第13話 四章リザルト

 俺はその光景を前に納得と驚愕と同時に覚えた。

 

 納得は黄金の騎士の実力。

 聖女の側を守る騎士達を率いる存在が弱いはずが無かった。

 聖女はこの勝利を見据えて動いていたのだろう。


 驚愕は黄金の騎士の使用した力。

 今まで見て来た武技、白魔術、黒魔術、呪術、そして地龍の使用した魔法とも毛色の異なる力。

 

 ユニークスキル。


 ただ、俺が驚いたのはその力を使用した事では無い。


『堅牢たる自守』

『貫徹する自身』


 彼の唱えたスキルの名前は、この世界・・・・の言葉では無かった。

 そして、俺には彼の発した言葉の意味が分かった。それが示すことはただ一つ。


「日本語、だと…」


 

 彼らの様子を遠間から見守り、現在は勝利に沸く冒険者達の中で俺だけは混乱の真っ只中にあった。

 彼も俺と同じく、この世界に転生したという事だろうか。

 だが彼の外見を意識して見ると、顔立ちは日本人のそれだった。


 どうやら、この世界に日本人を引っ張ってくる方法があるらしい。

 もしくは、穴に落ちるように勝手にこの世界にやってくるのか。


 前者であれば、教会がその技術を保有していることになる。


 そうなると疑問が次々と湧き出てくる。

 なぜ、日本人なのか?

 なぜ、異なる世界から引っ張ってくる必要があるのか?

 なぜ、これほどに強いのか?

 なぜ、秘匿するのか?

 なぜ、なぜ、なぜ…。



 いずれの疑問も教会に馬鹿正直に尋ねる訳には行かず、今は胸の奥に仕舞い込んでおく事にした。

 漁夫の利を狙うには騎士達に余裕がありそうだし、この戦いの結末を見れただけでも良しとするか。

 後はなるべく彼らの目に入らないように戦後処理を手伝う事にする。




 ◆




 更にもう一度夜が明けた。

 俺たちがクイーンを討伐したためかは分からないが、俺が街に戻った時点でまばらになっていたローチは、生還した冒険者達によって街周辺では普段より少し多い程度まで駆除された。


「腕だけですが見つけました」

「そうかぁ、残念だがこれじゃ分からないな。それと君、成人前だろ。きついようならもう街に戻っても良いんだよ」

「いえ、知り合いがいるか確かめたいので」

「…そっか。ただ、この状況だとほとんどは分からないだろうね」


 青年の衛兵に周辺の岩陰から発見した腕の一つを見せると、悲しそうに眉を寄せてそれを受け取った。

 門の前には夥しい数の麻布の上に死体が並べられていた。


 地龍の降らした隕石により、聖女に守られなかった人間はほとんどが蒸発して即死、または体のほとんどが失われて即死。

 そうでなくとも、爆発によって音速を超える速度で放たれる石礫により体を撃ち抜かれて死ぬ。

 運良く中心から離れ、石礫に晒されなかった人間も森中に散らばっていたローチの大群により体力を失ったところを生きたまま食われる。


 そんな状況下で腕だけでも見つかるのは稀有なことだろう。

 ただ、これが誰なのか判別することは出来ない。


 街で守られていた人間は、そんな誰かも分からない死体を前に泣き崩れることとなった。


 もちろん、レトナークも無事とは行かなかった。

 聖女の守りにより直接の攻撃を受けることは無かったが、隕石の影響で打ち上げ荒れた岩石が家屋を破壊していたし、地龍の咆哮により街中が恐慌に陥っていた。


 それでも、街の外の様子を見れば冒険者達がどれほど激しい戦いをしたのか察したのだろう。彼らは静かに勇者達を偲んだ。



 そして、探せる限りの遺体を街の前に並べ終えた後に、人々の前に騎士を従えた聖女が現れる。


 聖女ウルルは戦闘時の機能性に飛んだ神官服から、白地に添える程度の金のラインの入った装飾の多い祭事用と思われる服装に着替えていた。


 人々のざわめきが収まるのを待って彼女は言葉を紡いだ。


「レトナークの英霊、人々を守りし勇士に、穏やかな眠りを」


「『鎮魂マインドライト』」



 その声は澄んでいて、張り上げなくとも俺のいるところまで届いた。

 アンチアンデッド化の白魔術だ。中位以上の神官であるのならば修めている白魔術だ。


 声と共に何かが彼女の周囲に広がる。


 それに呼応するように遺体の至る所から、淡い光の球が浮き上がる。

 光球はそれぞれに微妙に色合いや光度は異なるが大体緑と黄色の間の色をしていた。


 それが本当にゆっくりと、風に時々揺られながら宙を登っていく。


 俺にはそれが空へ落ちる雪のように感じられた。

 死後に現れる鬼火と比べるには神々しく静謐で、不覚にも俺はその光景見入った。


「…」


 俺の隣に立つフィーネも同じく、息を呑んで光の群れを眺めていた。

 周囲の人々も誰も言葉を発さずに、光球が空へと消えるのを見守っていた。



 聖女は仕事を終えると、人々を萎縮させないためか足早に街へと戻っていった。

 彼女の隣には黄金の騎士の姿があり、聖女に笑顔で話かけていた。

 何を話しているのかは気にはなったが彼らに近づいてロクなことは無い。


 大人しく埋葬に従事する事にした。


 名前の分かる遺体は遺族が金を払ってそれぞれに埋葬するが、身寄りの無いものや身元の分からない遺体は大きく掘った穴に全てを放り込まれて、巨大な石碑に人数と分かる分だけの名前を刻まれる。


 俺は力が無いと思われたのか、フィーネと共に遺体から鎧や装飾品を剥ぎ取る仕事に従事した。この剥ぎ取った装備達はきっと街のお偉いさんの物となるだろうに、それをせっせと拵えているのは酷く虚しく感じた。


 俺と同じ作業を担当している人間の中には宝石の嵌った指輪などをくすねている者もいる。確かにその程度の旨味が無いとやってられないのだろうが俺はそんな気にはならなかった。


 どうせ、そんな物より大それたもの・・・・・・を盗むのだから。



「っち」


 自分の作業を終えた隣の男が俺の作業が遅々として進まないのを見て舌打ちをする。

 俺がそちらに目を向けると、睨み返してくる。


 知り合いでも死んだのか、機嫌が悪いらしい。


「な…」


 なにか用か、と問いかけようとした時、隣から細い指が伸びてくる。

 フィーネの物だ。


「…すまん」


「いい」ふるふる


 立場では冒険者では無い彼女は作業を手伝う義務はないのだが、どうやら暇だったらしい。手伝ってくれるのならありがたいが少し申し訳なかった。




 ◆




 時刻は夜。

 場所は死者の名前が刻まれた石碑の前、誰も居なくなったそこに俺はひっそりと現れた。


 胸元から血石の髑髏を取り出した時、丁度雲の間から月の光が差す。

 そこにある数百の死者の名前の内の二つが目についた。


『ファイース』

『シクロ』


 大声を上げる少女と子憎たらしい魔術師が頭に浮かぶ。

 何のことは無い。俺が知らぬ間に二人が死んだというだけの事だ。

 D級でもなりたての彼女らがスタンピードに遭えばこういうこともある。


 依代を強く握り、いつも通り呪文を唱える。


「『捧げよ、さすれば与えられん』」


 黒い渦が大きく広がり、土の中に埋まる死体を飲み込む。

 ゴゴ、という低い音ともに僅かに俺の立つ地面が揺れる。


 同時に赤みがかった肉塊が掌に現れる。心なしかいつもよりずっしりとした重みを感じる。そして、肉塊を口に放り込み噛まずに呑み込む。


 うん、いつも通り美味い。
















『あし』『あたま』『こころ』『て』『こころ』『あし』『あたま』『あし』『うで』『うで』『あし』『あし』『あし』『て』『こころ』『うで』『うで』『こころ』『め』『あたま』『め』『こころ』『うで』『うで』『うで』『こころ』『うで』『あし』『め』『あし』『め』『あし』『うで』『て』『うで』『あたま』『こころ』『こころ』『て』『あたま』『め』『あし』『あたま』『うで』『あし』『あし』『あたま』『め』『め』『うで』『て』『め』『うで』『こころ』『あたま』『うで』『うで』『うで』『こころ』『こころ』『あし』『こころ』『こころ』『きば』『あし』『うで』『て』『あし』『あし』『うで』『うで』『め』『うで』『め』『こころ』『うで』『て』『こころ』『て』『こころ』『て』『て』『あたま』『あし』『あたま』『うで』『て』『うで』『うで』『て』『うで』『め』『うで』『こころ』『て』『こころ』『あし』『うで』『あたま』『あし』『あたま』『こころ』『こころ』『うで』『あたま』『こころ』『うで』『あし』『きば』『あし』『こころ』『うで』『うで』『て』『うで』『こころ』『め』『うで』『こころ』『あたま』『あたま』『こころ』『あし』『うで』『め』『うで』『こころ』『あし』『こころ』『うで』『め』『うで』『こころ』『うで』『め』『うで』『こころ』『こころ』『こころ』『て』『て』『うで』『うで』『こころ』『こころ』『て』『こころ』『あし』『め』『あし』『うで』『め』『きば』『うで』『こころ』『うで』『あし』『こころ』『こころ』『あたま』『あし』『こころ』『こころ』『うで』『あたま』『め』『あし』『こころ』『あたま』『め』『こころ』『こころ』『あし』『あし』『て』『こころ』『うで』『うで』『こころ』『うで』『こころ』『あし』『あし』『うで』『あたま』『あたま』『うで』『め』『うで』『うで』『あし』『あし』『うで』『こころ』『こころ』『あし』『うで』『あし』『こころ』『て』『あし』『あし』『め』『こころ』『あし』『うで』『うで』『あし』『あたま』『あし』『あし』『うで』『うで』『こころ』『うで』『め』『あし』『あし』『あたま』『こころ』『め』『め』『こころ』『うで』『うで』『うで』『あし』『こころ』『こころ』『て』




 頭がクラクラするほどに大量の声が頭に響く。数が多いためかその一部は、重なりあって聞こえる。ただでさえ人間味の薄いノイズ混じりの声であるのに、何度も同じ言葉を繰り返されると余計に気持ちが悪くて吐き気がする。


——依代による強化は俺が殺した者で無いなら、見知った相手でなければ起こらない



「ぉえ」


 胃の奥から込み上げてくる。


 口の中まで湧き上がるものが溢れないように口元に力を込めて手を当てえる。


 飲み込め、呑み込め…。


 嫌な酸味と体の反応で涙が出てくる。

 無理やり口の中の物を嚥下する。




「…はぁ…っ…はぁ」


 ここに止まれば異変を察知した人間がやってくるかも知れない。

 街の門は空いていない筈だから森で夜が明けるのを待つしか無いか。


 身を翻して森へと駆けるが、時々つまづく。

 身体能力が大きく変化し、感覚と能力にズレがあるためだろう。

 こんなことはこれまで無かった。


 それだけ強化されたということだろう。



 また、俺の一人勝ちだ。



 俺はよたよたと歩きながら空を見上げて笑い声を上げた。





——————————————————————————————


\(≧∇≦*)/ やったね!


今回の成果

冒険者の『うで』×62

冒険者の『こころ』×54

冒険者の『あし』×45

冒険者の『め』×24

冒険者の『あたま』×22

冒険者の『て』×20

冒険者の『きば』×3

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