第15話 仮面の道化は笛を吹く


 その後の冒険者パーティ視点。短め

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「それにしても、あのゴブリン。不思議なくらい強かったっすね?」

「確かにな。全く、面倒だ」

「最近そればっかりだね、ルフ」


 冒険者になって以来、色々と事件に遭遇することが多かったためか、ルフレイフは21歳にして既に心が疲れ果ててしまった様だ。口癖にそれが出てしまっている。



 それにしても、あれほどまでに手強いゴブリンは初めてだ。


 通常ゴブリンは、適性Lv2程度の弱い魔物だ。

 人間ならば、何もしなくとも15歳でLv5程になる。つまりは、下手したら子供でも勝ててしまう様な魔物なのだ。


 それが、一体一体がLv4からLv5ほどまで成長したゴブリンの軍団。

 その上でルフレイフ達D級の冒険者が複数人で戦っても——万全ではなかったとはいえ——あそこまで追い詰められてしまうとは思いもしなかった。


「あの呪術も、聞いたことがありませんしね」

「固有呪術ってことか」

「おそらく。下手するとそれだけで、適性Lvが10以上増えますから危なかったですね。その点はに感謝です」


「——らしいが、何か言いたいことはあるか、アンドー」


 アイザックの言葉を受けて彼らの後を歩いていたコンラッドが、今回のMVPとも言える盗賊アンドーに水を向ける。その言葉は明らかにトゲを含んでいた。


「すまん。隠すつもりは無かったんだ」


 彼らの話の中心となっているのはアンドーのスキルのことだった。


「で、結局どんなユニークスキルなんだよ」

「秘密、と言いたいんだけど。だめかな?」

「全部言う必要は無い。が、お前の能力をアテにするかも知れんからな」



 ユニークスキル。それは文字通り固有ユニークのスキルである。

 通常のスキルは条件さえ満たせば誰でも手に入れることが出来るが、ユニークスキルはそうでは無い。


 文字通り、世界に一つ。



「俺の能力『仮面使いペルソナユーザー』は文字通り仮面を使う能力だ。もちろんただの仮面じゃ無い。それを装備することで、スキルが変わる」

「スキルを付け替える能力ということか!それはかなり強力だな」

「さっき使ったのは『隠者の仮面』、これは隠密スキルLv5が付く」


 そういうと、顔を仮面が覆い、同時に気配が希薄になる。


「そして、こっちは『求道者の仮面』。こっちは格闘スキルLv5」

「さっきは『隠者の仮面』とやらで姿を消していたわけか」

「そ。他にも、剣術を上げる『剣闘士の仮面』とか黒魔術スキルを上げる『賢者の仮面』もある」


 そういうと、仮面がスッと空気に溶けるように消える。どうやら出し入れは意思一つで出来るらしい。

 それを聞いたコンラッドは、顎にしばらく手を置いた後に、


「……もしかして、複数の仮面を同時に出すことも、出来るのか」


 それが何を言わんとしているかは、アンドーにも分かった。


「…いや、それは前にやろうとしたけど出来なかったんだ。すまない」


「そうか、こちらこそお前を疑ってすまなかったな。お前が全力で闘って負けたのなら、今回の事は全てパーティのリーダーである俺の責任だ」


「…責任感が強いな、コンラッドは」


「ああ、俺は騎士になる男だからな」


「ただ、今回のことは君一人の責任にするつもりは無い。今日みたいにどうしようもない壁にぶつかることはまた有るかもしれない。その時、君と一緒に背負うものがいるならば、安心して立ち向かえるだろう?だから、


君を支えさせてくれ」


「お、おう」


 アンドーの真っ直ぐな言葉に、思わずコンラッドは顔を逸らしながらもうなずいた。





 アンドーは嘘を付いてはいない。


 が、彼は全力を出した訳でも無い。

 そして、スキルを付け替える仮面、それだけが能力の全てでは無かった。




「君なら、騎士の頂点だって狙えるさ」




 アンドー、安藤恭弥は嘯いた。

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