第35話 新たな仲間たちは、知的になって
「ぼくは負けたくない」
「おれも負けたくないんだ」
「何に?」
わたしは名乗りを上げたチャートとシローネに聞いた。
「怖い相手、全部に」
「全部に負けたくない。熊にも、猪にも」
「そっか。怖い思いをしたくないんだ」
「それだけじゃない」
「そういう怖いモノ全部よりターンは強い」
そこでターンを引き合いにだすかあ。結構微妙な話になってきたかな。
「思い知ったんだ」
「何を?」
シローネの思いを聞いてみた。
「強くなって、何も怖くなくなって、お金も食べ物も全部なんて、凄い」
「幾らでも好きなものが食べれてウハウハ」
「ターン?」
これはどういうことなのかな?
「欲望に忠実」
まあ、そりゃそうだろうけどさ。だから、わたしの回答はひとつだ。
「気に入った! そういうのこそ、冒険者!」
強さは手段で目標だ。彼女たちはそれを欲望で実現しようとしている。いいじゃないか、それで。
それこそ冒険者だろ。
別に『村の為に』を否定するつもりなんてない。同時に、欲望のまんまに強くなろうとしたっていいじゃないか。美味しい食事を毎日食べるための努力なんて、最高じゃないか。気に入ったぞお!
「気に入った。気に入っちゃった! 二人を迎えるよ。シローネ、チャート!」
「ターンについてこれるかな?」
堂々とした姿を二人に見せるターンもいいね。目標が目の前にあるっていうのは悪くないよ。
「ほら、行くよ。ヴィットヴェーンが待ってるからさ」
わたしは、チャートとシローネを手招いた。
◇◇◇
「じゃあ全員まずは、読み書きと計算ですね」
「ええー!?」
わたしが叩きつけた言葉に、『村の為に』のメンバーと、チャート、シローネが愕然としていた。ターンは胸を張ってふんすとしている。鬼軍曹気どりかな?
それもこれも、こいつらの無計画さと、INTが低いのが問題なんだ。
とりあえずということで、全員のステータスカードを取得した。代金はターンが出した。感謝せい。
問題だったのは、全員のINTが1桁だったことなんだ。
で、聞いてみた。
「皆さんは、どんなジョブに就きたいと考えていますか?」
『シーフで!』
「あの、全員シーフ互助会に売り飛ばしますよ?」
チャートとシローネはまだいい。後衛を選ばなくても、クランに居場所は作れる。だけど『村の為に』の皆さんよ。全員がシーフのパーティって、それは盗賊団か何かなのかな?
「サワ、どうどう」
鼻息がヤバいことになっていたわたしを、ターンがたしなめる。というか、ターンがそういうことをするっていうことは、わたしがそうとうヤバいってことだ。
一例を出そう。
==================
JOB:NULL
LV :0
CON:NORMAL
HP :11
VIT:12
STR:13
AGI:16
DEX:14
INT:8
WIS:7
MIN:15
LEA:12
==================
これがチャートのステータス。
==================
JOB:NULL
LV :0
CON:NORMAL
HP :10
VIT:13
STR:12
AGI:17
DEX:14
INT:7
WIS:6
MIN:17
LEA:11
==================
そしてこっちが、シローネだ。
他の面々は年齢もあってかSTRとVITはちょっと高い。だけど平均よりちょっと上って程度だよ。
さて、今後の方針だ。INTが9、もしくはWISが10、すなわちメイジかプリーストの条件を満たすまでは、読み書き計算、それと経典を読んどけ。あとは、プレイヤースキルを磨くために、走り込みと模擬訓練だ。
まずは冒険者の基礎を叩き込む。正直、これまでの経緯を考えると、わたしとターンよりかは『クリムゾンティアーズ』の方が適任なんだけど、彼女らは彼女らでやることもある。だからわたしとターンで育てるんだ。
「全員、初期ジョブはメイジかプリーストですよ!」
一芸特化という言葉もある。それはそれでアリだ。だけどその道を極めて、初めて言える台詞でもあるんだ。
事実、わたしとターンはすでに4芸特化している。それが良いかどうかはどうとして、マルチロールっていうのは重要だ。攻撃魔法や、バッファー、回復魔法が使える前衛ってだけで、幅は無限に広がるのがわたしの持論だ。
わたしに師事する以上、付き合ってもらう。そのための一歩が今の状況だ。幸い時間的余裕はありまくりなんだから。
◇◇◇
1か月後、なんとか全員が条件を満たしてくれた。ここまでの生活費は全部ターン持ちだ。ターンの持つ債権がどんどん増えてってる。立派な債権者だ。全然それを表に出さないあたりが、さすがはターン。多分、分かってないだけだろうけど。
「では、これから3班に分かれます。そして第4層の鍵を手に入れます。チャートとシローネはわたしと。『村の為に』は3人ずつに分かれて、ターンとサーシェスタさんと組んでもらいます」
WISが10になった人は全員プリーストに、INTが9の組は全員メイジだ。ちなみにプリーストは『村の為に』から男女ひとりずつだった。
サムライひとりとメイジ二人という、よく分からないパーティが迷宮を突き進む。道中の敵は、全てわたしが排除した。
3回目の戦闘で、チャートとシローネの身体を銀の光が包んだ。レベルアップだ。
==================
JOB:MAGE
LV :1
CON:NORMAL
HP :11+3
VIT:14
STR:14
AGI:16
DEX:14
INT:9
WIS:8+1
MIN:15
LEA:12
==================
チャートがコレ。引きが悪いけど、まあ、偏りだね。
==================
JOB:MAGE
LV :1
CON:NORMAL
HP :10+3
VIT:15
STR:13
AGI:17
DEX:14+3
INT:9+3
WIS:7+3
MIN:17
LEA:11
==================
逆にシローネは良い引きを見せた。
「どう? これがレベルアップだよ。多分スキルも1個か2個、手に入ったでしょ?」
「う、うん」
「ああ」
「じゃあゲートキーパーまで一直線だよ。倒したら多分、レベル4かな」
「ぼくが手伝えることってある?」
「お、おれもだ」
「今は無いね。二人はまだ弱い。だけど、ここからどんどん強くなっていくんだよ。そのために必要なことって、分かってるよね?」
「努力」
「根性」
「分かってるじゃない」
まずは、この子達の可能性を広げる。苦手な後衛系のジョブに就かせて、幅を持たせる。それが育てる側の責任だ。
◇◇◇
「さあ第4層のゲートキーパーだ。わたしひとりでも倒せないことはないけど、今回はお荷物が二人もいるんだよね」
「そういう挑発に、おれは乗らないぞ」
「安いね」
「でも、協力はしてもらうよ。取り巻きの雑魚で構わないから、覚えたスキルを全部ブチかまして。当然できるよね?」
「やらいでか」
「乗っちゃる」
よし、ビビっちゃいない。それでいいんだ。
「じゃあいくよ。レベルアップして、ついでに鍵を奪いとるよ!」
一応安全と安心のために、バフって、デバフってゲートキーパーをギタギタにしてやった。
チャートとシローネはレベル3になり、鍵もゲットした。さあ、5層へ行こう。あの場所へ。
1時間ほどして、ターン組とサーシェスタ組もやってきた。全員レベル3は確保したみたい。よしよし。ところで『村の為に』面々は何にビビっているのかな?
「あれが……、うわさの『緑色の悪魔』か」
「ほんとうに緑色だわ」
「いや、少し青も混じっている」
色はどうでもいいから。君らのこだわりはどうでもいいんだ。それよりか、レベルだレベル。ほら、チャートもシローネも油断しない。敢えてカエルを何匹か回しているんだよ。
「バフとデバフかけてるんだから、いくらメイジでもこれくらい殴り倒して」
「おう!」
「がんばる!」
いいか後続の年長組。これがカエルレベルアップで、そして、戦う年下たちの姿だよ。目に焼きつけといてね。
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