第6話 リザルト
俺の目的は一つ、ダナン達から自由になること、であった。
これを達成するためにはいくつか障害があった。
ダナン達が後見人であるという状態。
そして、彼らが死んだと思われてはいけないということだ。
後見人が居ないとなれば俺の冒険者資格は剥奪されてしまう。
そのため、俺にとって最も都合が良いのは『ここでは無いどこかに一時的に出ている』という状態がずっと続くこと。
つまり行方不明になることだ。
そのために、彼らの代わりに提出した移転の届け出の書類には行き先を消したものを出した。ギルドの杜撰さはこれ以上ないほどわかっていたので、そこを利用させてもらう。
あとはダナンと敵対している人間も利用することにした。
彼らにはあらかじめ、『ダナンがこの街を出る』という情報を流している。
その上で、ダナンの手下であるリード達に彼らの宿に火を付けさせる。
そうなれば彼らはダナンを襲撃するだろうことは容易に分かっていた。
昨晩に用意していた紙は、リード達に放火をする場所を示した紙をダナンからの指示として渡していたのだ。
あとは簡単だ。ダナンのパーティとそれを嫌う者達をぶつけ、死んだものから吸収すれば、死体は残らない。
ダナン達の死を知っているものは誰もおらず彼らはこの街を出た記録だけが残ることになる。
俺は自由になった。
「『捧げよ、さすれば与えられん』」
最後に残ったダナンの死体を吸収する。
——チャリン
ダナンの死体からこぼれ落ちた何かが地面とぶつかり、金属音が響く。
「ん?お!金貨」
底辺冒険者の俺にとって金貨は大金であり、恐る恐る手に取る。
なんの変哲もない金貨だが、なぜダナンはこれ一枚だけを持ち歩いていたのか、俺には分かるはずは無かった。
まあ、これは武器を買う時にでも使おうか。
◆
今回、人間を10人以上吸収してみた訳だが、吸収に成功する条件がある程度分かっていた。
『死んだ人間を知っていること』
おそらくこれである。
成功したのはダナンやその仲間、敵対するパーティの中でも俺が直接関わったことのある人間だけだった。
名前だけ知っていたり、その存在だけ知っていたりする程度ではダメなようだ。
逆に言えば少し挨拶を交わす程度でもおそらく条件はクリアできてしまうのだ。
ただ、見知っている程度ではその吸収度合いは下がるのかも知れないが。
今まで失敗しなかったのはおそらく、何の縁も無い死体に遭遇したことが無かったからだろう。
◆
ダナン達の武器と防具は彼らのホームの納屋の裏に埋めておいた。
街の外に隠す時に彼らの知り合いに見つかると面倒だし、下水道なども見つかってしまう危険がある。
納屋の裏であれば、俺が使っている間であれば見つかる危険はないだろうし、一時的に隠すだけであればそこで十分だろう。
襲撃者たちの装備は帰り際に下水道に捨てておく。
こちらは見つかって騒ぎになることはあっても、俺とのつながりは出てこないだろう。少なくとも今の俺は底辺冒険者である。
元ダナンのホームに踏み込む。
中はリビングとなっており、そこから各々の部屋へと繋がっている。
テーブルに近づくとその上に置き手紙と、積まれた銀貨が目に入った。
「…っち」
『これは餞別だ。お前達は今日から自由だ』
誰がこれを書いたのかはすぐに分かった。
同時に少しだけ気分が悪くなった。
思ったよりも彼らが
既に覚悟していたことだったが、人間に敵対すること、その意味を叩きつけられた気持ちだった。
紙を握りつぶし、暖炉に放り込んだ。瞬く間に黒く染まり、灰へと変わっていく。
これからこのホームはリード達と共に使うことになるだろう。
その時にこの手紙が見つかるのは都合が悪いからな。
◆
「ここが今日から俺たちのホームになるのか」
「自由に使って良いみたいですね」
「…」
俺は素知らぬ顔でリードに追従する。
もう一人はじっと黙ったままだった。
彼はマルクス。リードと二人でパーティを組んでいるらしい。
どうやら無口なようで、俺は今まで彼の喋るところを見たことが無い。
この3人がダナンの雑用となった者だった。
こうして、俺は拠点を手に入れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます