第12話 復讐、リベンジそしてお礼参り、つまり復讐


 俺が集落を出て少しすると、僅かに争いの音が聞こえてきた。

 そしてその中に混じって聞き覚えのある声も。



「もう助けに来たのか」



 林をかき分けながら一直線に走る。



「ゴトー!、ヲッ!カエセッ」

「チッ、ゴブリンの、ぶんざいデ」


 そこには、ゴーガと俺を捕まえたオークの姿があった。

 加えてその周りでは、ジーとギーを含む俺たちの仲間のゴブリンが4匹。

 向こうからはゴブリンが5匹来ていた。ただでさえ力ではオークがいて不利なのにも関わらず、数でも負けている。


 そんな中でゴーガは全てを賭す勢いでオークへと右から左から棍棒の連撃を繰り出す。


 さしものオークもそれを簡単には防げないようで、少しずつ後ろへと下がっていく。


 しかし、ゴーガの勢いも長くは続くはずもない。

 やがて失速していく様子を見てオークは僅かに口角を上げた。



「ハァ、ハァ、クッ、ハァ」


 速度を失った攻撃は、簡単に躱されてしまった。

 その隙をオークが見逃すはずもなく俺たちの胴ほどもある棍棒を振り上げる。



「今、だっ!!」


 その様子をただ眺めていたはずがないだろう。

 手ごろな石を拾って、スリングを構えていた俺は最も相手が油断する瞬間を狙って最大火力、最速の一撃を放った。



「オ前!」


 直撃の寸前にオークは俺の姿に気づいた。しかし、遅い振り下ろされる棍棒を持つ右手、その無防備な肘関節を俺の投擲が貫いた。



「ガアあァァアアァァァ!!!!ウデがっ、オレサマのウデがぁ !!」



 文字通り投石が貫通した右腕は肘のところで皮一枚でぶら下がっていた。

 これで右手はもう使えまい。


 隻腕となったオークは俺に怒りの視線を向けながらも、動けずにいた。



「ゴトー!、ブジ、ダッタカ」

「少し怪我してるけど、戦える」

「ヨシ、コイツ、カタヅケル」


 俺とゴーガは二人並ぶ。俺はスリング を、ゴーガは棍棒を構えた。


 先程までよりゴーガの攻撃の勢いは減っているが、俺の援護によってオークは攻められずにいた。

 ゴーガの攻撃の隙を埋めるように俺は投石し、オークは先ほどの痛みを思い出したのか踏み込めない。


 ただ、こちらも投石を警戒されているため、大きなダメージは与えられない。



 まさに千日手であった。



 この状況で頼れるのは残りの仲間達。向こうは5匹、こちらは4匹、数の上では不利だが、個々の力量ではこちらが僅かに優っている。



 その中でも、力に優れているギーが向こうのゴブリンを1匹押し倒した。

 しかし、向こうも覆いかぶさるギーに不意打ちをしようと別のゴブリンが回り込んでいた。


 危ない、そう叫ぼうとした時、そのゴブリンの後ろにはジーの影があった。


「ギー、マワリ、ミロ」

「ゴメン、ジー」


 後頭部を全力で叩きつけられたゴブリンは戦闘不能。

 ついでに押さえつけたゴブリンにとどめをさしたギーは立ち上がり、ジーにお礼を言った。


 そして、その他のゴブリンもゴーガの手下が片付けていた。

 ただし、そのうち一人が大怪我を負っている。




 戦えるのは俺合わせて4匹のゴブリン。向こうはもうオーク1匹のみ。

 圧倒的優勢だ。



「おい、オーク、お前の負けだ。大人しく死ね!」

「フン、俺サマさえいれバ、いイ」


 そう言って体に力を込めると、急におぞましい気配を放ち出した。

 まさか!


「ジュジュツ、ダ」


 ゴーガの言葉を聞き終わる前に俺は投擲。だが、直撃の寸前にオークは呟いた。


『バーサーク』


「ガアアアアア!!」


 頭に響くほどの轟音、思わず耳を押さえた。



 俺たちは思わず唾を飲み込んだ。

 明らかに理性を失ったオークは俺たちの中から獲物を見つけたようで、粘着質な笑みを浮かべた。


 そして、力を足に込めると、飛び出した。



 狙いは、ジーか!


「ジー、逃げろ!」

「!!」


 しかし、反応する前にジーの目の前に到達したオークは彼にフルスイング。

 咄嗟に衝撃の方向へ跳ぶことでダメージを減らそうとしたジーだが、それを追うように軌道を変えた棍棒は、ジーをくの字に折り曲げ吹っ飛ばす。


 斜め上へと放り出されたジーは木の枝にぶつかると、地面にドチャリと嫌な音を立てて崩れ落ちた。ジーは白目を向いて意識を失っている。

 そして、その胴体も命の危険がありそうなほどに変形していた。


 明らかに瀕死だった。




 やばいやばいやばい。

 片手で、しかも利き腕ではない左手でこの状態だぞ。

 あんなのまともに食らったら。


 今度こそ死ぬ。



 猪の時には勝算があった、だけど今回は。くそ



 どうすればいい。



「ゴトー」

「どうすれば」

「ゴトー!!」

「はっ」


 俺の思考をぶった切ったのはゴーガの言葉だった。

 多分今の俺は怯え切ったようにしか見えないだろう。実際その通りだ。

 ゴーガは俺をまっすぐに見ていた。


「ゴトー、オレ、ガ、ヤル」

「無理だ、あんな奴」

「ゴトー、ハ、スキヲ、ミツケロ」


 俺が何かを言う前にゴーガは飛び出した。

 その後にはゴーガの手下がついていた。




 オークの攻撃を、最大限の安全マージンを取りながら避ける2匹。

 棍棒の風圧がここまで届いていると錯覚するほどだった。


 ゴーガ達の攻撃もまるで効いていない。



 俺はただひたすら嘆いていた。

「無茶だ、無理だ、…無謀だ」


 このまま逃げてしまえたら、そう思うが奴の視線が時々俺を見ていた。


「ゴトー、オレモ、イク」

「なんで」

「イキルタメ、ジー、ノ、タメ」



 言うが早いかギーは飛び出した。


 俺は自分が情けなく思えてきた。

 ジーは瀕死。ギーは飛び出した。ゴーガもその仲間も俺を信じて飛び出した。


 なのに、俺だけは動けないでいた。




「何で、戦うんだ」


 一方的な狩りとは違う。下手しなくとも死ぬ、そんな分の悪い戦い。


「何の、ために戦うんだ」


 ゴーガが見ていたのは俺だ。

 自分が敗れた後に殺されるかもしれない、息子おれだ。



 その時浮かんだのは、巣穴にいる家族だ。

 こんな奴がきたら彼らはなす術もなく殺されてしまうかもしれない。



 それが弱肉強食の世界のルールだ。

 当たり前のことだ。

 いいじゃないか、それが正しいカタチだろう。



 でも、その有り様は何だかとても







「つまらない」


 壊してやりたい、そう思った。


「『怠惰スロウス』!!!」


 体の中にめぐる力を感情のままに吐き出す。止まれ、そう思うと同時に言葉のろいが飛び出した。



「ググゥ」


 明らかにオークの動きが鈍る。


「『憤怒ラース』」



 理性が少し薄れる。大丈夫だ、まだ俺の思うままに動ける。


「がああああああああああああああ!!!」


 自分を鼓舞するように、吼えた。

 そして飛び出す。

 なんて体が軽い。流れる景色もいつもより速い。



 仲間に囲まれながらも暴れるオーク。

 既にゴーガの手下はオークの一撃を喰らい気絶していた。


 ギーとゴーガのみがオークと戦っていた。

 二人の間を駆け抜けた俺は、槍の穂先のように真っ直ぐオークへと突っ込んだ。


「ギュヒャ」


 俺の飛び蹴りを鳩尾に食らったオークは肺の空気を撒き散らし、地面を削りながら後退る。


「ハハ、変な鳴き声」

「ブググウウウウウウウ!!!!」



 呪術によって、遅くなったはずなのにそれでも目で捉えるのがギリギリの速度。

 受け止めたら、俺の体では耐えられない。


 そして、後に下がればリーチの差で攻めが遅くなる。


 残った選択肢は、前!!


「おおおおおおおぉ!」

「!!プギッ」



 しまった!

 懐に入ったは良いが、俺今何も武器持ってねぇや。



 いや、目の前に大きな弱点がぶら下がってるじゃないか。


「オラァああ!!」

「ゥウゥゥゥゥゥッ」


 金的に膝がめり込み、何かが弾ける感触が伝わる。よし。

 目の前のオークは口から泡を吹き出しながらも、俺を殴り飛ばす。



「あが」


 油断していた俺はそれをまともに食らってしまいぶっ飛んだ。

 しまった。憤怒ラースが切れた。怠惰スロウスが掛けられたかのような虚脱感が体を襲う。



 そして、その瞬間ゴーガが飛び出す。

 手に持った縄を首に巻き付け、背中にくっ付き、オークを締め上げる。


「フン」

「〜〜〜〜〜〜!!」


 声にならない声をあげるオーク。そこら中を暴れ回り、棍棒を振り回すも場所が場所だけに棍棒が当たらない。

 命の危険のせいか理性が戻りつつあるオークはそのことに気づき近くの木の幹に向かって背中を叩きつける。


「グッ」


 思わず声が漏れるゴーガ。その口からは血が流れていた。

 もしかして内臓がやられているのか。



 オークの背中と木の幹に挟まれ、叩きつけられながらも縄を持つ手は少したりとも揺るがずに力を込めていた。



 断末魔の声を上げながら、激しく暴れていたオークだがやがてその体から力が抜ける。



 俺たちは勝ったのだ。




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ちなみに、オークの名前はドドゥブです。

設定したは良いものの全然出なかったのでここで消化しておきます。

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