第7話 畢竟、ゴブリンとはゴブリンに過ぎない


 二、三十程もある木製の家はほとんどが打ち壊されるか、火が放たれているかのどちらかだったが、その中で戦闘の音が聞こえていた。


 まだ生存者がいる!


 俺は燃え盛る村の中を駆ける。途中には体の一部を潰されたような死体や、焼き殺されたような死体が転がっていた。

 それらのほとんどはゴブリンだが中には2、3匹のオークが紛れ込んでいた。


「くそ、襲撃者はオークの群れなのか」



 深層から侵攻して来たのか、それとも大きな群れが分裂したのか、これまでに無いほどの大きな脅威に俺の緊張は極限まで高まっていた。


 ここには、元狩人長だったズイクを置いていたので他の村よりは戦力は多いが、それでもオークの群れに対処できるほどでは無い。

 依代の力で成長したと言ってもその力は1対1ではオークに及ばない程度だ。


 そして100人のゴブリンを屠るのにオークは20体居れば十分だ。




 そして、広場にたどり着いた時俺が見たのは5体のオークとぶつかるゴブリン達の姿だった。


「ズイク!!」

「…シンシサマ!ミンナ、シンシサマガキタゾ」


 俺の姿にゴブリン達の士気が上がる。


 ズイク達ゴブリンは20人ほどの人数でオークと互角以上に渡り合っていた。

 力のある半分のゴブリンは棒を持ってオークの攻撃を受け流し、負傷を避けるように動き、残りのゴブリンがオークの隙を突くように投石や弓矢での攻撃。


 連携の取れた攻撃にオークも攻めあぐねているのがわかった。



 その戦い方は奇しくも俺が初めてオークと戦った時と同じ方法だった。


 これなら、勝てる。


「俺に1匹任せろ、あとは頼む」

「モチロンダ、シンシサマ」



 俺は横並びになった5体のうち、左端にいたオークに自らぶつかりに行く。

 勢いのままに頰に一撃叩き込んだ。僅かによろけたオークが俺を見下ろす。

 その目には怒りが滲み出ていた。


「お前の相手は俺だ」


「フゴ」



 俺とオークの戦闘能力は体格や技術を含めると大体互角程度だ。

 そして、



「『憤怒ラース』」



 これで、俺の方が上。


 振り上げられた右手の手首を受け止める。


「プギ!?」


 力を込めると、手首の骨がギリギリと悲鳴を上げ、その手に握っていた棍棒を取り落とす。

 慌ててオークは、俺の体ごと右手を振り回すとそのまま俺をぶん投げる。


 やっぱり、体重が軽いのは不利だな。



 空中で体勢を立て直した俺は崩れかけの瓦礫の上に着地。

 俺は向かって来たオークの顎をかちあげるようにアッパーを叩き込み、ふらついたところでこめかみに回転により勢いを増した蹴りを入れた。


 脳を揺らされたせいで直立出来ないオークに俺は止めの貫手を繰り出した。

 ん?


「ゴフ…」


 喉を貫かれて絶命したオークを横目に俺は先ほどの違和感を振り返る。

 止めの貫手を放つ瞬間、僅かに右手が光を纏っていた。


「まるで、人間達の使っていた武技みたいに……、いや、今はそれどころじゃ無い」



 俺はゴブリン達に加勢し残りのオーク4体を仕留めることができた。




 ◆




 こちらの犠牲は5人程。あれだけのオークが来たことを思えば少ない方だろう。


「ホクセイの村は放棄する。お前達、生き残ったものを連れてニシの村へ後退するぞ。ズイク、お前が指揮を執れ」


「マカセロ、シンシサ…」


 バンッッッ



 振り下ろされた巨大な槌。


 残ったのは僅かな血痕。



 その後ろには、これまでに無いほどの巨躯を持ったオーク。


 ただし、それはただのオークではなく。




「進化種、だと」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る