第8話 オークウォリアー


 進化種。


 それは、人間のステータスシステムと対をなす、魔物が持つ特殊な成長方法だった。


 他の生物を殺し続けた魔物はそれまでの経験に応じて、特殊な形態変化を経て、より力強い魔物へと進化を遂げるらしい。


 オークであれば、オークウォリアー、オークソードマン、オークハンター、オークシャーマンなどなど。様々な進化先がある。


 そして、俺の目の前にいる一回りは大きなオーク、それは紛れもなくオークウォリアーだった。




 ◆




「こいつは、俺が足止めするっ!!!!逃げろ!!!」


「ブヒヒヒひひひ!!」


 身長が2.5メートル以上もある巨大なオークウォリアーは身の丈ほどもある金属製のハンマーを振り回し周囲にいるゴブリン達を蹴散らしていく。


 槌先についたトゲが触れるゴブリンの腕や体を削りとり、血液が地面に撒き散らされる。


 木製の家も触れるだけで柱が削り取られ瞬く間に木屑へと変えられていく。



 そして、遠くからも悲鳴が聞こえていた。


 オークの援軍か。と言うことはさっきのは先遣隊って奴なのか。

 もしも、進化種が他にも居るならばもう逃げ切ることすら不可能だ。



「ふぅ」


 紛れもない危機。


 周りには逃げ惑うゴブリン達。


 守るものが、居る。その状況で理性を保てるかどうかは賭けだ。

 ここが、ターニングポイント。





「『捧げよ、さすれば与えられん』」


 村中のゴブリンの死体が闇に呑み込まれる。

 ついでにオークの体も。


 その不気味な様子に思わず周りを見渡すオークウォリアーだが俺がこの現象の中心にいることすら奴は気付いていないだろう。



 そして、俺の手に現れた靄が緑の肉塊を産み落とした。

 掌に収まる程度の肉だが、一口と言うには大きいかもしれない。


 俺は大きく口を開けると、噛まないようにしながらそれを呑み込む。



「んぐ、ごく」




 ああ、なんて





『あし』『て』『うで』『あし』『うで』『あたま』『あし』『うで』『あし』『うで』『うで』『うで』『て』『あし』『うで』『うで』『うで』『あし』『あし』『あたま』『うで』『うで』『あたま』『あし』『うで』『うで』『あし』『うで』『あたま』『うで』『あし』『あし』『め』『あたま』『うで』『うで』『め』『あし』『うで』『あし』『うで』『うで』『あし』『うで』『あし』『め』『あたま』『うで』『あし』『こころ』『うで』『うで』『うで』『うで』『うで』『うで』『うで』『うで』『うで』『うで』



 頭の中に響く声を無視して、俺は魔力を練る。



 発動するのは俺の使える最強の呪術


「『赫怒いぃぃら』ああアアア!!!」




 腕が赤く染まる。溢れ出た魔力が、血煙のように体に纏わり付く。

 身体中の血管が浮き出て、心臓が鼓動を早く打ち出す。



 モノクロの視界の中、俺は迫り来るオークの姿が鮮明に見えていた。


 金槌を振り上げながら迫るその姿はさながら修羅のよう。


 こちらも迎え撃とうと、足の裏で地面を掴むように力を込める。

 その力に耐えきれず地面に亀裂が走る。



 オークが振り下ろす寸前、その胴体に砲弾のような速度で衝突する。


 不意の衝撃にオークが目を白黒させる。



 このまま止めだ。


 構えた手刀を喉へ突き出す。

 そこで、オークの魔力の流れが一気に変化する。


「『ぱワー』」


 一気に右腕が膨れ上がる。


 まずい。


 俺の防御をすり抜けた拳が鳩尾に突き刺さる。


 衝撃で俺のあばらと、オークウォリアーの拳が砕ける。どうやら相手の呪術は防御を捨て攻撃を一瞬だけ倍増させるものらしい。


「……ァカハッ」



 瓦礫に突っ込んだ俺は吐血しながらも、奴を見据える。



 そこには、首が不自然に曲がったオークウォリアーの姿。


 手刀での貫手が届かないと察した俺は、咄嗟に体勢を変え、全ての力を込めて蹴りでのカウンターを奴の頭部に決めたのだった。




「今回は俺の勝ちだ」


 色の戻った視界の中で俺は一人勝鬨をあげた。


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 今回の成果

 ゴブリンの『うで』×22

 ゴブリンの『あし』×16

 ゴブリンの『あたま』×6

 ゴブリンの『て』×2

 ゴブリンの『め』×3

 ゴブリンの『こころ』×1


 オークの『うで』×8

 オークウォリアーの『うで』×1

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