第3話 ステータス
ギルドの受付嬢、リリアーヌは今日も淡々と仕事をこなしていた。
彼女達の業務は多岐に渡る。
まずは、依頼の発注手続きである。
依頼者の情報から討伐対象となる魔物を特定したり、周辺地域の情報との齟齬から異常を発見することも彼女達の仕事である。
そこから依頼のランクを決め、報酬を依頼者に提案する。
場合によっては依頼料を渋られることもある。
その時には難易度に不釣り合いな報酬のために、誰も依頼を手に取ることなく被害が拡大するのだ。
そして、その後のクレームの処理が業務に追加されるまでがルーティンである。
その他には、魔物の生息情報の集約、依頼の掲示、依頼達成の確認、冒険者同士の諍いの仲裁などがあった。
いつからか、冒険者同士でのいざこざに対し、冒険者ギルドは不干渉の姿勢を取ることになった。
元々、そのような時間など存在しない受付嬢達も自然とそれらに関わらなくなった。
その結果、ギルドのルールを逆手に取るものが出始めた。
推薦人としての立場を利用することで、未成年の冒険者から搾取する下級冒険者が増えてきた。
ただでさえ、体格も実力も勝る先輩冒険者にそのようなことをされてしまえば、力で逆らうことは出来ない。
この前も、悪質で有名なダナンパーティの餌食となった少年がいた。
燃え尽きた灰のような髪色の隻腕の少年。
ただでさえ彼のような気弱な少年は、半分荒くれのような冒険者達の中で淘汰されてしまうことがほとんどだ。
個人的にはきちんとした推薦人を見つけて欲しかったが、中途半端に首を突っ込めば立場上、悪化しかねない。
結局、いつものように必要最低限の仕事だけして終わった。
ドアベルが鳴る。
噂をすれば影、だ。
今日もリリアーヌは淡々と業務を消化する。
その心とは裏腹に。
◆
「下水道の清掃依頼の受注ですね、かしこまりました」
「お願いします」
「それでは、良い冒険を」
いつものように短時間で終わる依頼を受けた俺は、ギルドを出る。
その時に、妙な視線を向けられた気がしたが、特に変なところは無い、と思う。
清掃というよりその実態はどぶさらいだ。
下水道の溝にたまった汚泥、捨てられたゴミなどを取り除くことで、下水の通りを良くするのが俺の今回の仕事だ。
臭い、汚い、暗い、の3Kが揃っており、住人が忌避するために、食い詰めた冒険者がよくこの依頼を受けるらしい。もちろん賃金は安い。
急激な腐臭が漂ってくる。
「またか」
流れてきたのは、人間の死体である。
初めて、これを見た時には心が躍った。依代を使えば強くなれる、と。
しかし、ダメだった。
人のいない間に、呪文を唱え、肉塊へと変換するまではうまく行ったのだ。
それを呑んだ瞬間、響くはずの声が聞こえなかった。
どうやら、全く知らない人間の死体ではダメなようだ。
つまり、墓を荒らしても強くはなれないということだ。
◆
「ほいよ、今回の報酬」
「ありがとうございます」
数時間泥をさらって得たのは、銅貨数枚。
今晩の食事代として使えばもう殆ど手元には残らない。
ただ、この依頼には他とは違った旨みがあるのだ。
「よし!それじゃあ、一風呂浴びるかっ、な!」
ここの依頼人は公衆浴場へと連れて行ってくれるのだ。もちろんおっちゃんのおごりだ。
俺は服を脱ぐのに苦労したが何とか、風呂に入るまでこぎつけた。
「ゴトーはこの後、ダナンのとこ行くんか?」
「えぇまだ時間がありますが、万一遅れてしまったら、冒険者を続けられないので」
「時間があるなら、教会行こうぜ」
「何しに行くんです?」
「何ってそりゃあ一つしかねえだろ」
ステータスの更新だよ。
◆
『教会』とやらについて俺は名前以外の事はほとんど把握していない。
知っているのは、この国の多くのものが信仰しているという事、そして『聖句』と呼ばれる気味の悪い呪文を多用する事だけだ。
おっちゃんと話しながら、白塗りの教会に入る。その建物自体は何度も目に入っていたが、これが教会とは知らなかったな。
教会には奥の方に白い像が配置されていて、多くの住民がそれに祈りを捧げている。
その像は祈りを捧げる少女を象っていた。
人間は此処で祈る事でステータスの更新が出来るらしい。
そして、ステータスの更新をする事で、上昇したレベルやスキルの効果が身体に馴染みやすくなるそうだ。
つまり更新するのはステータスというよりも自身の能力が対象のようだ。
そしてこの更新をする際に人間はステータスの確認が出来る。
大抵はこの確認を定期的にするのが教会を訪れる目的らしい。
隣のおっちゃんが呟く。
『信じるものこそ、救われる』
そして、彼の身体から光が立ち上る。どうやらこの光が更新している証のようだ。
ここで何もしないのは流石に不自然か。とりあえず、形だけでも真似ることにする。
跪いて、手を合わせる。
「信じるものこそ、救われる』
何かが体を通り過ぎる感覚。体の更に内側を探るような——、そう、依代の空間で鵺モドキに指を突っ込まれた時や謎の館の結界に踏み込んだ時に似ている。
——ヴン
気づくと目の前にはパソコンのウィンドウのようなものが浮かんでいた。
周りを見るが俺の目の前に浮かんだ物は見えていないようだ。
ということは、これが、俺のステータス。
———————————————
?>螟ゥ豌後莉田縺ッ縺本頑中縺ゴトー藤有———
クラス
繧エ繝悶Μ繝ウ
保有スキル
保有ユニークスキル
でうでで.うううう
しああし.ああしし
たた.まああま
めめめ.めめめめ
ろ.ころここ
てて.てててて
き.きききき
———————————————
所々文字化けしているし、持ってるスキルもなんかキモイ。
含まれる文字からして、依代から与えられたものがスキルとして反映されているようだ。
文字の並びの意味は分からないが、名前が長い方が強そうな感じだ。
『うで』や『あし』は他と比べてよく呑み込むことが多いからな。
後おかしなところは、レベルか。
普通ステータスやスキルはレベルがあるらしいが、俺のには無かった。
人間の強さはこの『レベルが上がる』という特徴に尽きる。
強い相手を殺すとその分強くなる。
RPGだと当たり前の性質だが敵にした時にこれほど厄介なものは無い。
普通生き物の成長が進むにつれて、力や速さなどの成長速度は緩やかになっていく。
人間は速度が落ちないどころか加速していくのだ。
加えて人間は数が多く、そして賢い。
敵うわけが無い。一度勝てたとしても2度目もそうとは限らない。
この世界に魔王と呼ばれる存在が居るかは知らないが、そんな事ができるやつは鋼の心臓の持ち主かよっぽどの自信家だろう。
「ゴトーは、確認だけか」
「えぇ、まあはい」
俺に光が降り注いで無いのを見て俺が更新を行っていないのに気づいたらしい。
ステータスの確認だけするものもいるそうなので不思議に思われなかったようだが、同じ相手と何度も行っていたら怪しまれるかもしれないな。
とはいえ、俺にもステータスが存在していたと分かったのは収穫だったな。
もしかすると長老に聞いていたのとは違って人間だけがステータスを持つわけでは無いのかもしれない。
魔物も見えないだけでステータスを持っているのだろうか。
人間も魔物も生物を殺すことで強くなる性質を持っている。
そうだとすれば俺たちゴブリンも……。
◆
俺はダナンパーティの
大体いつもこのぐらいの時間に戻ってくるので、先回りしていないと殴られるからだ。
そして、帰ってきたダナン達に鎧や剣、槍などの手入れを押しつけられる。
ただ、今日はダナンの機嫌が良かった。
曰く
「1週間後に遠征に行く」
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