第11話 その正義は邪悪を打ち破るか

 その数、三十数体。

 オークによる背後からの襲撃、それは冒険者達に大きな衝撃を与えた。



「なっ」

「ルフレイフ、まずい進化種が複数体紛れ込んでいます!」

「くそっ、折角こっちまで来たってのに」


 流石に彼らの連れてきた冒険者達もオークの上位種と戦える程ではない。それならば、ルフレイフ達『紺碧の炎』がオーク達を押しとどめて、その間に、残りの冒険者でゴブリンを討伐する、それが最善だ。


 わずかに口惜しく思いつつも、前へ出てきた『守人の盾』と入れ替わりに、まだギリギリ残っているバフの力を生かして、高速でオーク達の元へ下がる。




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 どうやら、こちらへ対処するのは二番手の冒険者達らしい。

 だが、彼らの攻撃を前にこちらのゴブリン達は逃げまどい、容赦無く切り捨てられる。当然だ、彼らは白兵戦ができないからだ。


 ひとまず、作戦は成功した。一人のゴブリンの命と引き換えに。


 そして、これまでの布石が生きる。




 柵を厚く作っておいたのも。


 初めに弓と石での迎撃を選んだのも。


 呪術を持つゴブリンを多く用意したのも。


 剣士が村へと入り込んだ時に、俺が投石を選んだのも。



『近接はそれほどじゃない』


 そう、思わせるため。



「ジジグワ!」

「おう」


 白兵戦を得意とする虎の子の強襲部隊が背後から飛び出す。

 20人近くの棍棒や、錆びた剣を手に冒険者達へと突撃する。


「増援きたっぽい!」

「くそ、こいつら本当にゴブリンかよ」


 同時に俺も、反撃に映る。

 体の中で渦巻くドロドロとした魔力、それを汲み上げ、練り上げ、呪術を作り上げる。


「『憤怒ラース』」


 発動するのは、すっかり『赫怒イラ』の下位互換となってしまった呪術。だが、この呪術にもメリットはある。

 それは、精神に作用する呪術であるために体への負担が少ないこと。


 そして、


「がああああああアアアア!!」

「ッッ痛!」

「ちょ、ディーナ」


 理性を失うこと。



 3人組の魔術士の一人を狙った呪術は無事発動する。

 ディーナと呼ばれた魔術士は手に持った杖を振り回して近くにいた2人を攻撃する。

 非力な魔術士の力だが、呪術によって無駄に強化された事で、同じく魔術士が魔術抜きに相手にするには中々に面倒な強さになっている。



 そして、仮にも敵の目前で背を向けた残りの2人の魔術士が餌食になるのは当然の理屈だ。


 一息に彼我の距離を食い潰し、彼女達の背後に忍び寄った俺は、狂乱している魔術士を押さえている1人へと一撃を繰り出す。


 が、寸前に横から飛び出てきた杖に防がれる。

 ガキイィィィン!

 3人組のリーダーと思われる赤髪の女だった。


「あーしを無視すんなし」


 そういうと同時に魔術士とは思えない体捌きでクルクルと体の周りで杖を回転させると、それに気を取られた瞬間に突きが飛び出す。


 こいつ、魔術士の癖に棒術も使えるのか!


 口から出かけた悪態を噛み潰し。

 足払いを飛び越え、突きを躱し、振り下ろしを受け流す。

 技量も身体能力も俺が上だが、これに付き合っては時間が掛かるな。



「『怠惰スロウス』」

「ぐっ」


 少ない魔力をこれ以上消費するのはこの後を考えても避けたいのだが、そうも言ってられない。


 向こうが魔術士であることを考えると効果時間は一瞬、だがそれで十分だった。


 僅かに鈍った振り払いを地面スレスレの踏み込みでやり過ごし懐に入ると、次の瞬間には左の貫手で肋の下から心臓を貫く。


「?かはっ、…なん、な…」


 訳も分からない様子で棒立ちのまま後ろへ倒れる。



 チラリとその向こうを見ると、狂乱していた魔術士は頭から血を流しながら倒れ、こちらへ杖を構えている魔術士の姿があった。


 やむを得ず魔術士で気絶させたか。手荒な方法だが正常化が出来ないならば対処法はそれだけだろう。呪術への魔力の供給を切っておいた。



 そのままもう1人も仕留めるべく踏み出した瞬間に魔術が発動する。


「『閃光フラッシュ』」

「やば…


 その意味を理解した瞬間、俺の視界を白が埋め尽くした。


 これは、…不味いっ!


 そして、数瞬の後に何かが迫る気配にその方向もわからずに守りを固める。


「『ブレイク』」

「!ァガッは」


 重っ!


 バキバキと何かが折れる音がする。


 左腕を差し出し、その重撃を受け止めるが体ごと持っていかれそうになるのを気合で持ち堪える。


 おかげで左腕はほとんど使い物にならないが、捉えた。


「つ、ぶねぇ」


 殆ど勘で突き出した拳が斧士アルカストの頰を掠める。

 わずかに漏れた声から俺は相手の位置を修正し、腕を振り切った態勢から背中を向け技を繰り出す。


 鉄山靠。


「んぶっっ」


 体格のためかダメージは少ないが、ここまで密着すれば間合いなど関係無い。


 襟首を掴み一本背負いで地面に叩きつける。


「ふざ、がはっ」


 受け身も取れずに地面に叩きつけられ斧士の呼吸が止まる。

 そのまま喉にスタンピング。


 パキリと音がして絶命を確信する。



 わずかに回復した視界で二人の冒険者が迫っているのが分かった。


 騎士の様な格好をした…コンラッドだったか。それと、彼のパーティらしき盗賊だった。


 彼らはジジグワ達が相手していた様だったが、この様子だと…。



「ふぅ」



 俺は右腕を構える。

 痛い。

 先ほどから残った左腕にズキズキと激痛が走っているが、意識的に痛みを脳内から追い出し、戦闘へと集中を高める。

 そして、魔力と感情を爆発させる。




「『赫怒イラ』」

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