第14話 C級昇格試験
主人公の存在感薄め
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俺はイクサム、ギルドの職員だ。
元B級の冒険者で現在は主に昇格試験の試験官をやってる。
若い頃はバリバリ迷宮に潜って魔物をバッタバッタと殺しまくってた訳だが、最近になって体が動かなくなって来やがった。
息子と娘が働けるようになって俺がセコセコ働く必要もなくなり、ついには嫁にまで冒険者は辞めるよう言われちまって思いきって冒険者を引退することにしたんだ。
そしたら『折角なら冒険者としての経験を活かしませんか』って誘われたんでギルド職員になることにしたんだ。
今日はC級の昇格試験をギルドで行う事になっている。
普段であれば、迷宮内で実際に魔物の討伐や素材の採取をやらせて実力を測りたいもんなんだが、今回は試験の希望者が普段よりも格段に多いせいで、試験の際の監視者が足りてない。
つうわけで、模擬戦で昇格を決める事にしたらしい。
まあ上としては最低限戦えればC級の依頼を受けても死ぬことは無いだろうって判断だ。
細かい知識は後から覚えろってことだ。
ギルドの訓練場に集まった顔ぶれを眺める。
剣や斧で素振りをしたり、杖を握りながら瞑想をしていたりと熱心な奴らが多いな。
職員としては嬉しいことだが人の親としては生き急いでいないか心配だ。
その中に明らかに成人前どころか毛が生え揃っているか怪しい年頃の少年と、少年よりも年上の少女に目が留まった。
特に少年の幼さに……では無く、その片腕が存在しない事にだ。
渡された資料に目を通す、灰髪で隻腕の少年…これか、ゴトー。
出身はレトナーク……龍が出現したとこか、そうかぁ。
きっと龍によって家と家族を失って一人でここまでやって来たんだな。苦労したなぁ。
思わず少年の背景を想像して涙が出てきた。
だが、試験となれば俺は贔屓はしないぜ。公平に公正に、だ。
予定していた人数が揃ったと思ったところで、訓練所の中に歩み出る。
俺の存在に気づいた冒険者達は剣を納めこちらを向く。
周りを見渡し全員が注目してるのを確認してから叫ぶ。
「よぉし!全員揃ったな、それではC級の昇格試験を始める!」
「まず最初は一対一での模擬戦だ。一人3回は戦ってもらう。その内2回勝てばその時点で合格とする。また、魔術師などの後衛クラスのためにその後に二対二での模擬戦を行う。その際には既に合格済みの冒険者をペアとしても良いものとする」
若干後衛クラスにはすまんが、今回の試験はそんな物と割り切ってもらう。
訓練場を六区画に分けてそれぞれ別の職員の監視の下、模擬戦を開始する。
◆
「オラァ!!」
「『スラッシュ』!!」
「ぬおおおおお!!」
見てると模擬戦で勝つのは体格的に優れた冒険者がほとんどだな。
それに、ボチボチ武技を使いこなしている者もいる。対人での戦いにおいて武技は隙が大きい。
魔力を武器に纏わせるのも訓練する必要があるし、実戦で使用できる練度まで高めるにはさらに修練を積む必要がある。
C級になるには、それらの壁を越えている必要がある訳だ。
「フッ!」
槍使いが放った『スラスト』が相対する槌使いの無防備な脇腹へと吸い込まれる。
これは当たるな。
「そこまで!!勝者——」
俺は重傷となるだろう一撃を横から弾きながら二人の冒険者の間に割り込む。
その勢いで、槌使いが思わず後ろに転けてしまう。
槍使いは拳を握り勝利を噛みしめ、槌使いは悔しげに地面を叩く。
また次頑張りな。
そう心の中で思いながら元の位置に戻り、名簿に記入する。
「次!——とフィーネ!前に出ろ!」
お、この子はさっき見ていたゴトーの隣に居た娘だな。C級の試験となれば若い冒険者は減ってくるがそれでも成人前から冒険者として登録していた者や、ユニークスキルを持つために成長の早い冒険者はいるからな。珍しいってわけではない。
この子がそのどちらなのか分からないが、落ち着いた立ち振る舞いからして前者だろうな。
するりと抜いた反りの入った剣を構える。
その鋒は地面すれすれの位置で静止していて、とても苛烈な攻めに対応できるようには思えなかったが、それでも堂に入っていた。
対するのは槍使い。身の丈ほどのシンプルな槍の中心あたりと石突近くを持って安定した構えだ。
「始めぇ!!」
「『ラピッドスラスト』!」
開始の合図と共に槍使いがフィーネへと迫る。
槍の穂先は銀光を纏っている。対するフィーネは少し姿勢を前に倒すのみ。
『ラピッドスラスト』は威力を犠牲にその分速度を重視した応用の武技だ。
それをこの速度で行使できるとなれば槍使いの昇格は間違い無いだろう。
同時に介入の為に足に力を溜める。
がその力を解放する必要はなかった。
槍使いの攻撃が、一撃必殺を狙う獣の牙だとすれば、彼女のそれはひたすら静かな湖を思い浮かべる。
それほどに静かだった。
剣の刃で相手の一撃に優しく触れることで、武技は流れが導かれる様に斜めへと方向を変えて解き放たれる。
「ぬ!」
攻撃の失敗を悟った槍使いが慌てて槍を引こうとするが、既に彼の眼前に切先が突きつけられていた。
今のは槍を捨ててでも下がるか、石突での攻撃に切り替えなければならない場面だったな。
「勝者フィーネ!」
それにしても武技に対して武技を使わず勝利するとは…。
かなり余力を残しているな?
ひょっとするとフィーネは剣聖クラスを目指してるのかもなぁ。
剣士クラスの中でも剣聖クラスは難易度が高いからな。
Lv25で解放される上級クラス、その中でも高レベルの剣術と速度を上げる瞬敏スキル。何より大きいのは、盾スキルやその他の武器スキルを持たないこと。
どんなに剣術レベルが高くとも駆け出し時代に盾スキルをLv1でも取得してしまったらそのクラスにはつけない。
剣聖っつうのはそれだけの条件をクリアして初めて就けるクラスだ。
そんなことを考えてたら注目していた名前が対戦名簿にあるのを見つけた。
「次!——とゴトー」
記録を見ると既にどっちも一勝しているようだ。
つまり後一勝すれば良いわけだ。
ゴトーは見るとここにいる冒険者達の中では珍しい無手だ、手甲すらもしていない。格闘を主体とする冒険者は珍しくは無いが手甲、足甲も装備しないのはほぼ見たことは無いな。
対する冒険者は双剣、これまた珍しいな。
剣士が結構いるから双剣もいると思うかもしれないが、これが全然違う。
まず技量がいる。人間っつうのは二つのことを同時にこなすようにはできてないからな。最悪二つの剣がぶつかり合ってしまうなんて話も聞く。
そして腕力がいる。向こうが剣士だったら両手で使う剣に対して片手で防御したりしないといけなくなる。威力も確保しづらいから魔物相手でも使いづらい。
「始め!!」
「ふっ」
始まった戦闘は、剣士の優勢で幕を切った。
左の一本で牽制しながら、ゴトーが懐に入ろうとしてきたら右の一本で一撃を狙う。
実にいやらしい戦い方だが、双剣の使い方としては正解だ。
ゴトーは痺れを切らしたのか、剣士の周りをステップで回り込む。
これで牽制となっている左の一本を潜り抜けようというのだろう。
だが相手もそれを警戒して左の一本の照準を外すことはしない。
右に左にと剣士の周りをぐるぐると回る硬直状態に持ち込まれる。
うーん、終わりそうに無いな。発破をかけた方がいいか。時間切れだとどちらも負けということになるからそうしとくか。
口を開こうとした時、いきなりゴトーが踏み込んだ。
痺れを切らしたか、と思ったが一瞬剣士がゴトーを見失っていた。
そのまま潜り込んだゴトーに金的に一撃を入れられた剣士がその場に崩れ落ちる。
そうか、左右の動きに相手を慣らした後で急激に上下の動きに変えて相手に捉えられないようにしたのか。
外から見ると剣士の動きは滑稽に見えただろうが、実際に体験するときっと本当に消えたと思うだろう。やるじゃねぇか。
「勝者ゴトー」
気の毒な剣士の前で勝利宣言をして次の模擬戦に移る。
既に二勝した彼はこれでC級が確定となる。
隻腕の格闘家か、いい冒険者かは分からないが、どうなるか楽しみな冒険者だな。
俺は灰髪の少年の背中を見送った。
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今思うと、灰髪で隻腕で徒手空拳で戦って見た目は少年(中身は幼児)って属性多い感じがしてきた。もっと地味なつもりだったのに…
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