第3話 ゴブリンの村


 俺がこの群れを支配し始めて8ヶ月とちょっと。

 つまりこの世界に生まれて丸2年ほど。


 ゴブリンの集落は村と言って良いほどの規模となって来た。

 人口ならぬゴブ口は200人程。狩りで死ぬゴブリンが減ったのでその分倍増した。


 人数が増えて来たことで俺はある仕組みを敷いた。


 それは身分制だ。


 今までは、全てのゴブリンが俺の部下で狩人で職人で料理人だったわけだが、いよいよ効率が悪くなって来た。


 そこで身分を狩人、農民または職人、そして神官に分けることにした。

 これに伴って農業に手を出すようになった。

 イモに似た根菜を植えるようになった。これを選んだのは収穫が早い上に栽培が簡単なのが大きい。


 狩人は野生動物を狩るのはもちろん、危険な魔物を発見するのが役目だ。


 神官は要は俺の直接の部下だ。

 まあゴブリンは全員俺の部下だが、主に動くのは彼らになる。

 神官とは言いつつも村の統治を行わせる。完全な政教同一だ。


 俺はその中で神使という立場になっている。

 俺の下に神官、狩人、農民、職人の長が来てさらにその下にそれぞれの組織がある。



 この身分制の利点は、血石の依代の恩恵が集中することだ。

 狩人の中で優秀な者たちを精鋭部隊とした。


『あし』を主に継承している偵察部隊。

『うで』を主に継承している強襲部隊。

 この二つだ。


 狩人全体が25人程。

 それぞれの精鋭部隊が5人程。

 今は少ない上に個々の力量も低いため名前のみの部隊だが、時間をかけて強化していけば良い。




「シンシサマ、モウイッカイ」

「モッカイ」

「おう」


 俺は素手で強襲部隊のゴブリン5匹を相手していた。

 彼らは棍棒を使って俺へと攻撃を加えるが、その全てを手の甲で受け流し、弾いて、クリーンヒットを避けていた。



赫怒イラ』の呪術は身体を戦闘用に一時的に作り替える呪術だが、その変化の一部が解除後にも残っている。

 それが腕部の皮膚の硬質化だった。ちょっと黒っぽい。


 俺の前腕は皮膚でありながら硬く、分厚く、密度が高くなっていた。

 さながら腕甲のようになっていた。

 その硬度は剣士から鹵獲した鉄の剣も受け流すことが出来るほどだ。


 そのため下手な剣術を鍛えるよりも、使い勝手の良く道具のいらない格闘術を俺は鍛えることにしたのだ。


 5人を軽くあしらい、俺は休憩に入った。



 俺が水筒を飲んで喉を潤しているところに一人のゴブリンが近寄ってくる。


「シンシサマ」

「ギョクか、どうした」

「ニンゲンのマチ、カクニンデキマしタ」


 早いな。

 神官達の長であるギョクから挙げられた報告に俺は目を細める。


「すぐ戻る」



 ◆



「地図を見せろ」


 偵察部隊の報告を反映した地図を覗く。

 どうやらここから1日程度の距離にあるようだ。

 やはり、女神官エイリーの報告通り、か。


「人数は、俺たちより多そうか、少なそうか」

「オオイ」


 遠間から見ただけだろうから得られる情報はこの程度か。

 偵察部隊の奴らだと10以上は数えられないからな。

 エイリーの情報だと4、500人はいるだろうから冒険者は少なくとも数十人はいるだろう。



 すぐさま攻めて来れる位置でないとわかっただけで十分な収穫だ。



「よくやった。香を一壺、いや二壺渡してやれ」

「ワカリマしタ」


 神官の手で依代の香が報告を上げたゴブリン達に報酬として渡される。

 依代の香は謎素材なだけあって、すごく長持ちする。


 そのため俺はこれを金の代わりに使いたいと思っている。


 俺以外には誰も作れない上に、匂いがあるために偽造することも難しい。価値の保存という点で、これ以上無いものだった。

 香そのものが絶対的な価値を持っているのも大きい。



 残念なことに謎肉の方は、味のせいと効果が分かりづらいせいである種の罰ゲームのような扱いをされてしまっている。

 俺としてはこちらに価値を見出してもらう方が健全だと思うのだが、快楽には及ばないらしい。



「シンシサマハ、、ツカワナイノデすカ」

「俺はあんまり好きじゃない」

「…ソウデスカ」


 俺は彼に背中を向けているのだが視線が痛い。

 神官長ギョクは優秀なのだが、時々俺を観察するような視線がなぁ。

 優秀なのもいいことばかりじゃないという訳か。



 俺が身分制を作った目的はいくつかある。

 職の専門化による技術と知識の効率化。

 依代の肉塊の集中による戦力の強化。

 そして、政治と軍事の完全分離による反乱の防止だった。



 この村単体であれば俺が抑え続けることが出来る。

 しかし、俺としては村を増やすことを考えている。


 その時になって、調子づいた神官達が反乱の際に狩人を使えないようにしておきたいのだ。



 俺はただ強くなりたいだけなんだがなぁ。

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