第9話 不穏な気配
ようやく調子が戻ってきていた俺は、今日は森に薬草探しに来ていた。
最近は巣穴の周囲を彷徨く動物が増えてきていて、必然的に怪我をする仲間が多くなってきていた。
そこで長老から、治療用の薬草を頼まれているのだ。
ここは森でも浅いところなので、そこまで危険な生物もいないだろうしリハビリにはちょうど良いだろう。
「お、あれが群生地か」
開けた場所に薬草が多く生えている。どうやら日当たりが良い環境の方が薬草は育ち易いみたいだ。
最近手作りした袋を開けて、薬草をつめていく。
袋がいっぱいになって、さあ帰ろうと言ったところで違和感に気づいた。
「いる」
視線だ。確実に俺を狙っている。
俺は気づかないフリをしながらも、どこから攻撃されても対応できるように棍棒を構える。ついでに盾の代わりになるかはわからんが薬草の詰まった袋も構えておく。
視線の方向に背を向けた瞬間に林の影に隠れていたそいつが姿を表す。
「狼か!」
俺と同じ程度の身長の灰色の狼だった。
狼は勢いのままに俺に飛びついてくる。狼だけあって今までの獲物とは違って鋭い牙が生えている。この牙に噛まれたらひとたまりもないなぁ、とか一瞬思い浮かんだ。
もちろんそのまま噛まれてあげる訳にはいかないので、予め構えていた棍棒を横っ面に突っ込む。
「ギャうッ」
悲鳴を上げる狼だが、あまりダメージになっていないらしい。
狼は攻撃の勢いのまま態勢を立て直すと俺を睨む。
だがどうやら様子がおかしい。
「?怪我しているのか」
横腹から血を流している上に、前脚も怪我していた。顔面から流れる血は俺のせいだが、結構ボロボロの状態だ。
そのまま睨み合いが続いた俺たちだが、しばらくして俺が獲物になり得ないことに気付いたのか、ずりずりと距離を取っていき、林の近くまで来たところで背を向けて走り出して行った。
「ふぅ」
俺はさっきまでの緊張ごと吐き出すように深呼吸すると、構えを解く。
どうやら最近の森の異変にはなんらかの理由があるらしい。
◆
巣穴に着くと、長老に先ほど起こったことを報告した。俺の話を聞いた長老は少し考え込んだ表情をしたあと言葉を紡いだ。
「おそらく、他所から魔物ガ移って来たのかもしれなイ」
「やっぱり、オークかオーガだろうか」
「いや、オーガはあり得なイ」
「なんでだ?」
「オーガであれバ、狼程度が逃げられルはずが無いからダ」
そういうものか。話に聞くオーガは巨人と言っていいほどに体格が良い。
さらに赤鬼と呼ばれるほどに怪力だ。
とてもあの狼が傷だけで済むようには思えない。
「それならオークか」
「もしかするト、人ゲンかもしれないが」
「人間、か」
可能性は考えていなかった訳ではない。
俺たちの言葉と人間の言葉が同じであればなんとかなるかもしれない。
『プルプル、ボク、わるいゴブリンじゃないよ』なんて。
流石にそれは冗談だが元人間の俺であれば交渉の目はあるだろう。
それからしばらくは警戒態勢での生活が続いた。
そして、狼に傷をつけた存在の正体が判明したのは1週間後のことだった。
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