第14話 呪術師ストロケン・モーズ

ソニア視点


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(怖いです)


少女は今日のことを振り返る。

どうやらゴトーが言っていたような襲撃が私のところに現れたのだと、やっと思い至ったときにはすでに袋を頭に被せられて馬車で運ばれているときだ。


暗闇のせいで嫌な妄想が加速する。

この後、どのような目に合わせれられるのだろうか。


違法奴隷として売られる。


慰みものにされる。


殺される。



どれも結末は死だろう。

だが、それよりも兄と引き離されること、一人にしてしまうことが悲しく、申し訳なかった。


私にとって兄は、情の深い人だった。



病弱な私を養うために冒険者となった。

そこでも、面倒なことがあったらしいがそれについては詳しくは教えてもらっていない。



そのときに知り合ったのが、マルクスさんとゴトーさんだ。

マルクスさんは物静かですが兄さんのことを信頼しているのが分かる。


ゴトーさんは……よく、分からない。

時々、私を見て酷く寂しい顔をする。

邪な感情を持っていないと思うのだけど。




(あ、止まりました)


馬車が止まり、足音が近付いてくる。

体が抱え上げられ、肩に担がれる。


これまでの間、男達は一言も喋っていない。


そういえば、家に押し入ってきた時もそうだ。

淡々と袋を被せられ、そのまま馬車の荷台に放り込まれたのだ。



何処かの建物の中に入る。

音だけなので確信は無いがかなり広いところのようだ。


下に降りる。


(地下でしょうか)


「そこの部屋に置いてください」


ここで初めて人の声を聞いた。

抑揚の少ない声、だが酷く粘着的な声質だった。


石畳の地面に寝かされ、足の拘束を解かれる。



最後に頭の袋を取られる。

暗闇に目が慣れていたせいかランタンの光も眩しく感じる。


ぼやけた輪郭が徐々に定まっていき、やっと正面に男がいることが分かった。


正面にいた男は黒髪の長髪を後ろで束ねていた。

その左手にはチェーンが握られていた。ネックレス、だろうか。


「初めまして、大丈夫ですか?」


なにが大丈夫なのかは分からないが、取り敢えず頷いておく。


「僕はストロケン。ストロケン・モーズです」


「はあ…、私はソニアです」


「ソニアさん、ですね?いい名前です。実に可愛らしい」


その柔和な雰囲気に思わず自身の名前を言ってしまったが、何されるかわからない以上ここでは素直に答えたほうがいいのだろう。



「実は僕達、知りたいことがありまして、貴方に来てもらったんですよ」


「僕の率いる組織の一部、下部の下部ですがね。それが、殺されたようなんですよ」


「調べてみると、君たちの住んでるあそこの元の持ち主が関係しているではありませんか。」



男はねっとりとした口調で問いかける。


「貴方、何か知りませんか?」


男の黒い瞳に映る少女は怯えていた。


本能が警鐘を鳴らす。この男が気まぐれにその力を振るえば自分の命は簡単に吹き消されてしまう。

冬の真夜中に外に放り出されたかのように体の芯が凍りつき、歯がガチガチと音を鳴らす。




「あぁ、可哀想に。怯えてしまって声も出ませんか」


男はわざとらしく声を上げる。




「でも、大丈夫です。すぐに、


男は、左手のネックレスを私の首へと通す。


チェーンの先にハマったプレートが光を灯す。



「僕に服従してください。良いですね」


言葉だけでも、従っておくべきかと思ったけど、光を放つネックレスに嫌な予感がした。


「い、嫌です」


男は少し苛立った表情を浮かべる。

わたしの髪を掴むと地面に顔を押し付けられる。


痛い、痛い、痛い。



「やめて、やめてください」


「メスガキの癖に強情だね。分かったよ、こっちも本腰を入れましょう」



男は扉の横にあった杖を掴むと、呪文を唱える。


「『倍痛ワースペイン』」


何かが体を通る。

その瞬間、体が違和感を覚える。

さきほど、床に押し付けられた時にできた擦り傷、それが激痛へと変化する。



痛い痛いいたいたいたいいたいいたいいたいたい!!


「ぁあぁあああああっ!!」



「んふふ、痛いですか」


私が痛みに苦しむ様子をみた男が穏やかな笑みを浮かべる。

まるで、子供を見るときの微笑ましげな表情だ。


「こっちは、どうでしょうか」


そう言って杖のさきでグリグリと足を突く。

通常であれば血も出ないほどの痛みだが、それが今は太腿に穴でも空いたのでは無いかというほどの痛みに襲われる。


「〜〜〜〜〜〜っ!!」


声を出すことも出来ない。



(たすけて)


「ここは?ん?こっちも痛いですか。えぇ、こっちもですか」


「ぁっ、〜〜っがああ!!」


そう言って、私を弄くり回して男は愉しむ。

まるで、聞き出すことは二の次と言わんばかりの様子だ。



多分、そんなに時間は経ってない。

それでも、私にとっては永遠とも言える苦痛の時間が過ぎた。



「ねぇ、なるよね。僕の、ど、れ、い」


男の口調は完全に崩れ、その薄汚い本性が漏れ出たようだ。


私は、既に疲弊しきっていた。呼吸もままならず、痛みのために思考が回らない。



(この痛みから逃げられるなら)


もうそれしか頭には無かった。空腹の時に、たわわに実る果実を見つけたときのような、視界が狭まる感覚。




「な、なりま……」




ダァアアアアアン!!!!!




扉を壊して男が背中から飛んできた。


煙の中から現れた足が、男の頭を瓦礫ごと踏みつける。

灰色の髪は逆立ち、瞳は釣り上がっている。

いつもは感情の薄いその表情が、今は少し、愉しげに歪んでいた。






「あァ、ここか」


赫を纏う人が現れた。

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