第9.5話 最近足がよく痺れるんだけど、なんで?
三つサイコロを振ったら6のゾロ目が出たので人間視点を描きます
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「っち、めんどくせえ事になってきたな」
D級冒険者パーティ『紺碧の炎』のリーダー、ルフレイフはゴブリンの物の思われる村の跡にたどり着いた時、思わず呟いた。
彼が救難信号の発生源であるこの村の跡を見て、ゴブリンの跡だと判断した理由はいくつかある。
一つは村の建物だ。
人間のものと比べてもサイズが小さく、成人して5年は経つ彼らがこの建物で過ごすことになったらひどく苦労することは明白だ。
そして理由のもう一つは魔物としての習性の話だ。
人間を殺さずに捕まえる、と云う行動をとるのはゴブリンがほとんどだ。逆にオークなどではとっとと殺してしまう。
ここ最近行方不明になった冒険者はいないらしいから、おそらく結構前の冒険者が信号を出したものと思われる。
そういった諸々の理由から既にゴブリンの影響は予測されていたが、ここに至って確信となった訳である。
しかし今後のために3つものパーティで来たは良いものの、今回の相手は死者が出るかもしれない。なぜなら、
「数が多い、それに肝心の人間もいない」
「ルフレイフ。もしかすると、ゴブリン共に勘付かれたのかも知れないですよ」
ルフレイフの思考に割って入ったのは、同じパーティの神官である、アイザック。彼は守りを得意とする地神の神官で、彼らのパーティの中でも最も年齢が高い。
そのためルフレイフは彼に意見を求める事が多かった。
「だろうな。この牢の中見てみろ」
彼が顎で示した先、格子の破られた牢の地面には明らかに致死量を超える血液が流れていた。そしてそれらはまだ新しいものだった。
「ああ、なんと。……彼の者に安らぎ在れ」
アイザックは悲痛な顔を浮かべながら、錫杖を体の前に掲げた。
「でもでも、あたしの感知には引っ掛かんなかったっすよ?」
「そうだ。つまり、それ程の手練れって事だ」
アイザックの予想に反発したのは、ティルシー、小柄な女性冒険者だ。
『紺碧の炎』で唯一の女性冒険者であるティルシーのクラスは盗賊だが、隠密には長けていない。しかし、それでもD級の盗賊として問題ない程度の能力は持っていると自負している。
その自分が見逃すほどの隠密能力と聞いて今回の相手の手強さに思わず歯噛みする。
「……」
彼らの後ろで黙りこくっている大男は、盾士のトラヴァン。
彼は寡黙な人間だが、盾という最も相手の攻撃に晒される位置で戦い続けるクラスであるだけに、熱い闘志を胸に秘めている。
今回も、仲間を護り抜くだけだ、と。
「はぁ、あいつらにも働いてもらうしかねぇかぁ」
まだ下級冒険者に足を踏み入れたばかりの弟分たちを頭に思い浮かべていた。
◆
「ぶっちゃけ、兄貴たち居れば余裕っしょ、ねー」
「「ねー」」
そこにいたのは3人の女性冒険者。
彼女らのリーダーは初めに能天気な発言をした赤髪ミーナ。
彼女は冒険者とは思えないほど派手な髪型をしている上に、爪にキラキラとした装飾をしている。
追従したのはミーナと同じような派手な格好をした二人の少女だった。
彼女たち3人は魔術士だけのパーティだった。彼女ら3人でE級冒険者パーティ『ピクシーズ』であった。
ミーナは火魔術士。残りの二人、青髪のシーナは水魔術士で金髪のディーナは風魔術士だった。
「油断するなよ、お前ら。というか少しは手伝え。あと化粧落とせ。ついでに香水も」
「コンちゃん注文多すぎ〜。あーしら魔術士だかんね。ここで、た・い・き、してるの!ねー?」
「「ねー」」
ミーナにコンちゃんと呼ばれたのはここにやって来た三つのパーティのうちの一つE級冒険者パーティ『守人の盾』のリーダー、コンラッドである。彼の仲間はあと3人、盗賊のアンドー、狩人のズナーシャ、斧使いのアルカストがいる。が、現在は村の内部に人間が捕らえられていないか探し回っている。
「全く、我々はギルドに頼まれて今回救命を目的として動いている。今は発信源思われる場所に来ている訳だ。それにも関わらず、人どころか魔物の姿も見当たらない上にこんな集ら……おい、聞いているのか」
「あ、ごめーん忙しくて」
ミーナは彼の言葉を聞き流しながら爪を弄って暇を潰していた。
どうやら、彼女にとってコンラッドの長話よりも爪弄りの方が重要な用事であるようだ。
「君たち!少しは動いてくれよ。仮にも今回は『紺碧の炎』のアライアンスとして来てるんだから、成果が何もないじゃボクも困っちゃうよ」
「あっ!ヴィルたん」
喧嘩する二人に声をかけたのは『紺碧の炎』最後の一人にしてルフレイフの右腕、槍士のヴィルマンだった。
彼は一応ルフレイフと同い年なのだが、とてもそうは見えないほどに華奢で女性と間違いそうな見かけをしている。
シーナとディーナに撫で回されながら、ヴィルマンは手をブンブンと振り回す。
「やめてくれよ、ボクは一応君たちより年上なんだからね!」
「かわいい、このほっぺ美味しそう」
「うちに飾りたい、ぬいぐるみと並べたらもっっとかわいーかも!」
そうやってヴィルマンが3人のギャルに揉みくちゃにされている時に、村の周りの茂みで音がする。
シュッ
その瞬間彼の瞳が細められ、背中に挿していた槍を抜き取ると同時に流れるような動きで高速の投擲が放たれた。
音の原因を目に見えぬ速さの槍が縫いとめる。
それに遅れてコンラッドが盾と剣を構えながらそれへと近づく。
「!?、ヴィルマンさん、オークです」
「残念、ゴブリンじゃ無いのか」
ゴブリンであれば痛めつけて仲間の居場所をはかさる事ができるのだが。
物騒な思考が頭を過ぎるヴィルマンだったが目の前の状況に意識を戻す。
「ギルドでは、オークの依頼出てたっけ?」
「いえ、最近は少なかったと思います」
オークは駆け出し冒険者にとって一つの壁となる。ここにいるメンバーは全員それを超えたものたちだが、もし群れであれば無視はできない。
「オークのスタンピード、かもしれない」
通常の何倍もの速度で増加した魔物が自身の縄張りを超えて侵攻を行う現象。それが
その前兆として、魔物の数が減る、というのが起こる。
魔物が危機に襲われる事で、自身の種を守ろうと進化が促される。それによって発生した進化種が下位の同族を従えながら頭数を増やす事でスタンピードへと繋がるのだ。
『紺碧の炎』のメンバーも一度駆け出しの頃にスタンピードに遭遇しておりその危険性を十分に理解していた。
「でも、ヴィルマンさん。俺たちが追ってるのはゴブリンですよ。それに足跡も東の方へ続いていて、オークの生息域とは離れてます」
「確かに、そうだね」
そう、既に逃げ出したゴブリンたちがどちらへ向かったかは足跡から確定している。
さっきやってきたオークはおそらく北からのものだ。
心配する必要はない。
ない、はずだ。
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