第22話 剣と刀

 俺は男の日記を閉じる。


 男との戦闘時の血液の挙動、そして日記の記録を合わせて考えると、『吸血鬼』とは



 ……魔物使いテイマー、だ。


 液体型の魔物を体内で寄生させることで尋常では無い治癒能力と膂力を手に入れたのだ。そうすると男が使用していた、ユニースキルでも魔術や呪術でも無い力は、寄生させた魔物の使用した魔法だと分かる。


 血液魔法とでも言えば良いだろうか、『刀血』と呼ばれる技は自身の血液を刀の形にする魔法だ。同様に『影渡』も寄生させた魔物の魔法なのだろう。


 そして体内に飼っている魔物は日光を弱点としているのだ。だからこそ日記にある通り太陽の下では力を出す事が出来ない。


 恐らく太陽の下に晒せば再生は止まる筈だ。

 その状態で焼いて骨にでもすればもう放っておいても大丈夫だろう。



 俺は金目の物を漁り始めた。




 ◆




「『刀術・壱』!『居合』!」


 ハチカネと名乗った剣士は二つのスキルを発動する。

『刀術・壱』によって刀を扱うための能力、全身の筋力と反射神経、空間識覚が向上する。

 それに重ねて居合スキルによって筋力が瞬間的に強化され、その力を無駄なく乗せて刃が抜き放たれる。


 その対象となった少女、フィーネは避けられないことを悟ると、潜り込む様に姿勢を下げサーベルを居合斬りの軌道に沿えて受け流す。


「!?」


 返す刀で追撃を加えようとしたが、自身の右手に違和感を覚えたハチカネは真後ろへ飛び退く。

 身体能力で劣るフィーネはそれを追わない。


「なんと…」


 ハチカネが小指に視線を落とす。

 そこには小指と薬指を失った右手があった。



 このままでは満足に刀も振るえないと判断したハチカネは、フィーネから視線を外さないようにしながら衣服の袖を引きちぎり、布切れで刀を握る右手を巻き締めることで刀を固定した。


 正眼でフィーネに刀の切先を向けるハチカネに対して、フィーネは切先を膝下まで下げて刃も寝かせるように構えている。


「…っふう…『刀術・弐』」


 先ほど発動した『刀術・壱』に重ねて刀術スキルが活性化する。強化が重ねられることで身体能力が加算される。


 するとフィーネが切先を揺らしハチカネの警戒範囲を探る。

 しばらくそうしていると、ハチカネの視界からフィーネの姿が消える。



「スゥ」


 視線誘導と徹底した体捌きの効率化によって正面でも姿を見失う程に練り上げられた縮地によって、2人の間の距離が食い潰される。


 瞬時に数本の銀線が2人の間を煌めく。

 ただ先ほどのフィーネの攻撃を捉えることができなかったハチカネは意識の比重を防御に寄せていたため、フィーネの方が優勢に見える。


(狙いは………足!)


 殆ど勘でフィーネの狙いに当たりを付けて鞘を横に構えると今度は斬撃を生身に受けることなくやり過ごすことができた。


 彼の額を冷や汗が流れる。


(何と言う速さ…剣速が速い訳でもないのに防御が追いつかん……だが)



 時折、二人の戦闘の隙を突いて、取り巻きの男達がフィーネの背後から攻撃を加えるがフィーネは後ろに目がついているかのように対処する。


 その間にハチカネは刀術スキルの発動によって乱れた魔力を整えるとさらに次の段階に踏み込む。


「『刀術・参』」


 また全能力が加算される。

 これ以上引き伸ばされるのはまずいと感じたフィーネは取り巻きを処理し終えると、突きの構えを取り、喉元を狙って踏み込ま…ない。


「?」


 引き下がったフィーネは自身の行動を疑問に思ったが、男の瞳を覗いた事でそれは氷解する。


 カウンターを狙ってる。


「待ってても私は死んであげない」

「……」


 慣れない挑発をしてみたが男がそれに乗る気配は無い。男は正眼の構えのまますり足でジリジリとフィーネに近寄って来る。


 気味の悪い物を感じたフィーネは足元に転がった剣の1つを蹴り上げて掌に収めると男は向かって投擲する。


 剣は男を貫く直前で弾かれて宙を舞う。

 その際の剣速はこれまでを遥かに上回る物だった。

『刀術・参』を発動した事で使用可能となった派生スキル『燕返し』だ。発動状態となっている間は速度が上がり、他のスキルと比べて消費も少ない代わりにカウンターによる攻撃にしかその効果は乗らない。


「見破ったのは見事だが、それだけでこのスキルは攻略できま……!?」


 弾かれた剣のすぐ後ろにはもう一本の剣があった。フィーネのサーベルだ。


(得物を捨てるとは、愚かな)


 ハチカネは心の中でフィーネの評価を一段階下げると自身に触れる直前にそれを打ち落とす。


 その瞬間、サーベルの後ろに居るはずのフィーネの姿が無かった。


 同時に振り抜いた右腕の関節を極められ痛みが走る。そのまま抵抗する時間も与えずに男の腕を破壊する。


「があっ!!」


 カウンターの性質上、同時攻撃には弱いと踏んだフィーネは、サーベルを投げると同時に縮地によって投げた剣と同時に男の側面に踏み込み、無防備な瞬間に腕を取る事にしたのだ。


 だが、男も反撃しようと左腕を振り回してフィーネに反撃を与えようとする。


 遠くの地面に弾かれたサーベルを見つけたフィーネは、先ほど投げた事を思い出し……自身の髪を纏める簪を抜くと、男の肘の内側を貫く。


「〜〜〜〜!!」


 流石にこれは応えた男は悲鳴を噛み殺すが、体から力が抜けてしまい、その場で膝を折る。

 そうするとフィーネの正面に男の頸が無防備に晒された。


 フィーネは剣士の顔を上下から抑えると、強く回して、首の骨を折ってトドメを刺した。



 サーベルを拾い、男の肘から簪を抜き取る。


「……うわ」


 簪に付いた血液を男の衣服で拭う。


「……」


 しばらく簪の先を見つめる。


「後で洗えば大丈夫……ね」


 そう言って自身の懐に入れると、店を出た。




 ———————————————




 ◆◆ステータス情報◆◆

 ハチカネ 位階:弐拾漆

 戦型クラス:侍

 スキル

 戦心

 刀術・壱

 └居合

 刀術・弐

 └一刀

 刀術・参

 └燕返し


 ◆ Tips:帝国のステータス ◆

 帝国人の持つステータスは聖国や王国の使用するものとは表記だけではなく仕組みが異なり、クラスの種類が極端に少ない、基礎ステータス向上系スキルが武器スキルに統合されている、スキルにレベルが無い代わりに複数スキルによる効果の重ね合わせが容易になっている。

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