第4話 取り巻きと開発

 ゴブリンは馬鹿だ。

 そして……ゴブリンはバカだ。


 俺の言ったことを中々覚えないし、覚えてもすぐ忘れる。

 忘れなかったとしても気が散って別のことをし出す。


 何というか絶対に部下にしたく無いタイプ。



 しかし、なってしまったものはしょうがない。


 俺の目の前には2匹の個体がいる。

 小柄な方がジーで、少し高いのがギーだ。

 バカなのがジーで、もっとバカなのがギーだ。

 今はハンドサインの練習をしている。


「これが『待て』、これが『来い』、そしてこれが『行け』だ。分かったな?」


 そう、3つだけだ。もはや唯の合図であるが、これも練習しないと忘れてしまう。

 予習、実践、復習。このループは異世界においても力を持つのだ。


「オケオケ」


 ジーよちょっと軽すぎないか。


「ワカッタ!」


 そしてギーは恐らく分かってない。

 不安だ。



 巣穴の周りをグルグル回りながらハンドサインのテストをしてみた。


『待て』

「ガギャー」

「ギー!『行け』じゃない『待て』だ!」



『行け』

「ヒャッハー」

「そっちじゃない!戻ってこいギー!」



『来い』

「……」

「ジー?ジー!………こいつ、寝てる」



 結果は散々だった。

 まあ、最初よりはマシだし良しとするか。

 1歳児にハンドサインなんてハードルが高すぎたのだ。

 ただ、突出しすぎる癖は治してもらいたいな。





 次は今日する予定だった新武装の作成に取り掛かる。


 その名も、スリング。

 別名投石紐だ。


 まず、なめした鹿の皮を持ってきます。

 普段の調理でも大活躍の石包丁を使って、幅10cm長さ1m程度の短冊状に切りとります。

 麻紐を使って適度に持ち手を作れば完成。



 ファンタジーでゴブリンが作る遠距離武器といえば弓矢なイメージがあるが現状では難しい。

 弓は麻紐と適度にしなる木があればそこそこのものはできるが、矢が問題だ。

 案外真っ直ぐに切り出すのも難しいし、矢羽がなければ命中精度を確保できない。

 そのため射程が極めて短くなってしまうのだ。


 届かない遠距離武器という中途半端なものを使用するならば、少し取り回しが面倒でも威力の高いスリングの方が役には立つだろう。


 スリングであれば熟練すれば人体を貫通するほど威力があるらしいし、弾丸の補給も簡単である。



 試しに使ってみよう。



「ゴトー」

「ん?お、ギーか」


 どうやら先ほどから俺の様子を伺っていたらしい。俺の手元にチラチラと視線を送ってくる。俺はスリングを見せながら説明をする。


「これか?これはスリングと言ってだな。石をめちゃくちゃ早く飛ばすんだ」

「トブ!トブ!」

「お、おう、そうだ、今から飛ばすから見てろよ」



 適当に石を拾った後、ギーに背を向けてスリングを構えた。

 そして、軽く体の周りで勢いをつけ、強く振り下ろすと同時に紐の片方を離すっ!


「イダッ!」

「すまん!大丈夫か」


 後ろにいたはずのギーに当たってしまった。


「カエル!」

「すまん」


 ギーは憤慨した様子で何処かへと走り去っていった。

 ギー、そっちは川だよ。



「離すタインミングか?遠心力を利用する分少しずれるだけでかなり方向が変わってしまうな」


 ブツブツと呟きながらもう一度先ほどの動きを繰り返してみる。


「くるっと回して、こう!」

「……イテッ」

「……すまん」


 今度からはなるべく巣穴から離れて練習することにしよう。

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