第13話 人形の如き襲撃者

草むらが揺れる音がする。


「早速出番だ、フィーネ」


フィーネも剣を構える。

そうして、すぐに黒ずくめの男達が現れた。


「…」


盾二人に、剣二人に、槍一人。

5人の前衛クラスというバランスを無視した編成だ。

虚ろな目。異様に静かな彼らは、おそらく襲撃者。



取り敢えず、殺してから襲撃者かどうかは考えよう。


「シっ」


最も自身の近くにいた剣士に踏み込む。

側頭部への蹴りを放つ。


「…」


すぐに盾持ちがカバーに回る。すこし相手の体が流れるが、それでも持ち直し、俺の攻撃を耐える。


俺の後ろから、フィーネが飛び出す。


彼女が繰り出す神速の斬撃をこれまたもう一人の盾持ちが防ぐ。



その間に俺も、飛び上がり勢いを付けて踵を落とす。

先程俺の蹴りを受けた盾持ちに守られていた剣士、その左肩にめり込む。

が、威力が足りなかったのかまだピンピンしている。


結構タフだな。


フィーネの斬撃は既に連撃へと変化し、大盾の表面には鉄製であるにもかかわらすず無数の傷が出来ている。


彼女の攻撃を受けている盾持ちの後ろから、槍士の突きが飛び出す。


「…ん」


しかし、彼女に隙はない。

体を横にずらすことで突きを躱し、同時に避けるときの勢いを利用して斬撃を与える。


胸元に斬撃を食らった槍士の胸から血を噴き出す。


それでも、まるで痛みなど無いかのように薙ぎ払う。


フィーネがコマのようにその場で周り、槍の穂先を上に弾く。



「…スゥ」


呼気と同時に、槍士の懐に現れたフィーネが居合の構えを取る。


槍士は首元を残った左腕で咄嗟に守るが、その上腕と首が同時に上に飛ぶ。



俺も、同じように攻めたいのだが、盾持ちの防御が固く攻めあぐねる。

基本的に俺の前には盾士が陣取り、俺の攻撃を受け止め、ちくちくと剣士が突きなどの避けづらい攻撃を与えてくる。


「うざったいな」


赫怒イラを切っても良いが、その後に動けなくなるのが怖いな。

パワーも反動を考えると、ここでは切れない。



憤怒ラース


対象は、盾持ちの後ろに隠れている剣士。

薄い影が剣士を包む。


レジストはされていない。


「ん?」



にも関わらず、その行動は微塵も変化しなかった。

その力も変わっていない。


「違う」



憤怒ラースは感情を怒りで塗りつぶして、身体のリミッターを外す呪術。

ならば、この不自然に感情の薄い人間たちに感情が無いとすれば。



「誰かに操られているのか?」



どういう魔術、呪術かは分からないが、相手の行動を支配した後に憤怒ラースをかけたとするならば、どうなるか。


おそらく、体のリミッターが外れることで身体能力は上がるが、暴走はしない。


なぜなら、暴走するために必要な怒りの感情が失われているからだ。


力が変化しなかったのは、既に憤怒ラースをかけられていたからだ。



つまり、こいつらの後ろには呪術を使えるものがいる。



剣士の一撃を躱しながら思考を巡らせる。



——思えば、戦い方にも違和感があった、


普通は、剣士の隙を盾持ちが埋める。そういった攻撃力を殺さない戦い方だ。

こいつらは逆だ。盾持ちが殺されないように後ろから剣士や槍士が牽制している。


フィーネも攻めきれていない。



まるで時間でも稼ぐよう……な。



「フィーネ!ここ、任せていいか」

「…ん」


俺が下がると、盾持ちが前に出るがそれをフィーネが牽制する。

光が走り、衝撃で後ろに下げられる盾士。


後ろから剣士が俺を追いかけるためにフィーネを避けて進もうとするが、彼女は剣士には滅法強いようで、一撃で腕が飛んだ。

剣士が見を守る暇も無かった。



そんなフィーネの様子を横目に、街の方へと走り出した。



俺達の足止めが目的ならば、足止めされなかった場合に俺達が向かう先に相手の目的はある。



つまり、俺達の拠点。





狙いは、ソニア、か。




 ◆




拠点の前には、馬車が止まっていた。


そして、それを囲う数人の男達。


彼らの目は傍目から分かるほどには虚ろだった。


そして二人の男が拠点へと押し入る。

もちろん内側から鍵がかかっているが、扉は蹴破られる。

室内から、悲鳴が響いてしばらくすると、あたまに袋を被せられた少女が担がれて出てきた。少女はバタバタと足を動かしているが、男はびくともしない。


そのまま、馬車の荷台に投げ入れられる。

乱暴に荷台の床に叩きつけられたために少女は痛みに蹲る。


「〜〜〜〜〜〜!!」


男の一人はそのまま押さえつけると、腕と足を縄で縛った。


それを確認した御者台の男が馬車を走らせる。










その様子を一人のゴブリンが見ていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る