第35話 北門『憑魔蟲』
ゴトーVSスノウ
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「『
俺は影から一つのアーティファクトを取り出す。
その見かけは前世の神社とかで見かける、石灯籠に似ている。
サイズは石灯籠よりも大きく、3メートル近くはあるだろう。
このアーティファクトの名前は『霧中塔』、霧を発生させる機能のアーティファクトだ。これに魔力を注ぐことで、半径数百メートルに霧を発生させることができる。
そして、ここに来るまでに用意した元冒険者の傀儡を組み合わせれば、
全(て)自(分の部下に)動(かさせる)霧発生装置が完成する。
そして、魔力が切れた時の保険として
数分で、周囲が濃い霧に覆われる。
このアーティファクトは周囲に大規模な変化を引き起こすので、迷宮都市で手に入れた時に、迷宮の中で使用したことがある。
その時も思ったが、この装置が発生させる霧は10メートル先が霞むほどに濃い。
外からは中の様子を確認することが出来ないだろう。代わりに外部から隕石を落とされても、中からはそれを視認することは出来ない。
北門を範囲に含むように霧を作ったので、中を確認もせずに落とさないとは思うが。
俺の目的は街の内部に入り込むこと。それとこの門を破壊してローチが侵入しやすくすることだ。
ここで問題となるのが、門を破壊する方法だ。
俺は『
そこで、
「『ユーザモード:擬似人格』」
誓約の首輪を利用して作り上げた擬似人格を起動して、目的のアプリケーションを立ち上げる
「『
——
——作業領域を確保……完了。
——対象魔術のフォーマットを確認、スキップ。
——対象魔術を作業領域に複写……完了。
俺は門に向かって右腕を掲げる。
脳内に焼き付けられた術式を、赤銅の義腕を使って空中に投影する。
「『
赤銅の義腕を通して、術式に魔力を通すと眼前の空間が赤熱し、爆発する。
パラパラと爆風で塵が舞う。
「……、…だ……襲撃だ!」
門の中で兵士達が慌ただしく動く気配がする。
「第三圏の魔術でも、一発では穴も開かないか」
流石に巫術がクラスとして存在するだけはあるのか、この程度の出力に耐えられなければ、戦争では使い物にならない、という事か。
困った。あと残された手段といえば、『
「いや、ローチ共が通ることさえ出来れば良いのか」
「『
——対象魔術を作業領域に複写……完了。
「よし、『
地面を波のように操る魔術を限界数まで発動させる。
頭が風邪に冒されたように熱い。
捲れ上がって地面が門に襲いかかるが、門を壊すまでには至らない。
破壊はできなくとも、門は既に役割を失っている。
直角にそり立っていた壁は、今は緩やかなスロープとなっていた。
「後は……適当に荒らしておくか。『
「『
赤熱しながら膨張した炎は、それを包み込む水の渦巻きによって封じ込められる。
「……ゴブリン、じゃないわね」
攻撃的な色を孕む碧眼が、俺を見下ろす。不思議な事に彼女にとっては緑色で小さい人型の生物はゴブリンでは無いらしい。
「…」
スノウ、か。
都合の良いタイミングで現れたな。まるで誰かが謀ったかのように。
だが、彼女が俺を止められるようには見えない。
その奥にある意図、目的は何だろうか。
彼女の先の駒の差し手の姿を思い浮かべる。
冒険者としてかなり上等であっても彼女にとっては一時的に雇った人員だ。銀の騎士よりも価値は低い。
目の前に立つ女は守りには向いていないし、俺に勝てるようには見えない。
なら、目的はフィーネを取ること。
スノウを囲むように聖国軍の騎士達が立つ。
「『
口を覆い、呟くように呪術を唱える。
彼女にはこれは見たことがないだろう。
「どきなさい!『
彼女の杖から電撃の奔流が飛び出す。
俺は大きく右に避ける。
電撃は騎士達の間を抜けて、俺が先ほどまでいた空間を焼く。
「『
再び、雷の砲撃。
「『
それに対して、俺は透明な槍を作り、まずは騎士達を削る。
「『
「『
「『
「…『
スノウが魔術を撃つペースが段々と上がってくる。
「『
「…『
こいつ……魔力切れが怖く無いのか?
そして幾ら何でも魔術を撃つのが早すぎる。ほとんど思考せずに魔術を放っている俺よりもハイペースだ。
……アーティファクトでも使っているんじゃ無いか。
疑いを抱きながら彼女に注目すると、彼女が魔術を撃つ直前に指輪が光る。
——そういうカラクリか。
魔術を放った後に壊れない魔留玉みたいな物か。
かなり便利そうだな。こっちは使い捨てしか持っていないのに。
魔術の速度で勝てないならば、こちらも身を削るしか無い。
「『
俺は、こっそりと騎士達の身体に義腕の先を巻き付け全員をつなげると、義腕だけを置き去りにして自分は避ける。
「ぐあぁ」「あグゥ」
「…うぅ」「ガ…ぁ…」
そして、赤熱した義腕を元の位置に戻すが、熱い…。
「お前、まさか…」
「…お前のそれ、魔術を保存できるんだろ?」
「!えぇ、そう…そうよ」
簡単に認めるスノウ。知っていても意味が無いと思っているのか、それとも言い当てたものが全てでは無いのか。
スノウが杖を掲げる。
「すぅ」
「——『
空間を貫く金色の弾幕の中を駆ける。
彼女の顔も見えないほどに重なった魔術式から容赦ない連続の魔術。
指輪、腕輪、ネックレスが次々と光り、魔術が放たれる。
俺は瓦礫を足場にしながら、地面を舐めるように深く体を沈み込ませて進む。
「指輪、腕輪、ネックレス。いや宝石に魔術を込めているのか」
「『
「宝石に好きな魔術を込めて——」
俺が話しかけることができるほど余裕がある事を悟ったスノウの顔が青くなる。それでも魔術を唱えることはやめようとしない。
「『
「強力だな。自由なタイミング魔術を発動し、」
段々とゴトーの動ける空間が狭まっていく。同時にゴトーとスノウの距離は縮んでいく。
「『
「量で圧殺できる。何より——」
ゴトーが彼女に迫った時、スノウの杖が光り、これまでよりも大きな魔術式が描かれる。
「自分の実力以上の魔術を使える」
「『
ゴトーは義腕を広げて盾にして、弾幕の檻から上空に抜け出した。
「
同時に、空中のゴトーに向けてもう一本の極光が横から放たれる。
——対象魔術を記憶領域から作業領域に複写……完了。
「——そして、自分以外の人間も、な。ほら、『
「な!?」
スノウは見抜かれた事に驚きの声を発する。
俺の放った『
「…逃げ、ウグッ」
重力に引かれて落ちながら、起伏の影に隠れた兵士に向かって、短剣を飛ばして彼の足を地面に縫い付ける。
そして、魔術の相殺によって巻き上げられた土煙の中に隠れる。
「……」
スノウは杖を向けながら周囲を警戒する。
彼女の背後で僅かに土が擦れる音がした。
「……!そこっ」
彼女が杖を向けた先には自身と同じ色の肌の人間が——
「死ね」
一瞬の混乱の間に、彼女の意識が絶たれた。
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◆ Tips:ユニークスキル『
スノウのユニークスキル。魔術などの術を宝石に憑かせることができる便利な能力。できることが魔留玉や巫術と被っている。
巫術と違って自身の実力ギリギリの術でも込められる上に、魔留玉と違って使い回しできるという長所がある。
ちなみに黒魔術だけでなく白魔術もいける。
魔術の名前を唱えないといけないのが玉に瑕。
スノウの魔術の才能も考慮すると、裏方に徹すればかなり厄介なスキルだと言える。
攻撃適性:★★☆☆☆
防御適性:★★☆☆☆
援護適性:★★☆☆☆
戦略適性:★★★★☆
スキル所持者単体で見ると、単純に手数が増えるだけなので通常スキルで代替はできないが、オンリーワンの性能とは言えず、攻撃・防御・援護共に△。
しかし、軍対軍の大きな規模で考えると、所持者の能力に依存はするがポテンシャルを活かせば聖女に並ぶレベルの能力なので戦略適性は◎。
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