第3話 人ゲンの強さ 〜ルナティックな日々を添えて〜
『依代様』の存在を知ったのは比較的早い段階だった。
何しろ俺は生まれた直後はずっとこの巣穴に居た訳だし、儀式が行われているのも見ていた。
が、依代が与える肉玉の効果について知ったのはそれを食らってからだった。
それまでは長老が謎の呪術によって骨などの食べれらない部位を食べられるようにしているのだと思っていた。
現在はそうではないとわかる。
肉玉を食べることで頭にイメージが叩き込まれるのもそうだし、依代と呼ばれる髑髏に何かが憑いているのが僅かに感じられる。
俺としては、強くなれるならどちらでも良いが死体を使ってどうこうする存在が善に傾いたものでないのは明らかだった。
俺はこれまでウサギと鹿しか狩ったことがないので『足』しか受け取ってないが、どうやら他の部位についても強化されることがあるらしい。
今のところ一月、大体20回ほど『足』を呑み込んだがその効果は、
「同年代の他の個体よりは足が早いな」
という程度、ベンチプレスで通常なら10回上げられるものが11回上げられる位と言えば分かりやすいかもしれない。
その程度?と思われるかもしれないが、依代の恩恵を20年近く受けてきた長老は明らかに強い。
一度ゴーガを含む成熟した個体を相手に模擬戦をしている様子を見たが、鎧袖一触と言った感じで、体格に合わない怪力でポンポンとゴーガ達を投げ飛ばしていた。
それに加えて一度巣穴を猪が襲った際には呪術?によって相手の力を奪った後に、棍棒で叩き伏せていた。
依代の力が長老の呪術によるものだと思ったのはこのせいだ。
本当は逆で呪術の方が依代によるものだったのだ。
俺もできるだけ恩恵を受けようと、確実に狩れるものだけ狩って安全に成果を得ていた。
運のいい事に、長であるゴーガの息子であるためか肉玉を優先的に俺は貰えるようだ。
もちろん俺の部下の個体も時々肉玉をもらっているが、それも三割程度で残りの七割は俺のものとなっている。
そんなことを考えている間に儀式が終わった。
俺が落ち着いた様子を見て長老が声をかける。
「それでは、これからも依代様のため励むノだゴトーよ」
はい、そうです私の名前は
◆
「ゴトー、最近よく狩りに行っているナ」
「あぁ、早く強くなりたいからな」
翌日狩りへ向かう俺を呼び止めたのは長老だった。
俺以外のゴブリンの中で最も言語をうまく扱えるのは長老だった。
その次がゴーガ、ミグ、そしてそれ以外がきて、最後が俺が率いる2匹だった。
単純に年齢順である。
よくよく考えると、生後半年で言語を堪能に扱える俺が異常なだけで俺と同年代(と言っても半年は上だが)のゴブリンも十分賢いと言える。
「ふむ、じゃあその前にひとつ稽古をつけてやロう」
「いいのか、この後狩り行くんだぞ」
「そこまで激しくハせん。ちょっトだ、ちょっト」
そういうと、手に持っていた得物を俺に構える。
長老が使うのは棍棒というより棍というのが正しいだろう。細身で長めの木製の棒である。
俺も慌てて武器を構える。長老の教えを受けるだけあって俺も棍を使用している。
「それでは、いクぞ!」
◆
「ゲホっ、それじゃあ行ってくる」
「あァ、行ってこイ」
「カル、カル」
「イク、イク」
ボロボロの状態で狩りに行く俺を、笑顔で見送る長老。その顔は心なしかスッキリしていた。
あいつ最近襲撃がなくてストレス溜まってたな、俺で発散しやがって。
一丁前に話せるから勘違いしがちだが、群れで一二を争うほどに血気盛んな個体が長老だった。
そしてもちろん満身創痍の俺が狩りで活躍することなどできずに、すぐに帰ってきた。
長老の棒術は俺からすると達人の域に達しており、俺の全力の振りを優しくいなすといつの間にか棒が俺の手元から消えているなんてことがしばしば。
それでも長老は「これでも人ゲンやオーガはもちろんオークなどにもかなわん」などと言っていた。
この言い方でわかるようにこの世界において人間というのは強者なのである。
なんてったって人間は『ステータス』と呼ばれるシステムの恩恵を受けているのだ。まさしくRPGゲームなどで見るあれだ。
これによって彼らは魔物を倒すことで即時にそして急速に強くなり、さらには魔法まで使用するようになるのだという。
ゲームで遊んでた時には特に何も思わなかったが確かに、戦闘しただけで倍近く強くなるのは異常な事だな。
もちろん初めから強いわけではないので、命を落とす者もいるがその個体数と成長性はこの世界の生物の中でも抜きん出ているようだ。
そして俺たちゴブリンにとっては大変不幸なことに、人間にとって俺たちゴブリンはどうやら経験値を多くもらえるとってもありがたい存在らしい。
そのため人間は俺たちを見ると狂喜乱舞して殺しにかかってくるらしい。
つまりゴブリンはスライム並の能力値でメタルスライム並の経験値を貰える、ローリスクハイリターンな敵、という訳か。
難易度高過ぎだろ!!
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