第14-1話 正しいセカイ

話のキリが悪いので三つに分けました。



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俺たちの巣穴を攻めてきたのは、人間だった。


長老の後にはミートの姿があった。助けないと


「長老!!」


「ゴトー!、っぐ」


長老を囲むのは4人の人間だった。


「おいおいおい、動きが鈍ってきたぞ」


一人は、緑のバンダナを頭に巻いた槍使い。


「油断しちゃダメだよ。このゴブリン、シャーマンにしては強い」


一人は、革鎧に身を包んだ剣士。


「ん、手強い」


一人は、黒ローブを身に纏った女魔術士


「皆さん、怪我にだけは気をつけて」


一人は、白い神官服を着た神官。



槍使いの一突きを長老が受け流す。

槍使いの流れた体に長老がカウンターを打ち込もうとすると、剣士が邪魔をしてくる。

その時長老にできた隙を魔術士が狙う。


「『火球ファイアボール』」


まっすぐ飛んできた火球を大きく避けると、地面に当たった火球が弾けて熱気が撒かれる。直撃するとひとたまりもないな。


「『怠惰スロウス』」


長老の呪術が槍使いにかかる。剣士は慌ててカバーに入ろうとするが間に合わない。

連携の間でできた隙を長老は狙いにかかる、が。


「『堅固レジスト』」


白魔術によって呪術による変化を打ち消される。

相手の状態を変化させる手段の多い呪術は、これらを打ち消す白魔術と非常に相性が悪かった。



だが、そんな状況で運のいいことに俺たちと長老は人間達を穴ぐらの両端から挟みちにしていた。


俺は、魔術士へと飛び出す。その手には既に槍があった。

俺の存在を脅威と判断した魔術士はこちらに杖を向ける。


「『火矢ファイアボルト』」


彼女の目の前で炎の矢が形作られる。

あと5メートルといったところで射出。


「はやっ」


あっっっつ!!

頭を振って避ける、頰が熱で溶けるのを感じる。

それでも前に出る。



「『ファイア…」


遅い。

そのまま彼女の喉元へと槍の穂先を突き出した。


「『聖盾ホーリーシールド』」


「くそっ」


魔術士の目の前に光の壁が展開される。

俺の体重を乗せた一突は硬質な音を立てて弾かれた。

その衝撃で穂先が柄から外れた。まずい、避け…


「…ボール』」


避ける間もなく俺は火球を正面から受け止めた。


「〜〜〜〜〜〜ぁ」


熱い痛い痛い痛いいたいたいたいたい痛い!!

粘着質な炎は俺が転げ回っても消えず、体を猛烈に焼き続ける。


地獄の痛みが俺を焼き続けるがしばらくたったところで急に火が消える。


魔術の効果が切れたらしい。

後には、黒焦げになった俺が残った。


「ぁぁ」


かろうじてまだ生きてる。

ただ、すぐに動くのは無理そうだった。

霞んだ視界の先で戦いの様子が見えていた。




俺の特攻によって魔術士と神官が俺に対応した時、同時に長老にはギーが加勢していた。


槍使いが剣士に声をかけようとする


「ち、なかなかやりやがる。ローレ…!」

「『怠惰スロウス』」


槍使いが意識を逸らした瞬間。

長老の呪術が槍使いを包み込む。本来であれば、神官が解除するはずだったが、俺の魔術士への特攻を防ぐために意識が逸れていた。

加えて剣士の介入もギーの存在によって遅れることとなった。


結果、槍使いは速度を失ったまま長老の攻撃を防がなかればならなくなった。


「ハッ」


長老は手に持った棒で槍使いの胴を薙ぐように振るった。

槍使いは慌てて腕を引き、防御にまわってしまった。


「ホッ」


そのまま、槍の柄によって防がれるかと思ったが、衝突の寸前に長老は棒を引き戻す。フェイントだ。


この展開を長老は読んでいた。槍使いは隙を晒してしまった。


加えて、突きという点の攻撃。



長老の一撃は槍使いの防御を掻い潜り、喉元へと突き刺さった。

頸椎に損傷を与えた攻撃は、棒という殺傷能力に劣った武器でありながら簡単に人間の命を奪った。




「グレゴリー!!!」


ギーを切り倒した、剣士、ローレンスは長老へと突撃し、距離を取らせた。

ローレンスはグレゴリーを背に庇うように長老へと剣を向けた。


「エイリー、グレゴリーの治療を」

「無理です。もう…」

「…すまない、グレゴリー」


そう言って小さく呟くと、決意を込めるように宣言する。


「仇は僕が取る!!」




そう言って、一人が欠けたパーティーは長老を相手取って戦闘を再開した。

しかし、4人で保たれていたものが3人で持つはずもなく段々と人間達は追い込まれていった。


「アーネット、もっと数を増やしてくれ」

「むり、限界」


眠たげにそう言い放った魔術士だが、剣士の頼みに答えようとより発動に時間のかかる火球ファイアボールではなく火矢ファイアボルトを連発することでより数多く援護射撃を打つよう変えた。



そんな膠着を破ったのは、俺たちの把握していなかったもう一人の人間の存在だった。


「動くな」


長老の庇うゴブリン達のさらに後から現れたのは黒づくめの人間だった。


「もう一度言う。動くな」



その手には、1匹の小さなゴブリン。


「おとー」


「み、ぃいと」


俺の妹だった。

猫か何かのように掴み上げられその首には短剣が添えられていた。


停止した戦場の中心にいた長老は、弱者を虐げる行為が許せないのか静かに怒りながら問いかける。


「その子ハ赤子だ、その手を離セ」

「無論だ。しかし、先にこちらの願いを聞いてもらう」

「…何ダ」


盗賊シーフは立ち上がりかけていた俺に目を向けると、腰に挿していた短剣を俺の前に転がした。


「お前だ、お前がこいつで刺し殺せ。そしてそこのお前は動くな」



そんな馬鹿な願いがあるか。

俺はプルプルと震える膝を押さえながら長老に声をかける。


「長老」

「ゴトー」


長老の覚悟は既に決まっていた。

ハハ、馬鹿だ。


「長老、あいつらが約束を守る保証なんか、ないんだ」


「いや、僕たちの目的はそのシャーマンさ。依頼はそれが死ねば達成だ」


そして続けて言う


「約束は誰としたものでも守る。それが僕たちの流儀だ」


俺の説得を間から割って入ったのは剣士ローレンスだった。

お前達に都合が良いように言ってるだけだろ。


「おい、早くしろ」


プラプラとミートを揺らしながら盗賊が催促してくる。


「ゴトー」


どうにか、奪還する方法は


「ゴトー」


全員を守る、そんな方法が


「ゴトー」

「長老」


「良いんダ、やれ」



俺の右手に両手を添えてゆっくりと胸元へ引き寄せていく長老。


「すまない」

「皆んなヲ頼む」


心臓を貫いた。


ナイフを握る手に伝わる振動がゆっくりと弱まっていくのを感じた。


喉元からせり上がる血液が口元を赤く染めながらも、真っ直ぐ、俺を見ていた。



「長ろ…」

「手が滑った」



首が飛んだ。


「は」




歪な球体がゴロゴロと地面を転がって、止まった。


「約束は『刺し』だったね」


ふざけるな


「ふざけるなよ」


「人間のマネが上手だな、ここのゴブリンは」


腹を刺し貫かれた。

そのまま蹴りを喰らいその勢いで剣が腹から抜かれた。


「すまないな。僕たちは弱いんだ。だから僕たちのために死んでくれ」

「あがぁあぁぁ」


痛みで声を漏らすがかえって痛みが増した。



「ジャスター」

「あぁ」


やめろ、


「おとー!」



おねがいだ、



「暴れるな」



やめてくれ、




「面倒だな」



無感情に言った盗賊は、その細い首をねじ…。




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