第7話 クマヤマ砦前の戦い 後編
「!?」
帝国軍の隊長とやらを片付けた所で、砦の中央あたりから大きな爆発音が響く。
周囲の帝国兵たちも驚いてそちらを向く。帝国側も知らない事態のようだ。
見ると大きな火柱が上がっている。
いや、火…というか、あれは溶岩だな。
「『
文字通り指定した場所から溶岩を噴出させる魔術だ。
戦争という多対多の戦闘だと広範囲の魔術の効果というのは大きい。
初めて見た第五圏の黒魔術に静かに感動と驚異を覚える。
対する帝国側もやられるだけでは無い。
第四圏の魔術『
氷が溶けて、さらに急激に水が蒸発する事で中央から異様に濃い霧が発生する。
戦場全体が霧に包まれる事で、手を伸ばした先すらも霞んで見えるほどの視界不良となる。
「風だ、風の巫術を」
目の前で叫び声をあげた兵士の口を膝蹴りで封じる。
この状況は砦に攻め込んでいる俺たちからすると有利だが、逆に時々飛んでくる矢が視覚で捉えることがほぼ不可能となったのは少し怖いな。
「ぎゃあ!」
「っいてぇ!」
「どけ!こんなところにいられるか!」
俺が視界に入る兵士たちをちぎって投げちぎって投げ、していると砦の上にポツポツと他の冒険者の姿が見えるようになる。
どうやら無事に梯子をかけることに成功したらしい。
もしかすると濃い霧が炎の巫術によって梯子を燃やすのを妨げているのもその理由かもしれない。
一度侵入が叶えば後は容易だ。
段々と帝国兵たちは押し負けていき、逆に『
「ハハ!このまま蹂躙おグゥ!」
調子に乗って叫び声を上げた冒険者の脳天に矢が刺さり、砦から落ちて行く。
優勢とは言え油断できるほどでは無いということだろう。
◆
「「「「ウォオおおおお!!!」」」」
中央に攻め込んだ聖国軍の騎士達が勝鬨をあげる。
一度傾いた趨勢は覆す事はできず、結局聖国優勢のままクマヤマ砦は落ちた。俺たち冒険者は騎士の指示によって砦の中の死体を集めて砦の外の一ヶ所に集める。
その間他の隊は何もしないという訳ではなく砦が使えるように、掃除や修復をしていた。どうやら今日は冒険者も砦の中で休めるらしい。
砦なので、それほど設備が充実している訳では無いが、テントよりは寝心地は良さそうだ。
部屋は冒険者パーティごとに与えられた。
砦から少し離れた所で積まれた死体と、そしてそれを埋めるための穴が空いている。それらの死体はほぼ全てが裸だ。
彼らの身につけている価値ある物は全て冒険者の懐に収まったからだ。
そして、その前には聖女の姿があった。彼女の周囲を銀の騎士達が厳重に警護している。どうやら聖女が何かを警戒しているのは確かのようだ。
彼女が死体を前に杖を構える。そういえばこの光景はレトナークでも見たな。
「『
微かに呪文が聞こえた。
死体の中から緑や黄色の暖かな光が溢れ出て、そして空へと登って行く。俺とフィーネはその様子を砦の上から見下ろしていた。
「綺麗だが、この光は何なんだろうな」
「霊よ」
霊といわれると幽霊を思い浮かべる。彼女はそういう意味で言ったのでは無いとはわかるが。
「霊?」
「体と魂を結びつける物。心とも言うけど」
いきなり胡散臭くなったな。
「フィーネはそういうの、信じるタチなのか…」
「どういう意味?」
フィーネは心底不思議そうに言った。
「いや、そういう事って誰から聞いたんだ」
「あぁ。ゴトーには見えないのね」
揶揄っている訳では無いらしい。
「生き物は魂からの力を、霊を通じて体に送ったり、逆に体が得た物を霊を通じて魂の持つ力に変えるの」
「はあ」
魂がバッテリーで、霊がケーブル、体がモーターみたいなみたいな感じか。
「魂は減るのか?」
「生きてる間は減りはしない」
そこはバッテリーと違うのか。
「じゃあ死んだらどうなる」
「魂が見えなくなる」
「消えるって事か、それともどこかに行くって事か?」
「さあ?」
そこは彼女にも分からないという事か。
「魂が消えると、残った霊が崩れて魂のあった所を埋めて動くようになる。それがアンデッド」
「アンデッドってそうやって出来てたのか!?」
思いも寄らない所で魔物の秘密を知った気がする。
ん?それならバンシーはどうなんだろうか。
「人間の分類ではバンシーはアンデッドだったんだが、魂はあるのか?」
「同族には魂があったから、アンデッドじゃ無い、と思う」
「そうか」
案外人間も適当だと思ったが、普通は魔物本人に聞くなんて事はできる筈が無いと思い直した。
「ああして、霊を光にして燃やしてアンデッドにならないようにしてる」
アンチアンデッド化はそうやって行われていたのか。
死体に霊が残ると、アンデッドになってしまう。
だから防ぐためには体か霊のどちらかを無くす必要がある。
霊を消費するのが『
そして、魂は力の源…。
「あ、という事は強い奴程魂は、大きい?のか」
「そう、金色の奴とかは遠くからでも見えるくらい大きい」
そんな感じで見えるのか…。
「へえ、じゃあ俺はどのくらいだ」
「すごい小さい」
なんか器が小さい奴って言われたような気持ちだ。
「……本当に?それなりに強いつもりだけどな」
「…魔物は魂の割に強いのが多いからそんな感じだと思う」
「そんなものか」
「そんなものよ」
適当だな。
◆
夜半、俺は死体の埋められた場所に近くへと赴いた。
「『捧げよ、さすれば与えられん』」
現れた肉を胃の中へ流し込む。
美味い、美味しい、美味しいな。
『こころ』『うで』『て』『こころ』『うで』『め』『こころ』『こころ』『うで』『うで』『あたま』『きば』『うで』『こころ』『あし』『こころ』『うで』『て』『あし』『こころ』『こころ』『こころ』『こころ』『うで』『こころ』『あし』『こころ』『あたま』『あし』『あし』『あし』『うで』『うで』『あたま』『うで』『め』『うで』『うで』『こころ』『うで』『て』『あたま』『うで』『め』『うで』『あたま』『うで』『あし』『あし』『あたま』『て』『あし』『こころ』『め』『うで』『あし』『うで』『きば』『あし』『うで』『こころ』『こころ』『うで』『うで』『こころ』『うで』『て』『こころ』『うで』『うで』『こころ』『め』『うで』『あたま』『あし』『あし』『め』『うで』『あたま』『うで』『て』『め』『こころ』『て』『て』『あたま』『あし』『うで』『こころ』『め』『あたま』『こころ』『め』『あし』『うで』『て』『うで』『こころ』『こころ』『あし』『こころ』『うで』『あし』『うで』『あし』『あたま』『こころ』『あたま』『こころ』『あたま』『うで』『め』『あし』『め』『め』『て』『め』『あたま』『あし』『うで』
「はぁ、痛ぅ」
ズキズキとした痛みが頭を襲う。かき氷を食べ過ぎた時のような感じだ。思わずこめかみを抑える。
落ち着いた所で立ち上がり、歩哨に見つからないように足音を消しながら近くの雑木林へと入って行く。
数分ほど歩き、十分に離れた所で地面に手を伸ばす。
魔力を回し、最近多用している呪術を発動する。
「『
その中から一つの物体を取り出す。
それはいつも食べる謎肉のようにブニブニとした感触の、黒色の塊。
これを以前に見たのは3年近く前、レトナークでのスタンピードの時だ。
そう、クイーンローチの卵だ。
俺はそれを林の中へと放り投げると、身を翻して砦へと戻って行った。
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🪳ハァイ
今回の戦果
冒険者の『うで』×4
冒険者の『あし』×4
冒険者の『あたま』×4
冒険者の『て』×1
冒険者の『め』×4
冒険者の『こころ』×3
帝国兵士の『うで』×30
帝国兵士の『あし』×16
帝国兵士の『きば』×2
帝国兵士の『あたま』×10
帝国兵士の『て』×9
帝国兵士の『め』×9
帝国兵士の『こころ』×24
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