第4話 「ゴブリンでも分かる!」ふたたび
「…すぅ」
「!」
フィーネの動きを予期した俺は薙ぎ払いを躱そうと、地面に左手を着き限界まで姿勢を低くし、次の攻撃へのタメを作る。
その瞬間に彼女は、その動きを予期していたのか、ワンテンポ遅らせる事で次の一撃を横向きから縦へと変える。
「貰っ、おごっ」
そうなると、視界の半分が地面で埋まっている俺は彼女の変化に気づかずに無防備に後頭部に振り下ろしを喰らった。
俺は自身の負けを自覚しながらも、模擬戦が終わったと油断する彼女から持つ木刀を奪い取る。
フィーネが目を見開くが、すぐに細められる。
「!…ずる」
「ずるくない」
俺はムキになっているのを自覚しながら、彼女からどうにかして「参った」を引き出そうと追いすがる。
フィーネは後ろに飛び退くが、俺の方が速い。
彼女の右手首を掴むと、そのまま引っ張る。
「!、おっ」
あまりにも小さい抵抗に、思わず体重が後ろに流れる。
その瞬間彼女の瞳が怪しく光る。
「えっ!」
浮いた左足に彼女の足が触れると同時に視界が回転する。俺は受け身も取れずに地面に頭を強打する。
ズキズキと鋭い痛みに耐えながら、それでもフィーネに手を伸ばす。
彼女が俺の正面でグルリと回転し、左腕を極めながら俺の体を背中で持ち上げる。
前世でも見た事ないほど綺麗に一本背負いが決まる。
「!がっ、はぁっ」
ボロボロのまま地べたに仰向けに寝転がる。
「フィーネ、剣が無くても強いな」
「…ん」
彼女は俺の隣に腰を下ろすと、少し誇らしげな様子で俺の言葉を肯定する。
時々森で行うフィーネとの模擬戦は、初めの方は良いところまで追い詰める事ができていたが最近は彼女が俺の癖を把握してきたのか全く勝てない。
ついでに教えてもいないのに柔道の技を使う様になっている。
たぶん本人としては力を使わずに相手を制圧する方法を考えた結果だろうが、恐ろしい事だ。
こちらもなんとなく彼女の戦闘の理念みたいなのは分かって来た。
まず、手数は少なめだ。様子見の攻撃を打ってくる事はまず無い。
その代わりに全てが致命を狙った一撃である。
次にフェイントで相手を動かす事が多い。先ほども俺に薙ぎ払いを予期させて、俺の姿勢を崩して来た。これは俺がフェイントに乗ってしまうのが問題なのかもしれないが。
そうやって俺の選択肢を潰していき、最後には不可避の一撃を叩き込んでくる。
最低限の攻撃で最大限のダメージ。
そう言われたら真似した方が良い気がするが、そこまで簡単では無い。
彼女の攻撃は成功すれば確かに効果が高いが、失敗すれば大きな隙を晒してしまう筈なのだ。
だが、彼女は不思議と失敗しない。
薄氷の上で踊るような戦い方だが彼女の中では確かな勝ちが見えているのかも知れない。
それに、小手先の技術を真似するだけでも俺の糧にはなるしな。
「フィーネ、さっきのもう一回してくれないか。俺が引っ張った時に足を払って転がした奴だ」
「…ん」
立ち上がり彼女と向かい合うと、彼女の腕を緩く引っ張る。
さっきの流れを再現しようと思っていたが、彼女は先程と打って変わって勢い良く引っ張ってきた。
思わず右足を踏み出そうとするとその足を刈られ視界が回転する。
「っぐ」
今度は流れに逆らわずに受け身を取る事が出来た。が、
「やりやがったな」
「…ふっ」
その後も何度かフィーネに技を掛けられたが、今世での戦闘経験が生きてきたのか段々と上手くできるようになってきた。主に受け身が。
腕が一本な俺は、基本腕を取られると終わるのでそうならないように対処するのが良いのだと確信するまで、そう時間は掛からなかった。
◆
フィーネとの訓練の前に仕留めたハーピィをギルドに提出した。
ハーピィは空を飛ぶ人型の魔物で、腕が翼で足が鉤爪になっている。
力はそこまで強くなく、E級冒険者で問題なく対処できるのだが、基本群れで現れるのでD級の討伐依頼として張り出されていた。
いつものように無気力気味な受付嬢から報酬を受け取ると、家路につく、事はせずギルドに併設する図書館に入った。
ここではギルドで集められた記録が保存されており、ついでに下級冒険者に役立つ本が貸し出されている。俺は以前、魔術の本を購入したのだが、その後にこの場所の存在に気付いて絶望した。
ここに置いてあったのだ。
俺が購入した『ゴブリンでも分かる!初級魔術』が。
そして、それだけに収まらず、『ゴブリンでも分かる!初級呪術』と『ゴブリンでも分かる!初級法術』も有った。
ちなみに法術とは白魔術の古い名前だ。
確かに魔術と言っても黒魔術と白魔術では違う部分が大きいから、元々は魔術という区分では無かったというのも肯ける。
白魔術は実は魔術式を作る必要は無い。
神官は自身の魔力によって神との通信路を作り、自身の体を通して白魔術を発動させる。ただし、神から与えられるのは純粋なエネルギーであるために、それを回復や防御など望んだ形に加工する。
これが白魔術の正体だ。
そして、神との繋がりの強さによって許される奇跡の段階が存在する。
黒魔術が第一圏から第七圏まで区分されているように、白魔術には第一天から第七天まで存在する。
ついでに呪術も第一冠から第七冠という分類がされている。
第一天は『
この時点でも俺に対しては結構な脅威である。
この本には第四天以降の白魔術が書いていないが、その先にある第七天を行使できる人物を見たことがある。
そう、聖女だ。
なぜなら第七天の白魔術を行使できる人物だけが聖女になれるからだ。
聖女が神の代行者とまで呼ばれるのはこういう理由だろう。
そして、サラッと流したが冒険者ギルドに呪術についての本がある事に俺は驚いた。呪術を使う人間は俺が今まで見た中では一人だけなのでマイナーな技術だと思っていたからだ。
そして、中身を見て納得した。
本に書いてある内容はそれぞれの呪術の対処法が中心であり、習得については触れていなかった。
確かに呪術を覚えるなら一度喰らわないと分かるものでは無いしなぁ。
ただ、中には俺が見た事のある呪術が並んでいた。
『
確かに相手を無力化するのに便利な組み合わせだからな。
人間の呪術師の中ではこの二つの組み合わせは有名みたいだ。
俺が多用する『
『
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◆ Tips:黒魔術 ◆
第一圏
『
『
『
『
など
第二圏
『
『
など
第三圏
『
◆ Tips:白魔術 ◆
第一天
『
『
『
『
『
など
第二天
『
『
『
『
第三天
『
◆ Tips:呪術 ◆
第一冠
『
『
『
『
『
『
第二冠
『
『
『
第三冠
『
『
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