第6話 ゴブリン主夫


 俺たちが巣穴に着いた時、ミグとゴーガは喧嘩していた。


 どうやら俺を猪狩りに行かせたことについて争っていたらしい。


「マダ、ハヤイ、イッタ!!」

「ゴトー、ツヨイ、ダイジョブ」


「ウー!!!」

「ウッ」


 ミグはゴーガの脇腹にフックを打ち込む。良いパンチだ。


 クリーンヒットしたらしくゴーガは蹲る。

 ミグは蹲るゴーガに追い討ちをかけようと足を振り上げる。


 それは流石に危ないな



「ただいま」

「っ!ゴトー、ケガ、シテル」


 振り上げた足を下ろすと、ジーとギーに肩を借りている俺の元に駆け寄ってくる。

 痛ましい顔をしながら俺の体を右から左から見回すとすぐ左手に目がいく。


 俺の痛みを気遣うようにゆっくり触れる。

 明らかに正常には動かないだろうそれを見て怒りが再燃する。


「ゴオォガアアアアア!!」



 叫び声を上げてまたゴーガに詰め寄ろうとした所で、長老が躍り出る。


「落ち着ケ、ミグ」

「フー、フーッ……ナニ、チョウロウ、ジャマ、ソイツ、コロス」


 髪を逆立てて怒るミグを落ち着けるために端的に告げる。



「大丈夫ダ、その程度の怪我、秘薬を使えバすぐに治る」

「……ホントウ?」



 治ると聞いて少し安心したのかミグは少し目尻が下がる。



「スグ、イツ?」



 長老は3本の指を立てる。

 ミグは3週間と思い安心する。




「三カ月、ダ」

「フン!!」


 芸術的な跳び膝蹴りだった。




 ◆




 今回の儀式は、ジーに譲った。

 トドメを刺したのはジーだし、ジーが居なかったらきっと死んでいたからな。

 ちなみに、後から聞いたところ依代から与えられたのは『きば』だそうだ。噛む力が強くなるとかだろうか?



 そして、幸い?な事に今回の狩りで重症なのは俺だけで、後ろ蹴りを喰らったギーは軽傷で済んだらしい。

 しばらく俺はお留守番だが2人はゴーガのチームで活動するみたいだ。



 最後に俺達は猪という強敵を狩った事で戦士として扱われるようになるらしい。

 こんな少ない群れで戦士も何も無いと思うが、成人の儀式みたいなものだろうか。




 ◆




「ミグ…」

「フン!」


 あれから1週間ほど経ったが両親2人の仲は未だに冷え切っている。

 俺の前では堂々としていたゴーガもミグには敵わんらしく、しゅんとしている。



「ゴメン、オレ、ワルイ」

「オマエ、ワルイ、シッテル」

「…ゴメン」

「……フタリ、キメル、イッタ」

「アァ」



 どうやら怒りの原因は2人の約束をゴーガが破ったことが大きいらしい。

 もちろん俺が危険な目にあったというのも有るだろうが。



「〜〜ッ、コッチ、コイ、オマエ、シカル」



 ゴーガの煮え切らない態度に業を煮やしたミグはゴーガの手を引いて巣穴の外に出る。



 そして、その晩にナニがあったかは知らないが次の日には2人は元に戻っていた。




 ◆




 冬の真っ只中俺は麻から麻紐を作る作業に従事していた。

 怪我が治るまでは続ける事になるだろう。


 湿布の様な物を巻いて固定している左手は動かせないので、右手のみを使って撚り合わせているのだがこれが中々難しい。


 時々足の指で押さえたりする事で何とかできている感じだ。


 一緒に作業している女の子は、俺の3倍高い速度で紐を仕上げていく。流石慣れた作業だけあって早い。

 どうやら俺の様子を見るために近くで作業しているらしく、俺の手元を見てはウンウンと頷いている。


 背後に気配がした。俺の肩からミグが手元を覗いている。



「ゴトー、ウマイ」



 そう言ってミグは俺の頭を撫でる。

 何というか俺としては年下の女の子に褒められている感じがして大変気恥ずかしい。

 精神的には年下だしな。


 乳児期の記憶は曖昧だが、何というか、うん、思い出すのはやめておこう。恐らく事案だ。



 ゴーガも父、という感じでは無い。

 2人とも10年程度しか生きていないからなのか、少年と少女、という感じだ。

 2人が仲良くしていても喧嘩していても、ほっこりしてしまう。


 気持ちは完全に親戚のおじさんのそれだった。




 そんなこんなで何事もなく冬を過ごした俺たちだが、

 春を迎える前に事件が起きた。

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