4歳3ヶ月 第四章 聖女訪問編

第1話 D級試験・前編


「今回の依頼達成でD級昇格試験の受験資格を得ました」


 その言葉を聞いたのは、例の呪術師との戦いから1ヶ月が経った頃だった。

 いつものようにオークの討伐依頼を達成したので、その報酬を受け取っていた。


 期間によるものなのか討伐数なのか、その両方なのかはわからないが、どうやら俺はその基準を満たしたらしい。


「あぁ、もうなんですね」

「次の試験は1週間後ですが、受けられますか?」



 まあ、受けるだけなら無料のようなので、頷いておく。


「そういえば、依頼自体は登録をしていない仲間と一緒に熟しているんですが大丈夫なんでしょうか?」


 フィーネと共に受けていることは問題なのか気になった。


「あー、問題ないですよ」


 少し、リリアーヌの素が見え隠れした。


「冒険者ギルドは、縁の力も実力と考えておりますし、依頼者側からすれば依頼さえ達成されれば後は些事ですから」


「そうですか、それなら昇格試験、受けたいと思います」


「かしこまりました」


 リリアーヌは手元で、何かの用紙をささっと書き込むと、ぽいっと後ろの箱にノールックで投げ入れる。ヒラヒラと中を揺れて箱に収まる。

 大したコントロールだが、怒られないのだろうか。


 そう思いながら彼女を見ると、用が無いなら帰れと言わんばかりの目を向けられる。


「……まだ何か?」


「…いえ、失礼します」





 ——————————————————————————————





 1週間後街のすぐ外に俺が訪れると、そこには既に昇級試験を受けるために集まった冒険者たちの姿があった。

 鎧に剣や槍、またはローブに杖など一眼でクラスの分かる装備をしている者がほとんどだ。


 そのためか、革鎧を着ているが武器も杖も持っていない上に隻腕の俺は武闘家にも見えないようで微妙な視線を向けられる。


 どうやら、一塊になっている者たちは、パーティを組んでいる者のようである。

 生憎、普段共に依頼をこなしている部外者フィーネは、現在爆睡中であるため、俺は独りで昇格試験を受けることになっている。


 例え、模擬戦でも俺は負けないつもりだが、元々一人の冒険者はそれだと不利だと思うのだが試験はどういう形式なのだろう。


 集まった冒険者は20人程度だろうか。

 そうやって、観察を続けていると、明らかにこの場の人間では力量が飛び抜けた男が歩み出てくる。


 その顔には、獣に引っ掻かれたような大きな傷跡が残っており、彼が歴戦の戦士であることが窺えた。


 幾人かは彼のことを知っているのか、表情を引き締める。


「今回の試験官のダッツだ」



 そう言って、話を続けようとするが、まだ冒険者たちの中から話し声がする。


「…でさー」

「まじ?、ヤベー」


「…」


「あ、おい!」

「あ、ヤベー」


 二人の背後に立った男、ダッツに気付いた彼らは慌てて口を閉じるが、それで許されるはずは無い。


 ダッツは一人の両肩に手を乗せる。


「私語は慎め」

「わ、分かりました。っづ、あの、痛いっす。痛い、おい、止めろ。っやめ、やめてくれっああああああぁぁぁぁぁ!!」


 ゆっくりと肩を握り潰された男は、その場に崩れ落ちる。


「…治療を」

「はい」


 痛みで動けない彼に、ダッツに付き従っていたギルド職員が駆け寄る。


「『上癒ハイキュア』」


 初めて聞く白魔術だが、おそらく『治癒キュア』よりも上位の魔術だろう。

 光と共に、ゆっくりと肩があるべき形に戻って行くが、その過程も痛いらしく、彼は小さく呻いていた。


「お前ら冒険者にとって、ギルドは絶対だ」


「おい、やめ」


「利用する事を許しても、軽んじる事は許さん」


「が、ううううああああぁぁ!!」


 両膝を蹴られて逆に曲げられた男は、自立することが能わずに地面を転がる。

 ダッツは、冷たい目でそれを見下ろすと、先ほどの女性職員に声をかける。


「…治療を」

「…はい」


 彼女が治療し、男が悲鳴を上げる姿を背景にダッツは語り出す。


「遊び気分の冒険者は要らん。この場に居て良いのは仕事に来た者のみ、だ」


 そう言って、全員を睨み付ける。

 既に浮ついた雰囲気は消え去っていた。


「まあいい。今回の試験だが、3人1組でトレントを狩る。それだけだ」


 トレントであれば、E級であっても狩れる者はいるだろうに、何故またと思ったが、そうだった、俺以外は決まったパーティで行動している者たちだ。

 普段と異なる編成でも同じ実力が発揮できるか知りたいのだろう。



 独断と偏見によって用意された組み合わせを発表され、その通りに集まるとそこにいたのは、二人とも少女だった。

 とりあえず、自身のクラスと名前を自己紹介する。


「わたしは、ファイース。戦士よ!」

「ぼ、ボクはシクロ。魔術師だよ」

「俺はゴトー。武闘家だ」


 両方とも赤毛だが、気が強そうな吊り目の少女がファイース、逆に気が弱そうな少女がシクロ。どうやら二人は知り合いらしい。



 そして、さっきからジロジロと視線を向けられていた俺の体について案の定突っ込まれる。



「あんた!腕どこに忘れて来たのよ!!」


 強いて言うなら森だが、あまりにもパンチの効いたツッコミに思わずたじろぐ。



「あーあ、わたし、今回はダメね!こんな変な奴とパーティ組まされるなんて、どんだけ運が悪いのよ!!」


「ダメだよファイースちゃん。役立たずに変なんて言っちゃ」



 ……。



「ね。ゴトー君も気にしちゃダメだよ」

 そう言って、先程の気弱な様子とは打って変わってキリッとした顔を向けてくる。



 嘘だろ、気付いてないのか。正気なのか、こいつ。



「あ、あぁ。気にしてない」


 彼女の発言を聞こえないフリをすることにした。


「あと、俺は格闘の他に呪術もいくつかできる」


 呪術は魔物の技術と聞いていたので、これまでは人前で使うことは避けて来たが、どうやら呪術師と言うクラスが存在するようなので、問題無いだろう。

 ただ、『赫怒イラ』については隠しておこうと思う。

 あれは俺の切り札だし、あの呪術師の男が『固有呪術』と呼んでいた。

 名前の響きからしてユニークスキルの様に使用者が限られるものなのかもしれない。


「ふーん!そう!じゃあ戦ってる間は足を引っ張らないように、後に引っ込んでなさい!!」


「もう、なんでそんな酷い事言うの、ファイースちゃん。ごめんね、ごmi…ゴトー君

 、ボクが言って聞かせるから」


「…」



 ……はぁ。

 今回の冒険はこれまでに無いほどの困難が待ち受けている。


 俺は、そう予感せずにはいられなかった。




——————————————————————————————


まさか、茶番で冒険せず1話使うとは思わなかった。

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