第6話 レベリング
その後ギルドに行ったが、神官が言っていたようにスタンピードが起こるにしてはギルドの雰囲気はいつも通りだった。
ローチの討伐数についても全体で増えている訳では無いし、そもそもローチ自体が虫の魔物だけあって討伐数が元々多いのだ。数々の冒険者の討伐記録を取るギルド職員ならまだしも、一人の冒険者が気づくのは無理があるらしい。
掲示板には予期していた森南部の調査依頼は出ていなかった。
多分あの神官はツテのある冒険者にでも頼んだのだろう。
◆
この日はオークの討伐依頼だけを受けた。
D級に上がった俺が今更オークの討伐依頼を受けるのには訳がある。
それは、
「よろしくお願いします」
俺とフィーネに頭を下げる白髪の少女。
普段とは異なり肩まであるその髪を軽く束ね、神官服に身を包み、白魔術の精度を上げる錫杖を両手で握りしめている。
そう、ソニアだ。
「ああ、よろしく」
「…」
俺も軽く会釈を返す。
フィーネはいつも通り反応を返すことは無い。
生活環境の改善によって健康を取り戻したソニアだが、冒険に出る事をリードは許していなかった。
しかし、ソニアが敵対している冒険者に拐われる事があってから彼は考え方を変えた。自衛のためにもレベルを上げていた方が良いのでは無いか、と思い直したのだ。
ただ、リードが連れて行く訳には行かないらしい。
確かに彼らのパーティは剣士一人と神官一人。ここに神官が加わるのはバランスが悪いし、リード一人では彼女とマルクスを守り切れない。
逆に俺とフィーネはどちらも前衛だし、ここに神官が加わればパーティとしてはより安定した戦いが可能になる。
俺とフィーネの秘密もあるし断りたかったが、不自然と思われるかも知れないし、回復能力と秘密の保全の手間を天秤に掛けて回復が勝ったという訳だ。
ただ、ソニアが討伐依頼で出来ることは少ない。
彼女が習得している白魔術は『
前者は呪術によるデバフを打ち消す魔術だし、後者は怪我を直す魔術。
呪術を使う相手に遭遇することは少ないので『
そして、普段の討伐で俺たちが怪我をする事も少ないので回復も出番は無いだろう。
一応彼女のレベリング方法は用意してある。危険も少ないし、今なら大量に効率よく経験値を得られるだろう。
問題は彼女が
「ソニア、虫は平気か?」
「え」
◆
ぶち、ぶち、ぶち
「う”〜〜〜」
「ほら、そっちにもいるぞ」
「ぅ…はぃ」
ローチを杖の先で潰すソニア、その瞳は死んでいた。
彼女のレベルは聞いたところによると2レベル。
ローチでも十分にレベルが上がるだろうと考えた。
大体12匹倒したところで彼女のレベルは上がった。
それとなくレベルアップとはどんな感じか聞くと、頭にファンファーレが響くらしい。まるで一部のRPGゲームのようだ。
その次は14匹を倒してレベルが上がる。
どうやらレベルが上がる事に要求するモンスターの数は変わるらしい。
流石にゴキブリだけでレベルが100まで上がるなんて事はないと思いたい。
こんな簡単にレベルが上がってしまうならば、レベルの変わらない魔物なんて少し頑張れば簡単に殺せるのだろうなと、乾いた笑いが溢れてしまった。
最後にソニアのステータスを教えてもらった。
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ソニア Lv4
クラス
神官見習い
保有スキル
白魔術Lv1
———————————————
初めて人間のステータスを聞いたがこんな感じなのか。
彼女はユニークスキルを持っていないようだが、高ランクの冒険者になると逆にユニークスキルを持っている人間の方が多いらしい。
そして、普通のスキルの中には相手のスキルやレベルを知ることができる鑑定スキルというものがある。
鑑定系のスキルには看破、鑑定、察知の三つのランクがある。
例えばレベル察知であれば相手のレベルが自分と比べて上か下か分かる程度。
レベル鑑定であれば相手のレベルが数値として分かる程度。
レベル看破まで行くと、隠蔽スキルを無効化することができるらしい。
これらの鑑定スキルは後天的に増える事もあるがほとんどは生まれ付きの物らしく、鑑定や看破を持っていればそれだけで喰うに困ることはないらしい。
「黒魔術でも覚えたらどうだ?」
一応神官のクラスでも黒魔術の補正はあるらしいからな。
「それなら、魔術師クラスに変えた方が良いと思います。そっちの方が覚えは早いですし」
クラスは変更可能な物なのか。
これは後に知った事だが、最初のクラス、所謂見習いクラスは無条件で就く事が出来るようになっている。
しかし、例えば下級魔術師は魔術スキルのレベルが2以上と自身のレベルが10以上という条件が追加される。
そして、上位のクラスである程スキルに対する補正が乗るらしい。
ソニアに関しては今の時点では白魔術のみで戦闘に貢献しレベルを上げることは難しいので、それならばダメージを稼げる魔術師に変更した方が良いと考えたのだ。
「…ただ、それだと中途半端にならないですか」
「と、いうと?」
「私が役に立つのはゴトーさんが怪我をする様な相手の時だけですよね。それなら弱い黒魔術よりも、より強い白魔術を覚えていた方が役に立ちそうです」
確かに、彼女一人で弱い敵を殲滅してレベルを上げる事を考えていたが、彼女の存在が活きるのは俺やフィーネが怪我を避けられない強敵を相手にした時だ。
彼女がパーティで戦う事を前提にするならば白魔術の方がレベル上げの面でも効率は良い筈だ。
「そう、か。そうだな、済まなかった。俺の言ったことは忘れてくれ」
「いえ、ゴトーさんが私の事、きちんと考えてくれてるの分かって嬉しいです」
そう言って、慰める様に笑顔を作った。
ステータスを持たない俺があれこれ言うとボロが出そうで怖いな。
「それにしてもローチ、結構増えてきてるな」
「…ん」
「やっぱり、そうなんですね。こんなに居たら他の魔物を倒す暇なんて無いですよ」
ここまで、オークは1匹しか見つけられなかった。
もしかするとローチに住処を追われたのかも知れない。これだけローチが居たらそれだけで喰うものは無くなるだろう。
そうやって、オークを探している時、ローチとは微妙に異なる影が飛び掛かって来た。
「!む」
俺は顔に向かって来たそれを咄嗟に手の甲で弾く。
そいつに触れた瞬間ピリッとした痛みを感じるが構わず振り払う。
空中に投げ飛ばされた、それをフィーネが一刀両断する。
地面に茶色の羽と胴体が落ちる。
「ローチの進化種か」
確か、名前はポーンローチ。
これまでえ現れていたローチが拳ほどのサイズならば、こいつは俺の腕ほどもある。
力はそこまででは無いものの、速度を武器にした奇襲をされてしまうと後手に回る事になるな。
加えて、こいつらは麻痺毒を持っている。先程も振り払う際に噛まれてしまった様だ。
その効果は弱く、一度や二度であれば影響は少ないがこれが重なればいずれ動く事も出来なくなる。
「間違いなくスタンピードが起こるな」
隣のソニアが息を呑む。街をローチが覆い尽くす様子が頭に浮かんだのだろう、その顔は青白くなっている。
「街に戻ろう、ギルドに報告しないとな」
依頼の違約金を払わないといけないが、そんなことは言ってられない状況だ。
俺たちはすぐに街へと戻った。
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◆ Tips:基礎能力上昇系スキル ◆
スキルの中では武術・魔術に次いで比較的簡単に習得できる。
強力…筋力を上昇させる。
強固…物理的攻撃への耐性を上昇させる。
靭魔…魔力による影響力を上昇させる。
靱心…魔力攻撃への耐性を上昇させる。
瞬敏…敏捷性を向上させる。
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