第13話 帰還
背中から倒れ、オークの下敷きになったゴーガはそれでも締め上げている。
首が半分ほどの太さになるほどに締め上げられており、どう見ても生きてはいない。
俺が何度も声をかけてやっとオークが死んだことに気づいてその手を離した。
「今、どかすからな」
「…ァァ」
そして、オークの巨体をどかしてから初めて気づいた。
「ゴーガ」
「…」
もう手遅れだった。機械でプレスされたかのように厚さを失った体は、命を失いつつあると否が応でもわかった。
俺はゴーガの手を握る。
「ゴーガ、何か言いたいことはあるか」
込み上がる嗚咽を抑えて、ゴーガの声に耳を済ませる。
「ミ、ィグニ、アリガトウ、ト」
「分かった」
「ソレ、ト」
「あぁ」
「ツヨク、ナッタ」
「あぁ、だろ」
「オレノ、カワ、リニ」
「分かってる。俺がみんなを守ってやる」
そこで握った手から力が抜けてしまった。
俺は抜ける空気を抑えるように彼の手を強く握りしめながら呼びかけるが、ゴーガは満足そうな顔をしたまま動かなかった。
俺はもう我慢できなかった。
「うっ……うぅ…っ〜〜〜」
情けない、そして何より申し訳なかった。
少し賢い程度で何でも出来る気になっていたガキ、それが俺だった。
ここで泣いてる時間なんか無いことはわかっている。だけどそれでも。
そう思いながら、おれは少しだけ、ほんの少しだけ泣いた。
◆
残ったのはギーだけだった。ギーは怪我はしているようだが、まだ動けるらしい。
「ギー、大丈夫か?」
「…ウン」
ジーを背負った彼はのそりのそりと歩いて行く。
おれもゴーガを背負ってついて行った。
後でゴーガの仲間の体も巣穴へと運ぶつもりだ。
俺たちの群れでは葬儀は火葬で行われる。
理由は知らない。どうでも良い。
無気力な思考に鞭を打ちながら、先のことを考える。
例の集落のゴブリンの長たるオークは殺した。
あの数を生み出したであろう髑髏は今おれの首に掛けられている。
ならばあの数から爆発的に増えることもないだろう。
ただ、こちらも主力となる者は死んでしまった。死については人一倍知ってるはずなのに人の死には慣れていないみたいだ。
確かに、祖父も祖母も早くに亡くしていたし、親が死ぬ前に俺が死んでしまったからなぁ。
とはいえ、おれとギーだけで100からなるゴブリン全てを相手取るのは無理だ。
ならば残る選択肢は一つ。
「引越し、かなぁ」
どう見てもあいつらと共生するのは無理だろうしな。
確か、ここが巣穴のある岩石地帯と森との間だから……。
「ギー、山と海、どっちが好きだ?」
「ウミ、ナニ?」
「そこからかぁ」
◆
巣穴の前まで戻ってきた。俺たちの気分が落ち込んでいるからか巣穴もいつもより静かに感じた。
ギーもずっと下を向いたままだし。
「ただいま」
俺たちの他に狩りに出るような者はいなかったはず。
なのに、何で血の匂いがするんだ。
俺はゴーガの体をゆっくり地面に下ろす。
ギーに合図すると、巣穴の奥へと走る。
「ミグ!ミート!みんな!!」
呼びかけながら、いつもなら仲間たちがいる広間とも言えるところに差し掛かった時、中の様子が見えた。
「は?」
そこには、巣穴で生活しているはずの仲間の死体と、その中で僅かに残った仲間を背に戦う長老の姿。
そして、相対するのは、——人間だった。
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