第4話 待ちに待った日
予約時間ミスって5話の方を先に出してしまいました・・・
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依頼をしてから実に3ヶ月、遂に待ち望んでいたフィーネの剣が仕上がった。
俺たちと親方の間には机の上に木箱が置かれていた。フィーネは待ちきれない様子で先を促す。
親方はその様子に少し呆れ気味に、だが誇らしげに鼻を鳴らすと蓋に手を掛けた。
「おぉ」
中には鞘に収まった一本の剣。
思わず漏れてしまった感嘆の声がどちらの物かは分からないがそれ程に、気品を感じる仕上がりだった。
全体が艶のある黒でコーティングされているが所々に金の装飾が剣としての役割を損なわない程度に施してあった。
以前のサーベルと同様の護拳と、彼女の手の形に合わせた様に山なりの曲線を描く柄が機能美を感じさせる。
親方が顎をしゃくるとフィーネは剣を手に取りゆっくりと刃を抜く。
「!?」
今度は感嘆の声さえ漏れなかった。
刃だけが金色で側面と峰はアダマンタイトの黒色一色、意図的だろうが鞘や柄と全く同じ色合いのそれに思わず息を呑んだ。
「確かミスリルを使うと言っていたような…」
「ミスリルは刀の内側で使ってある。が、すまねぇ。俺が勝手に変更してしまった所がある。刃の部分は元々アダマンタイトの予定だったがヒヒイロカネに変えてある。他にも峰は純ミスリルからアダマンタイトとミスリルの合金に変更してあるし、他にも変更点はある」
「性能は?」
「断然こっちのが上だ」
「そう、なら良い。望んだ通りね」
黄金の刃の部分は目を凝らすと小さな波紋が浮かんでいて日本刀を彷彿とさせる美しさがあった。
「手入れについてはサボる事は無ぇと思うがサービスで道具も渡しておく。特に血油は固まればどんな名刀でも鈍にしちまうから気をつけろよ」
「分かってる」
腰のホルダーにサーベルを挿したフィーネは前よりも凛として見えた。
「早く使いたい」
「じゃあ迷宮に行くか」
通り魔の様な事を言う彼女に思わず呆れてしまう。彼女を連れ立って部屋を出る所である用事を思い出した。
「親方、小手は作れますか?セットで」
「あ?まぁ作ればするが、防具はなぁ」
「じゃあここの見習いでも紹介してください」
「分かったよ」
俺は扉を閉めるとフィーネの背中を追った。
◆
試し切りの結果だが、俺にはよく分からなかった。
と言うのもフィーネが今まで切れない物が基本的には無かったからだ。
強いてあげるなら、今までは、ザンッ、て感じだったのが、スッ、って感じに変わってる位か?
後は剣の中で黒が占める部分が増えたからか動きが捉えづらくなっている。これはかなり厄介だ。
フィーネは楽しくなって来たのか魔物だけで無く、そこらに生えていた木も真っ二つにした…‥縦に。
「良い」
「ふぅん、前のと違うのか」
俺のひと言に、眼光が鋭くなる。ああ、返答を間違えた。
「違うなんて物じゃ無い。握りが違うから、良く切れるし、幅が薄くなって剣速も増した、反りが増して切るのに力が要らなくなった。そのせいで突きが難しくなったけど、私の戦い方には合ってるし。何より軽くなって、運ぶのが前より楽になった」
「あ、あ〜成程な」
適当に相槌を打つ。妙に動きが軽快だったのは重量のせいだったのか。それに言葉の節々からフィーネに合わせた変更が加えられていた事に気付く。
装備者の協力が無くてはそんな事は出来ないだろう。
「今ならゴトーも瞬殺…」
「言ったなよし行くぞ!」
「!ずる」
「ズルでは無い」
俺はフィーネが言い終わらない内に攻撃に移る。驚いたフィーネが剣を盾に受けに回った所で、俺は地下に沈み込ませるように予め設置していた鞭状の赤銅剣を、フィーネの足首に絡みつかせる形に変形させると強く引っ張る。
「んっ!」
その力で地面に引き摺り込まれたフィーネは胸から下が地面に埋まる。
思いの外、土というのは強い拘束となる。
水より圧倒的に重く抵抗が強い。
底なし沼にハマれば死んでしまうと言う話がある位に土や砂というのは身体の動きを阻害する。
それはこの世界であっても変わらない。
増して彼女は防具をつける事さえ嫌う程のスピード型だ。多少小細工は出来るようだが単純な筋力なら前衛としてはザコだろう。
「勝負あったな」
「〜〜〜!!!」
「それにしても」
ギリギリ動く腕と首だけを必死に動かす彼女の様子は……
「ははは、滑稽だな?」
「…殺す」
「殺すって、瞬殺されたのはフィーネだろ?なあ?そうだよな?違うなら違うって言ってくれよ?なあ?」
俺の渾身の煽りにフィーネが俯く。
「お前…仕掛ける前から準備してたな」
怒りの余りに口調が明らかにおかしくなってる。
「フィーネが『今なら〜』とか言い出す前には準備は終わってたからズルでは無い。油断してたフィーネが悪い」
「〜〜〜〜〜!!」ギリィッ
歯軋りの音がここまで聞こえる程に彼女は悔しがっていた。
俺は意趣返しが出来た嬉しさと、この後どんな仕返しをされるのかという恐怖から心臓がドクドクと鳴っていた。
「……ぅ」
フィーネの押し殺す声が聞こえた。
泣くのはずるいだろ。それをされてしまっては全部俺が悪くなってしまうだろ?
「ごめんって、ただ余りにも油断してたから釘を刺すつもりであんな事をしたんだ。油断する事は命に関わるからな。フィーネの楽しみに水を差して済まない」
俺が手を出すと彼女がそれを握ってのそりと這い出てくる。引っ張り上げた彼女を抱き止めると少し甘い匂いがした。
彼女のズボンは湿った土のせいでひどく汚れてしまっていた。
フィーネが俺の腕を強く握る。
「ぅあ?」
回転した俺の視界はフィーネの入っていた穴の中で止まる。頭から土に埋まっていた。
きっと側から見ればさっきのフィーネの数倍は情けない状態だろう。
「ふふ。偉そうなこと言って油断して…今のゴトー、凄く滑稽ね?」
「〜〜〜〜〜!!」ギリィッ
◆
悔しすぎて歯軋りで歯が砕けるかと思った。
「ふふふふふっ」
フィーネはまだ俺を笑っていた。俺達は食堂で夕食をとっていた。
彼女も俺も酒は頼んでいないはずなのだが、彼女は酔ったようにふわふわとしていた。珍しい気がする。
まあ、剣の新調による影響は把握できた。軽量化による継戦能力の向上が最も大きいと思う。
彼女の中で最も目立つ弱点であったので、彼女も消耗しない戦い方を心がけてはいただろうが、道具の面からもそれをカバーできたのは大きな収穫だ。
俺はコップをあおる様に飲む。
「っつ」
「ゴトー、大丈夫?」
視界がふらつく感覚とともに訪れた頭痛に思わず呻いた。
フィーネがこちらを覗き込むと、俺のコップが目に入ってそれを手に取り匂いを嗅ぐ。
「これ…お酒入ってる」
「…なるほど。俺は少しでも入ってるとダメみたいだ」
頭を抑えながら恨めしげに呟いた。前世は飲めない友人が『お酒苦手でさぁ』とよく言っていたが、その感覚が良くわかった。こんな物では飲み会など苦痛でしかない。
ちょうど良く、食事を終えた後だったため、会計を済ませて帰路に着く。
すぐ近くで魔力を感じて立ち止まる。が、混雑していてどこの誰による物かは分からずにその特定を諦める。
「ごとー」
「ん?あぁ、大丈夫だ」
少しふらついていた様だ。体が小さいせいかその影響が現れるのも早いの、か。
「ごとー、少し寄って」
「あぁ、すまない」
フィーネに肩を抱かれて引き寄せられる。
俺と彼女だと身長が20センチ近く違うので俺の体は彼女の懐にすっぽりと収まってしまう。密着したからか、彼女から甘い匂いが強くして、力が抜ける。
側頭部に柔らかい感触がして思わず離れようとするが肩に回した彼女の手がそれを止める。
「ふぃー、ね?」
「ごとー、『もっとくっ付いて』。あと『何も考えないでいい』から」
「ぁ?あ、わかった」
「うん」
俺は彼女の言葉に従って、彼女の腰に手を回して、時々体が触れる事も構わずに距離を詰める。
肩に回された彼女の左手の力が抜けて、肩から首元を撫でると甘い感触がして脳に鳥肌が立つ。指先が頰に移動する時に、火照った耳に触れてピクリと体が跳ねる。
あ、何か不味い、かも、しれない。離れないと、そう、離れないとダメだ。
「『大丈夫』、『抵抗しないで』。『わたしの言うとおりにして』」
「えぁ?」
「少し『急ごう』、ほらあそこが『いつもの宿』だから」
「ぁあ」
「『何も怖くない』」
『大丈夫』だから、安心していて『何も怖くない』はずなのに、汗と心拍の上昇が抑えられなかった。
『いつもの宿』の扉を開けると、無愛想な主人が二人を出迎える。フィーネは銅貨を袋から取り出すと店主の前に置く。
「一泊でお願い」
「流石にそんな子供を泊める訳には」
店主は明らかに蕩けた目つきの少年が連れられているのを見て苦々しげに顔を歪める。大人であれば、目が蕩けていようが脳が蕩けていようが会計さえできれば問題は無いのだが年端もいかない少年がそうなっているのは僅かに残った道徳心が咎めた。
「一泊でお願い」
フィーネが店主の手に触れて先ほどの言葉を繰り返す。
「二階の奥、です」
店主は呆けた様な目付きで答えると、鍵を差し出した。
「そう、『二階に人は入れないで』」
フィーネは鍵を受け取ると、少年を連れてカウンターを離れた。
男の手の甲にはしばらく甘い感触が残っていた。
密着したままで二人は階段を上がる。
「ふ…ぅ…ふ…ぅ」
フィーネの呼吸が荒くなってる。それに伴って少年が感じ取る甘い匂いも濃くなり、心臓が弾けそうなほどに鼓動が早くなって行く。
奥の部屋の鍵を開けて扉を開く。
ベットとトイレ、窓だけのシンプルな部屋。『昨日までの宿』よりも物が少ない。
扉が閉まる直前に、二つの影が重なる。
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1D100 -> 96(ファンブル) 致命的失敗
どうです?皆さんの好きな、エッッッッな女の子ですよ
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