最後の一人 中編
フィーネの物語(2/3)
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あの街を出て、どこに行こうかと悩んだ時、ふと元いた場所へと帰りたくなった。
薄霧の漂う墓地、だったことしか覚えていないけれど。
街の門番を斬り殺し、外に出た。
方角は分からないが時間はあるだろうと、適当に歩いた。
いくつかの墓地を周りながら、遭遇した人間は殺していった。
同じ力量の人間でも、剣を持っている人間は読み易いが他は慣れていないのか少し殺すのに時間が掛かった。
やがて、白霧の包む墓地についた。
わたしの記憶との差異を確認しながら墓地を回っていると、人間の姿が見えた。
それらはわたしを排除しようと脅してくるが、わたしには関係ない。
サーベルを抜き放つと同時に数人仕留める。
勝てないことを察した数人が、背を向けて走り出す。
面倒だと思いながらも、その背を追って斬り殺した。
前方には寝転がる一人の男と、それにのし掛かる一人の少年がいた。
少年は燃え尽きた灰のような髪色をしていた。
それがあなただった。
◆
あなたはわたしと同じく人間に傷つけられ、仲間を殺されたと言っていた。
わたしはあなたにこれまでのことを話した。
『……そうか』
自分とは関係の無いことなのに、あなたが酷く傷付いた顔で頷いていたのを覚えている。
『これから、よろしく』
あなたは手を差し出したけど、わたしは首を振った。
あなたとは目的を共有するだけだから、馴れ合うつもりは無かった。
それに、死にたがりと絆を結んでも、また一人になるだけだと思ったから。
『俺はゴトー』
だからなんだ、と思ったが直ぐに名前を聞きたいのだと気付く。
屋敷で呼ばれたものはそれほど良い意味では無かったし、わたしはあそこにいた人間が嫌いだったので名乗るつもりは無い。
だから彼女のつけた名前を名乗ることにした。
『ふ、ぃ、ね』
『フィネ、いやフィーネか』
それがあなたとの出会い。
◆
案の定、そのあとすぐ、呪術師を相手にあなたは死にかけた。
血だらけのあなたを運んで人間たちに治療させた。
ほら、やっぱりとわたしは思った。
あなたは三日後に起き上がれるまでに回復した。
人間の治療が良いのか、それともあなたがしぶといのか。
それから、あなたが勝手に死なないように、時折、夜にあなたを監視しに行くようになった。
そのせいで次の日は寝不足になる。
それも、あなたのせい。
◆
蟲の群れとも戦った。
わたしは疲れから不覚を取り、あなたに負担を掛けた。
『…ごめん』
『気にするな。俺だってフィーネに頼ったことは有る』
『……そう』
特に頼られた覚えはないけれど、そう言うのなら頼られたことがあったのだろう。
『フィーネ。体の痺れは無いか?』
『…ん』
『嘘だな』
『!…ちがう』
時折鋭いところは、あまり好きでは無い。
わたし達が街に戻った時、ニンゲンが龍と戦っていた。
星を落とすような魔物を相手に、一人のニンゲンが圧倒する。
『『
その時に見た、空と地を二つに分けるような斬撃が、わたしの脳裏に焼きついた。
◆
その後、すぐにわたしは進化した。
どういう存在になったかは直ぐに分かった。
体は治ったのに、心は昔以上に傷付いている。まるであの屋敷に連れ戻されたような気分にさせられる。酷く不快で惨めだった。
あなたが時折わたしのことを別人かもしれないと確かめに来るのは少し滑稽だった。
進化したことであなたを身長で追い越して、密かに喜んでいたのは、秘密だ。
◆
迷宮都市についた。
初めてみる迷宮は不思議で新鮮だった。
ひたすら戦い、そして帰って眠る。
あなたは首飾りを使って色々忙しそうにしていたけれど、わたしはそういう生活が嫌いでは無かった。
わたしの中で復讐が薄れていくのが分かる。
あなたとわたしの間で少しずつ何かがずれていく。
同時に進化の影響が我慢の限界まで降り積もってきていた。
溢れ出る何かを止める限界が近づいていってるのがわかった。
だから、焦る気持ちを戦いで紛らわす。きっとあなたもわたしを止められないだろうから。
『そんなに暴れたいなら俺が相手になってやる、よ!!』
わたしの気持ちをあなたは見透かしたのだろう。
結局私たちは衝突した。
『すぅ……俺を舐めるなよ、フィーネ』
『何度も挫けて、敗れて、倒れて。その度に立ち上がって来た。俺は、そういう——ゴブリンだ』
そんな事は知ってる。でも、心のどこかであなたを見下していたのだろう。わたしの弱さをあなたは受け止め切れないだろう、という戸惑いをあなたは打ち砕いてしまった。
あなたはわたしに守られるだけではなかった。
わたしもあなたに守られるだけではない。
『ゴトー』
『……どうした?』
『私、じぶんが何になったか、わかってた』
『……そうか』
『どうして、こんな物になったの?』
『……何でだろうな』
『……、どうしてっ…こんなっ…こんな!』
わたしはあなたに弱さを差し出した。
そうして初めて、あなたとわたしは仲間となった。
◆
その後、迷宮への遠征の中で、遂にわたしの種族の特性が抑えきれなくなった。あなたはわたしに気付かれないように、男達を遠ざけたけれど、わたしはもちろん起きていた。
遠征を終えて、酒場で宴を開いていた時、再びわたし達は襲撃にあった。どうやらあなたが裏でしていたことで不利益を被ったニンゲン達らしい。
そしてわたし達は分断されたが、それ程心配はしていない。
あなたはわたしと同じくらい、強いから。
そう思っていたのに、帰ってきたあなたは怪我をしていた。
イライラする。
怪我して帰ったばかりのあなたは、直ぐに地図を広げて次の遠征の計画を立て始めた。
『ここは?』
『そこだと砂中から現れる魔物に無防備になってしまう』
『ここならどう?広い岩場』
『そこだと起伏が激しすぎてテントを設置するのが難しい』
『ん、テントを設置できる岩場は?』
『二十二ヶ所だな、こことここと……』
わたしがあれこれと口を出してあなたがそれに答えながら地図に印を付ける。
『——だから、ここなら一番理想的だと思う。どうだ?』
夢中になって考え込んだり、逆に熱弁したりしている顔をぼうっと見ているとあなたがいきなりこっちを向いて何かを問い掛けてきた。
『ん、そう』
少し幼く見えたあなたがおかしいと思いながら、曖昧に頷く。
あなたは気恥ずかしそうにした後、一転して硬い顔をした
また、あなたは自分を責めている。
それは鈍いわたしにも分かってしまった。
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まだ続きますが先に、フィーネのユニークスキル説明を載せておきます。
◆ Tips:ユニークスキル『止水の理』 ◆
フィーネのユニークスキル。
効果は複合的なものだが、一言で述べると、演算能力の向上。
・見たり触ったりしただけの物を自分の中でトレースしてシミュレーションできる。
・聴覚の処理にこのユニークスキルを合わせることで、同族と比べても格段の範囲の索敵が出来る。
・見た感じの質感から、構造的に弱い場所を見切る事ができる。
・イメージトレーニングの要領でかなり現実に近いシミュレーションが頭の中でできる。
……などの恩恵がある。フィーネの化け物みたいな技量はこのおかげ。
ただ思考にしか影響がない事から、直接戦闘能力を強化しないのは残念なところ。
攻撃適性:★★☆☆☆
防御適性:★★☆☆☆
援護適性:★☆☆☆☆
成長適性:★★★★☆
敵の弱点を見抜く能力により効率的に相手に攻撃を加えられるようになるので攻撃適性は星2。
予測能力により効率的に相手の攻撃を躱す事ができるので防御適性は星2。
本人の感覚が優れる場合には広い範囲を索敵できるようになるが、その部分は魔術で代替できるので援護適性は星1。
並行してイメージトレーニングができるので執念さえあれば髪の毛の先の動きまで操る化け物じみた技量を手に入れる事ができるので成長適性は星4。
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