第5話 マプラソ砦へ
迷宮都市を発った冒険者部隊は、街道を進み北へと向かう。
どうやら帝国のクマヤマ砦と睨み合うように存在するマプラソ砦へと向かっているらしい。
俺たちが合流すれば、聖国は進軍を始めるのだろう。
冒険者が組み込まれた小隊だが、その小隊の中にも4、5人の冒険者で班という区分が存在する。
班が存在すれば班長も存在するのは当たり前で、俺はその一つの班長を任されていた。
仕事は小隊長の言葉を班員に伝えるだけだ。
因みにフィーネは別の班の班長だ。
そして、軍の兵站だが、予想していた通り
因みにこの情報は班員のローザに聞いた。
ローザは暇だったのか、戦争に関する色々な情報を教えてくれた。
「そう言えば、ゴトー、あんた、なんであの騎士サマに言い返さなかったんだい?」
彼女は俺がB級の冒険者である事を知っていたから、その事が不満だったらしい。
「面倒だったからな、あの調子だと、こちらが折れるまで絡んできそうだったろう?」
「そんなの一発ぶん殴りゃあ、大人しくなるって」
「そんな事をしたら目を付けられる、勘弁してくれ」
「血の気が足りないねぇ…嬢ちゃんも腕っぷしの強い相方の方が良いだろ?」
ローザはフィーネに話を振る。
「別に、そう思った事は無い。ゴトーは私に出来ない事をすれば良いわ」
「かー、アツアツだね」
ローザは何か勘違いしてるな。
「ローザ、俺はそれよりも帝国についての話を聞きたい。ローザは帝国側で戦争に参加した事があるんだよ」
「んぁ、仕方ないねぇ。アタシが参加したのは西の小国との戦争の時だった」
「帝国は戦争では滅法強い。なんでか分かるかい?」
「いや、兵器を持ってる、とかか?」
「分からない」
俺とフィーネの回答に愉しげに首を振るローザ。
「兵器は確かに強いけど、魔術があるからそんなには変わらない」
「じゃあなんで帝国が強いと言えるんだ」
「それは帝国人はステータスが違うからさ」
「……!、そうか」
帝国のステータスシステムではスキルは段階的に発動する。ゼロからのスタートでは弱いが会敵から戦闘まで時間のかかる戦争で有れば最大限までスキルを発動した状態で戦う事が出来る。
「……どういう事?」
「帝国人がスキルを順番に発動していく事で強くなるのは知っているよな。戦争なら全て発動して戦えるという事だ」
「なるほど」
「後怖いのは、巫術だねぇ」
「帝国の魔術か……見た事は無いが」
「その考えで間違ってないよ。じゃあ巫術を紙に閉じ込める事ができるのは知ってるかい?」
「紙に?魔術具みたいなものか」
「似てるけど、巫術は使い切りの代わりに魔力の消費が少ない」
「その上で連発出来る、と」
「そう、紙に魔力を込めて放り投げるだけだからね。魔術と違って魔力さえ有れば発動出来る。少なくとも使うだけならね」
「そうか、下手すると剣士が巫術を使ってくる可能性も有るのか……それなら作り置きすれば使い放題じゃ無いか?」
「さあ、どうだろうね」
そこは知らないのか。
「ただ、紙に込める事のできる術士は巫術士の中でも半分もいないらしいね」
「それでも脅威だな。敵の強力な剣士が強力な魔術も使ってくるって事だよな」
希少性でバランスが取れているという事か。
それにしても予め魔術を準備しておけるのはかなり使い勝手が良いな。正直俺も欲しい。
帝国と戦っている間は、相手が紙を取り出したら要注意という事だな。
◆
「冒険者大隊はここで野営とする!!後の指示は騎士より与える」
周りの騎士達よりも高級そうな鎧を装備した男が大声で号令を上げる。
一週間ほどで砦に到着した俺たちは砦の手前に固まって野営をする事となる。冒険者達はそれぞれにテントを作ったり、いつの間にか用意されていた大鍋の食事を聖国の兵士から受け取ったりしていた。
徒歩での移動は、冒険者達にとって肉体よりも精神への疲労が大きかった。冒険者達は肩を回したり首を回したりしながら周囲の人間との会話によって心の疲れを癒す。
俺たちの小隊を指揮するジェニスュンは班長達を呼び寄せる。
俺とフィーネが天幕に入ったときには他の4人の班長は既に揃っていた。
中心にあるジェニスュンが大仰に喋り出す。
「明日の戦闘では我らジェニスュン小隊は、敵のクマヤマ砦へと攻め込む。あー、他の小隊に続き我の指示に従って、砦へと梯子をかけるのがお前達の役目だ。本日は精々英気を養え。以上」
それを聞いた冒険者達は、もしかして俺が来るまでに何か言われていたのか、そそくさと帰り出す。
「ああ、女、お前は待っていろ」
「…」
俺は送り出そうとした足を止める。
俺を通り過ぎて他の冒険者達は天幕から出て行く。
「おい、何をしている。もうお前に用は無いと言ったはずだぞ」
「彼女は俺のパーティですので、彼女に何か用があるなら俺がその場にいても問題は無いでしょう」
「我に逆らうのか、冒険者の、それも子供が」
「だから、子供では無いと……俺を排する正当な理由があるのであれば、それを仰ればよろしいでしょう」
俺の言葉を聞いたジェニスュンは面倒臭そうに俺を見下ろした。
「我は名家、フェイタル家五男、ジェニスュン・フェイタルだぞ。お前ごときに我の意図を告げる必要は無い」
「…俺は冒険者であり、そして聖国の人間ではありません。それでも従う必要が?」
そもそも五男の人間が実家の権力を振りかざせるものか。
大方コネで騎士にねじ込まれただけだろうに。
「はっ」
ジェニスュンは失笑する。
「それでもお前は今、聖国の冒険者大隊の一人であろう?ならば、そのお前が聖国の軍規に従うのは当たり前だ。……果たして、上官に逆らうのは許されていると思うか?」
嫌なら出て行けという事か。そう言われるとこちらとしては言い返す事は出来ない。ジェニスュンの上に告げ口するとしても、そこが彼の味方をすることもありうる。そして、味方である可能性を信じられるほど俺は楽観的では無い。
今こいつを消せば、俺たちが最後に残っていた事を他の班長が証言するだろう。
「はあ」
「分かったなら早く出て行け。邪魔だ。我には大事な用事があるのだからな」
そう言って下卑た目をフィーネに向ける。
「フィーネ、頼む」
「分かった」
「何をしている!早く出ていかんか!」
「ん、ん」
フィーネが喉の調子を確かめると、喉元へと魔力を送る。
「『叫ぶな』、そして『動くな』。質問には『はいと答えろ』」
「…は、はい」
彼女の魔力の影響を受けたようで熱に浮かれたような表情のジェニスュン。
俺がジェニスュンの首に毎度恒例の首飾りを付ける。
「お前は俺の言う事を何でも聞くか?」
「はい」
誓約の首飾りの効果が現れ、ジェニスュンは傀儡の一人となった。
フィーネが手に入れた力の一つ、『言霊』だ。
彼女の種族の精神への干渉能力と彼女がバンシーとして生まれ持った声の魔法が何らかの形で融合した事で、暗示能力が使えるようになった。
効果自体は催淫状態でも無ければ通じないほどに弱い。実際、今の俺ではあまり効果は無い。
しかし、駆け出し冒険者とほとんど変わらない程度のジェニスュンの魔力抵抗では、防ぐ事はできないだろうと踏んでいた。
多用は出来ないが、格下相手だと手間や面倒を省ける便利な能力だ。
首飾りを取り返し、彼の前に椅子を持ってくるとそれに座る。
「お前が知るすべての隊の動きを教えろ」
どうせこの男は明日にでも死んでもらうのだから、精々役に立ってもらおうか。
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地形はなるべく分かりやすいつもりです。
上が北で左が西です。
二つの砦が互いに睨み合ってる感じです
↓こんな感じ
帝国 国境 聖国
オクシタ砦◆|◆シャンシオカブ砦
|
クマヤマ砦◆|◆マプラソ砦
|
◆迷宮
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