


 ハッとした顔をして俺を見る。

 息子に諭されるとは父親失格だな。


「タノム、オレ、イッテクル」

「それが良い」


 俺は迷いを振り切ったゴーガを見送った。その小さな背中はさっきよりも大きくなっていた。





「いかんな、雨が降ってきた」


 ちょっとウルッときてしまったぜ。




 ◆




「かわいい」

「アァ、チイサイ、ナ」


「ンフフ」


 俺たちは二人して、ミグの抱える小さなゴブリンいもうとを見ていた。

 少し薄い緑の肌、僅かに生えた髪、大きな目、そして小さな手。


 ゴブリンの感覚に慣れつつあった俺だが、それを差し引いても赤ちゃんというのはどの種族でもかわいいと感じるものだ。



「俺がお兄ちゃんだぞー」

「ぅぅん」


 え、違うの?なんて心の中でショックを受けながら、指を差し出すと、両手で俺の指を掴む。


「うひょー」

「ゴトー、キモイゾ」


 ゴーガの冷たい目も受け流し、俺は無敵モードだった。


「ねぇ、ミグ。この子の名前は?」

「ウン、ミート」


 …ミートお肉、かぁ。まあ良いか、かわいいし。




 そして、我が家の一大事は無事に幕を下ろしたのだった。

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