第15話 黄昏
視界には空いっぱいの暗闇が写っていた。
酷く具合の悪い地面と、地平線の彼方にわずかに光が見える。
「何処だ、ここは」
俺はさっき依代の力を借りたはずだ。
ならばこの空間は依代に関わるものだろう。
上に広がる暗闇に目を凝らしてみる。圧迫感のある空だと思っていたがどうやら空ではなく天井があるようだ。あまりにも遠いから空のように感じていたが、どうやら違うらしい。
「?」
何かが聞こえる。一定のリズムで、段々とこちらに近づいてくる。
シャランシャランと金属が擦れるような音だ。
そしてうっすらとその姿が見えた。
「魔物、か」
その目から敵意を感じないがどう考えても動物という区分に入るものではない。
やがて、それは目の前までやってきた。
全長は40メートルはありそうだ。
六本足だがその胴体はネコに近いのにもかかわらず、頭は薄ら笑いを浮かべた真っ赤な人間の顔だった。
妖怪のぬえが近いかもしれない。
体の所々に走る緑の筋は拍動のように明滅しながら周りを照らしている。
俺は逃げることも、立ち向かうこともしなかった。
というより、できなかった。
生物としての位相、格が圧倒的に劣っていることが魂の底で理解できた。
顔が俺のすぐ前まで降りてくる。
巨大な目が俺をしばらく見つめる。
ギョロギョロと音がしそうなほどに忙しなく視線が動いた後、それはニンマリと嗤った。
「————」
何か言った、と思う。ホワイトノイズのような音を喉から出した後に、体に比べて酷く細く骨張った腕が俺の体へと伸びてくる。
「!」
そのまま、俺の体の中にとぷんと腕が沈む。
不思議と痛みはない。触れている感触もない。
しばらく、何かを探るように弄ったのちに腕が引っ張られた。
手が俺の体から出ると同時に、俺の体から何かの体が引っ張り出された。
ジーだ。俺の体からジーの体が引っ張り出された。
意味が分からない。ジーは俺よりもでかいんだぞ。
「—————あし」
何か言って、ジーの足を引きちぎった。
そして残った体を口に入れる。
そして、もう一本の手と合わせてジーの足を両手で転がした。
まるで団子を作るように両手でグルグルグル。
その冒涜的な光景に気を取られていると。
俺の体が別の手に押さえられていた。今気づいたがそれから新たに腕が生えていた。
暴れようにも、元々気圧されて動けない。
そしてなんとなくこの先も想像がつく
それの手の中に現れたのは小さな肉塊。
ああ、やっぱり。
ゆっくりと肉塊が俺の口元に近づいていく。
ごくん
ああ、やっぱり美味しくないよ、ジーの『あし』。
「————うで」
ゴーガの腕が引きちぎられた。
「—————みみ」
耳をそのまま突っ込まれた。
「—————あたま」
一緒に内職してた仲間だ。
「—————て」
力強い手だ、いただくよ、ギー。
「——————からだ」
長老の歴戦の傷痕が刻まれた肉体はそのままいただいた。
「——————め」
最後まで俺を見守っていた目だ。守れなくてごめん
「——————こころ」
小さい心臓だ。誰よりも小さい。踏みにじられた命だ。
全部、大切に、受け止めるように呑み込んだ。
◆
それは一仕事終えたかのように何処かへ消えていった。
神様が供物への返礼として力を与えてるものだと、思っていた。
ただ、
おぞましいナニカによってただ彼らの死が冒涜されただけだった。
そんなものに縋らないと闘うことすらできない自分が、それを許容する自分が情けなかった。
意識が浮上していく。
次ここにくる時は、奴らを喰らう時だと、心に誓って。
———————————————
今回の成果
ジーの『あし』
ゴーガの『うで』
ギーの『て』
長老の『からだ』
ミグの『め』
ミートの『こころ』
ゴブリン(内職仲間)の『あたま』
ゴーガの手下の『みみ』
その他のゴブリンの『あし』と『うで』
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