第13話 ウェイリル高原の戦い・地下Ⅲ


 流石にB級冒険者を呑むと身体能力の変化は分かり易い。

 俺はその場で動き周り、自身の体の変化を確かめる。



 実は、依代による強化は意外と包括的だ。


 特に『あし』が分かりやすい。

『あし』による強化が、脚力や踏破能力だけでなく隠密能力にも関わることは以前確かめた事があるが、これから『あし』が脚や足とイコールでは無いと分かる。


 この違いは多分鵺モドキが『あし』をどのように解釈しているかに影響を受けているのだろう。



 これまで、『きば』は四足歩行の生物では無いゴブリンにとっては食事の時以外には意味の無い物だと思っていたがそれは違うと気付いた。


 動物は牙を使って獲物の皮膚を刺し貫いて殺すが、『きば』の補正はこの行動に乗る。

 つまり自身の体を使って敵を刺し貫く行為が強化されるのだ。


 そう、俺が良く止めに使用している貫手にもこの補正が乗るのだ。



 更に言えば打撃には『て』の強化が乗るし、調べてはいないが頭突きには『あたま』の強化が影響するかも知れない。スキルが無い代わりに行動全体を底上げしてくれる様になっている。


 逆に剣の使用には身体能力の強化以外は一切補正が無い。


 俺が剣を使用しない方が効率が良いというのはこの辺りに起因する。


 おそらく四足歩行の動物が最も補正を受け易くに出来ているのだ。

 しかし、ゴブリン以外には鵺モドキの恩恵を受けることができない。


 なんとも歪なシステムだと思った。



 そういえば、鵺モドキが言っていた『くさび』という言葉。

 黄昏の世界で他のゴブリンを見た事は無いので、俺と同じく『くさび』である者は居ないか、少ないのだと思う。

 それに加えて転生者という俺の出自。


 これが偶然の一致とは思えない。


 おそらく、俺の転生にも奴は関わっているのだろう。



 下を見下ろす。

 足首には鵺モドキから繋がる錠は無く、今は薄暗い地面だけが見えている。




 ◆




「何でここにゴブリ…がっ!?」


 声を上げた冒険者にすれ違い様に左の拳を叩き込み顔面を砕く。同時に腰元から剣を引き抜き、隣の冒険者の脇腹に刺す。


 その場には十数人の冒険者が居た

 オロオロと慌てる様子からは手練れには見えない。


 会敵と共に二人を沈め、冷静を取り戻す前に神官などの回復や援護を行うクラスを狙う。


 不意打ちの場合は初撃から神官を狙うのがセオリーだ。

 魔物に限らず人間に敵対する者の多くが実感する事だが、攻撃した相手が回復すると言うのはかなり厄介だ。


 一撃で仕留められ無い相手だと強制的に持久戦に持ち込まれる。

 その上で白魔術には傷の治癒だけでなく疲労回復を行う魔術も存在しているので、持久戦でもほぼ勝ち目が無くなる。


 そう言った白魔術師の強みを押し出した理想的な組み合わせが聖女と守護騎士だ。

 騎士というただでさえ防御の硬いクラスに聖女の白魔術を与える事で不死身に近いレベルまで引き上げられる。



 今は神官は二人居るが、さっきのB級の冒険者達とは異なり油断させる手間も惜しい。


「(フィーネ)」


 人間に聞こえないように小さく呟く。

 これだけで彼女には届く。


 同時に二人の神官の間を金の線が幾本も通り抜ける。


「は…ぁれ」


 二人は体に違和感を感じたと同時に全身に切れ目が入り、そのまま体がブロック状に崩れ落ちた。


 その間に俺は飛んできた雷の魔術に対して先ほど倒したばかりの男を投げ付けて避雷針代わりにする。



「お前ぇ!!なんて事をッ!!!」


 一人の女盗賊が俺の行動を見て狂ったように怒る。恋人だったのだろうか。


 黒焦げになった男の死体から顔を思い出そうとしたが既に記憶も怪しい。



 女が突き出した短剣を右手で弾き、返すように左手の貫手で胸元を貫いた。


「かっふ」


 虚になった瞳が怒りの形相のまま俺を見つめる。


 今度は石の砲弾を放つ黒魔術が飛んでくるが、これも女の死体を盾にして防ぐ。



「ぐぁばッ」


 その後は剣士の攻撃を躱して貫手、



「!う、え"?」


 盾士を盾ごと貫手、



「ふっ、クソッ、な!?、カフッ」


 槍士の槍を奪って地面に足を縫い留めて貫手、とワンパターンに仕留めて行った。


 最後の一人を殺したところで気づいたが、途中から魔術が飛んでこなくなったと思ったら、フィーネが先回りして始末していたようだ。



 既に俺達が地下に落ちてから一時間が経っている。

 どれほどの時間で決着するかは分からないが、大抵趨勢が決まるのに半日位掛かると聞いている。


 上の状況は知り得ないが流石に一時間で終わる戦いは聞いた事が無いのでまだ時間に余裕は有りそうだ。何なら地下の冒険者を全て仕留めてから上に上がって帝国軍と戦っても良い。



 まあ、多くの冒険者が脱出を目指して動いている様なので、全てと言うのは難しいだろうが、意外と穴から上がろうとする冒険者が少ないのは意外だった。


 そして、彼らは安全の為か、他の冒険者パーティを見つけると固まって行動しているようだ。


 先程から単体のパーティを見掛けることが無くなってきて不意打ちが難しくなりつつある。



 正面からの力押しだけでは何れ取りこぼすだろう。


 なるべく少ない所から仕留めて行くか。



「フィーネ、なるべく20より少ない集団を探してくれ。出来れば近場で、他の集団からは離れているような奴が良い」

「ん……こっち?…いや、多分こっち」


 少し悩ましげな様子の彼女に賛同されてついて行く。




 ◆




「こんなものか…ふぅ」


 あれから更に二時間かけて地下の冒険者を殲滅して行き最後に標的にしたのは100人近くある大きな集団だった。


 その人数を生かして円陣を作り中心のほうに後衛クラス、外円に前衛クラスを配置する団結を見せた。


 そこで俺は幾つかの小細工をする事にした。



 そこはまず俺達、と言うか俺が冒険者として変装し、怪我人を装って助けを求める。



 そうすると彼らは俺を治療する為に神官の集団の元へ連れられて手当を受けた。


 俺は彼らの隙を突き、その場に居た神官を全て始末して円陣の内側から暴れる。


 同時に外側からはフィーネが暴れる。


 流石にこの人数を相手に、しかもB級の上位のパーティも混ざる集団を相手に無傷とは行かず、一度腹を貫かれてしまった。


 しかし冒険者達の三分の一を削った所で趨勢は一気に決する。


 俺は予め仕込んでいた傀儡に指示を出し同士撃ちさせる。

 そう、地下空間では冒険者を仕留めている時に見つけた傀儡には冒険者を集めるように指示を出していたのだ。


 彼らはそれと知らず大集団を形成していた訳だ。


 そして出来上がった集団の二割、20人ほどが敵に回った事で、勝敗は決した。



 素振りしてサーベルから血を落としたフィーネが俺の腹に空いた傷を見て駆け寄って来る。


「腕輪付けてって言ってたのに……」


 彼女が言っているのは自然治癒能力を向上させるアーティファクトの『治癒の腕輪』の事だ。


「いや、傀儡の神官が居るから問題無い」


 そう彼女に弁明して、神官を呼び寄せる。


 目の前の神官についての記憶を呼び出す。

 確か回復系はそれ程得意では無かった。


 仕方ないから、1番低位の白魔術を指示する。


「俺に『治癒キュア』を使え」

「… 『治癒キュア』」


 自由意志を奪った状態だと、本当に指示した内容しか実行出来ないのは面倒だな。


 まあ、洗脳されている筈なのに気が効くと言うのもそれはそれで不気味なのだが…。



 神官の手元が光り傷がジワリと塞がって行くがその速度は酷く遅い。

 何度か掛けさせて表面だけでも塞ぎたいな。


 後は腕輪で何とかなるだろうか。


「俺が良いと指示するまで繰り返せ。……『闇納ストレージ』」


 影から腕輪を取り出しながら指示を出す。


 残った傀儡の数を数える。

 大体10人くらいか。


 このまま聖国側に戻るのも有りだが、フィーネに聞いた所、この地下空洞は帝国軍の背後に繋がっているらしいからな。

 一度叩くのも……アリ、だな。




 横目で治療が完了したのを確認すると、依代を取り出した。



「『捧げよ、さすれば与えられん』」




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 今回の戦果


 E級冒険者の『うで』×120

 E級冒険者の『あし』×72

 E級冒険者の『きば』×8

 E級冒険者の『あたま』×38

 E級冒険者の『て』×48

 E級冒険者の『め』×42

 E級冒険者の『こころ』×80


 D級冒険者の『うで』×333

 D級冒険者の『あし』×214

 D級冒険者の『きば』×7

 D級冒険者の『あたま』×106

 D級冒険者の『て』×93

 D級冒険者の『め』×94

 D級冒険者の『こころ』×241


 C級冒険者の『うで』×147

 C級冒険者の『あし』×100

 C級冒険者の『きば』×8

 C級冒険者の『あたま』×57

 C級冒険者の『て』×59

 C級冒険者の『め』×61

 C級冒険者の『こころ』×112


 B級冒険者の『うで』×11

 B級冒険者の『あし』×7

 B級冒険者の『きば』×1

 B級冒険者の『あたま』×4

 B級冒険者の『て』×5

 B級冒険者の『め』×2

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