第4話 致命的な
ギルドの酒場に着いたところでレインが切り出した。
「ゴトーはさっきの依頼、受けるのか?」
「なんで…いや、そうか」
なんで俺が依頼の話をされた事を知っているんだと言おうとしたが、レインも同じく説明を受けたのだろう。
レインは俺と初めて会った時、既にA級だったと聞いていたので、ギルドから頼られる事は自然だと言える。
「いや、断った。もし、失敗したら怖いからな」
「そうなのか」
レインは意外そうに言った。
そして、爆弾を投下する。
「折角の聖女からの依頼なのに」
「!?」
思わず果実水を吹き出しそうになって堪える。
「せ、聖女!?貴族じゃ無いのか」
「そう言われたのか?」
「いや、言われてないが、だからといって聖女とは限らないだろう」
「いや、聖女だと俺は思ってる。もちろん理由もあるさ」
そう言ってレインは人差し指を立てた。
「それは、ギルドが忖度した事」
「それなら、貴族相手だってするだろう」
「いや、しないよ。だって領主にさえギルドは強気に出るんだからな」
「確かに」
領主に対してもギルドは迷宮の管理や冒険者の武力を背景にして圧力を掛けるのだから。
勿論領主も独自に戦力を持ちギルドにされるがままでは無いが、ギルドを無視できるほどに差は無い。
他の貴族なら尚更気遣う事は無いだろう。
「それ以上と言ったら、帝国の帝か、枢機卿、教皇ぐらいだ。そしてこれらが迷宮都市に来る事は無い。危ないから」
「そうか…だから」
「そして、俺は最近この近くの街に聖女が訪れたという事を知ってる」
それを聞いて俺は納得した。その情報があったからこそ、聖女からの依頼だと推測する事が出来たのだろう。
「今なら、まだ間に合う。訂正しないのか」
俺は希望の聖女の姿を思い出す。
レトナークを訪れた時では無く、スタンピードが起きた時の姿だ。
冒険者達を支援したあの白魔術が有れば寡兵でも勝たせる事ができるだろう。
それに恐らく地龍の隕石を防ぐ何らかの術も使える。
いや、待て、おかしい。
「?」
答えを返さない俺に対してレインが訝しげな表情を浮かべる。
「聖女っていうのは『希望』の聖女、だよな?」
「それしか無いだろ。一人は聖都で結界張ってるんだからな」
聖女の周りには黄金の騎士には及ばないがA級に匹敵する騎士の集団が付いていた筈だ。
例えそこにA級やB級の冒険者が数人加わったとしてもさしたる変化は無い。
どう見ても冒険者が必要には見えない。
それでも聖女は冒険者を雇おうとしている。
それは何故か?足りないからだ。
以前思い浮かべた聖女に対する考察を思い出す。
レトナークのスタンピードにあまりにも都合良く現れた聖女達。
彼女の能力が未来に起きる事象を知る事では無いかと俺は思った。
それを考慮に入れると彼女が少しでも戦力を集めようとしているのも、納得が行く。今回の戦争で聖国側にとって望ましく無い、または彼女個人にとって望ましく無い事象が起こるからだ。
聖女に顔を覚えられるのは好ましく無い。よってどちらにせよ依頼は断ることになる。
そして、俺自身が帝国と聖国どちらに付くか、だが……聖国、だな。
二国の共倒れが俺としては望ましいのでできるだけ不利と思われる方に味方する方が良いだろう。
「レイン、やっぱり依頼は断る」
「そうか、何でだ?」
「聖女と一緒にいたら、戦果を上げても聖女の物になりそうだろ?」
「ハハハハ!、確かに」
そう言ってレインが笑った。
コップに残った果実水を飲み込んで、俺は席を立った。
俺は傭兵として、聖国側の勢力へ与することを決めた。
◆
夕方、家に帰ってきた俺は、持ってきた地図を机の上に広げる。
「フィーネ、机少し使うぞ。それと、今回の戦争…俺たちは聖国側で闘う」
「それが、一番良いの?」
「おそらく、としか言えない。ダメだったら聖国の足を引っ張れば良い」
「ん、わかった」
フィーネはコクリと頷いた。
ギルドの資料として受け取った地図と、帝国軍の迷宮都市支部から抜き取ってきた地図を広げる。
前者は迷宮周辺、後者は迷宮から帝国にかけてが詳細だったため、その二つで補完し合いながら実際の地形を構築して行く。
「レインの情報ではすでに迷宮都市には聖女がいるらしいから、迷宮に最も近い帝国側の国境にあるクマヤマ砦は間違いなく落ちるだろう」
この速度で迷宮に秘密裏に来たと言う事は相手が予測しないうちに落とすつもりなのだろう。
フィーネが聞いているかは知らないが俺は思考の整理のために口を動かした。
「そうすると、帝国はウェイリル高原のさらに向こう、サンコウ砦まで下がりそこで陣を作り、ウェイリル高原で迎え撃ってくるだろう」
帝国側にどのような人員がいるかは不明だが、聖女に不穏な未来があるのだとしたら、この高原で起きる可能性が高い。
「ここが決戦の場だ」
高原に丸を付けると、『
「フィーネ、夕飯にしよう」
「待ってる」
少しは手伝う気は無いのか。
◆
一週間後、俺達の姿は迷宮都市の外縁部にあった。
そこには、俺とフィーネと同じく今回の戦争で聖国側で戦う冒険者達が集められていた。
数は全部はわからないが、おそらく数千はいる。この都市にいる冒険者の約三分の一が参加していることになる。
どうやらこの世界では、冒険者を兵として用いる事が多いようでそのための仕組みも用意されていた。
戦争に参加するだけである程度の報酬は約束されている上に、帝国兵からは自由に略奪も許可されている。前者の報酬は少ないが、その分略奪によって懐を潤わせろと言うことだろう。
何とも野蛮なことだ。
どうやら数十人ごとに一つの小隊として分けられ、その小隊を聖国の騎士が率いるらしい。
騎士、騎士といえば聖女の周りにいた銀色の騎士だな。
聖国の騎士と言うことで聖騎士なんて呼ばれていたりするのだろうか。
そんなことを考えていると俺たちの前に一人の男が進み出てきた。
鈍色の鎧をガコガコと鳴らしながらそいつは俺たちの前に現れた。
「我はジェニスュン・フェイタル、お前達を率いる騎士だ」
少し太っているためか、老けて見えるがおそらく二十代だと思われるその男は、俺たちの前を歩いて顔を見回す。
俺と目があったジェニスュンは驚く。
「む、何でこのような場に子供がいるのだ!」
「背は低いですが、これでも成人です」
思わず俺は言葉を返した。ギルドに問い合わせればその点は証明してもらえるだろうし、子供でも参加できないというわけでも無いのでこの男がその点に口を出す権利も無い。
「口答えか!我が隊に規律を乱すものはいらんぞ。ん?」
そういうタイプか。
俺は頭を下げる。
「申し訳ありませんでした。以後口を慎みます」
「ぅぅむ、子供は!素直なのが一番だな!」
多分鬱憤を晴らしたかったのだろう。あからさまに俺を挑発しているが俺がそれに乗らないと分かると、その視線は俺の隣に移った。
男はフィーネの体を舐めるように見回す。
ああ、それはダメだ
俺の願いが通じたのか、騎士の視線はフィーネから離れる。
今手を出す事は避けられたが、少しの対面で分かるほどお世辞にも職務に忠実とは言えない男だ。直ぐに手を出してくるだろう。
そうなれば、こちらも手を出すことになる。
実行には適当な傀儡を使うか。
いや、戦に巻き込む方が簡単そうだ。鎧を着て歩くのにも慣れていないくらいだ。敵を数人、後ろに通すだけで潰れるだろう。
小隊にも数人は傀儡がいるから、それらを使えば自然に二階級特進を進呈できるだろう。
その他にも行儀良くする方法はいくらか存在する。
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◆◆ステータス情報◆◆
ジェニスュン・フェイタル Lv10
クラス
剣士見習い
保有スキル
空間収納
ジェニスュン・フェイタル…27歳の下級騎士。ちょぉょゎぃ
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