第2章 クラン設立編

第31話 開拓編?





「金ならある」


 わたしは多くの人々が、一生の内に一度、いや何度となく言いたい言葉ランキングに入るであろう台詞を放った。


「そ、そうですか」


 相手の不動産屋さんは引いていた。なんといってもこんな小娘と、さらに小さい黒柴耳娘が腕を組んで堂々と言ったのだから。


「ついでに、こちらも」


 次にわたしが繰り出したのは、冒険者協会副会長、ジェルタード・イーン・カラクゾット男爵令息の紹介状だった。


「何故そちらを先に出してくれないのでしょうか」


「なんとなくです」


「そうですか」


 不動産屋さんは深く深くため息を吐いた。


「ところでさっきのお金の話ですけど、レッサーデーモンの皮か肝でもいいですか?」


「本当に勘弁してください」


「サワ、なんか可哀そうだぞ?」


 ターン、君はどっちの味方なのかね?



 ◇◇◇



 今わたしが所望しているのは、土地と建物だ。そう、クランハウスだよ。クランと言えばハウスというくらい必然の存在なんだ。


 現状では『クリムゾンティアーズ』とプリースト互助会の元会長サーシェスタさん、それとわたしとターンの合計9名。それが新しいクランのメンバーだ。『狂気の沙汰』? 知らん、そんなものは。


 例の黒門騒動の後、褒章ということで勲章は貰ったのだけど、副賞? で、男爵令息に紹介状を書いてもらった。二つ返事だった。話せる貴族はいいね。

 そして今、その紹介状が不動産屋さんに圧迫を掛けている。気の毒に感じるが、なにも踏み倒す気は無いから安心してほしい。


 必要なのは、適切な物件なんだから。


「確認ですが、最大100名は収容可能で、家庭菜園とは思えない規模の農場と、広大なロビーとキッチン、大浴場と地下空間、訓練場の他に芝生でできた庭、さらには上下水道完備ですか」


 大浴場と地下はわたしの要望だ。お風呂は必須だし、地下施設は秘密基地的要素があって素敵だ。

 芝生はターンの願い、すなわちドッグラン施設だね。衛生の観点からも上下水道は当たり前だ。


 つまりは至極当たり前の要求なのだ。相手は頭を抱えているけど。


「籠城を前提としているのでしょうか」


 この人は何を言っているのだろう。わたしは快適な生活をしたいだけなのだけど。


「い、一から作るというのはどうでしょう。幸い迷宮の北側は空白地帯に近い状態です。領主様の許可さえ頂ければ、開拓し放題では」


 なんでクランハウスを作るのが、開拓になっているんだろう。


 そんなわけで、わたしたちの名前未定のクランは、迷宮にほど近いけれども、僻地とも言える場所を確保してしまったのだ。


 どうやって領主様の許可を取ったかといえば、例の男爵令息の叔父がここの領主だったというオチだ。伯爵様らしい。



 ◇◇◇



「100人はダメよ」


「え~」


「え~」


「ターンは真似しない。芝生は許可するから」


「分かった」


 ターン!?

 ウィスキィさんにサクッとクラン100人計画は却下された。まあ、それはいい。だけど大浴場と地下室は譲れない。死守だ死守。

 モンスターを狩って、美味しい食事をして、お風呂に入って、寝る。それが今のわたしの最大目標なのだ。恋愛? なんだそれ。


 せっかく描いた秘密基地めいた設計図を、真っ赤に修正していくウィスキィさんが鬼に見える。何故か涙が滲んでくる。おっきいお風呂。秘密の地下室……。


「はあ。まあ大半はサワとターンの稼いだ資金だし、仕方ないわね。将来大きくできるような余地を残した設計にしてね」


「はーい」


 お母さんがいたらこんな感じだったのかな? たしなめてくれるのが、ちょっと嬉しいな。


 というわけで、土地だけは確保して、上物は半分程度の規模で造るっていうことで、話は纏まった。建築についてのツテは、ツェスカさんに頼ることになる。



「こりゃまた、豪勢な設計だな。材料費だけでも、幾らかかるかわからんぞ?」


 わたしは密かに感動していた。目の前に居るのは『ドワーフの建築屋さん』だっ!

 これがまた、見事なまでに頑固一徹な雰囲気を醸し出している。高級酒とか差し出したら、ただで建物を造ってくれたりするのだろうか。申し訳ないから止めておこう。


「えっと、どんな材料でしょう? 木とか石とかですか?」


「まあなあ。だけど、この設計で強度を出すなら、迷宮素材くらいだぞ?」


「例えば?」


「そうだな、木材だとマーティーズゴーレムが最高だが、それ以外なら」


「あります」


「ん?」


「沢山あるぞ」


「んん?」


 ああ、ターンも話し合いに参加していたんだった。他の人たちは何故か同情の目を親方に向けている。


「99スタックが20個くらいありますけど、足りますか? 足りなければ取ってきますけど」


「まてまてまて。それは2000本あるってことか?」


「またターン、なにかやっちゃったか?」


「ターンっ!? そういうのどこで覚えてきてるの!?」



 そういうわけで、わたしたちは建築資材を求め、迷宮探索へと向かうことになった。



 ◇◇◇



 今現在のわたしのステータスは、こんな感じだ。


 ==================

  JOB:SAMURAI

  LV :14

  CON:NORMAL


  HP :32+61


  VIT:25+19

  STR:26+30

  AGI:19+21

  DEX:22+35

  INT:31

  WIS:19

  MIN:17+18

  LEA:17

 ==================


 スキルは省略しているけど、マスターレベルなので網羅は完了している。当然コンプリートレベルまで持っていくぞ。

 サムライの面白い所は、MIN(精神力)が上がるところだ。MIN依存のスキルが結構あるので、是非とも上げておきたい。



 そしてターンはこんな感じ。サムライよりシーフの方が必要経験値が軽いんだ。羨ましい。


 ==================

  JOB:THIEF

  LV :16

  CON:NORMAL


  HP :37+62


  VIT:31+13

  STR:31

  AGI:27+42

  DEX:29+53

  INT:10+23

  WIS:9

  MIN:14

  LEA:19

 ==================


 何気にシーフはINTが上がる。索敵、罠解除、鍵開け、どれもこれも知的作業なんだ。

 とは言え、やはりAGIとDEXだ。基礎ステータスだけでも超人的なんだけど、補正まで加えると両方とも3ケタが見えてきている。怖い。



 それ以外でも『クリムゾンティアーズ』の皆は、アベレージレベルが13を超えて、上級パーティとして認知されている。さらに言えばバランスも良い。


 あとサーシェスタさんだけど、元々レベル30のモンクという、ヴィットヴェーン最強の一角なのだ。そういう意味で、名前も決まっていないクランなんだけど、一角の知名度を誇っている。そろそろ名前決定会議を開きたい。



 ◇◇◇



「じゃあ、わたしとターンは、ストーンゴーレムを狩りたいと思います」


「あたしたちは、グラスラビットだね」


「あたしゃ、書類の準備をしておくよ。上への根回しは任せときな」


 そう、わたしたちは気付いていなかった。


 何故、建築資材を買おうという発想に至らなかったのか。せめて報酬依頼でも良かったのではないか? その方が経済も回るはずなのに。


 だけどわたしたちは、所謂、脳筋傾向が強すぎたんだ。知性担当のはずのわたしはレベルアップ至上主義で、素材狩りとレベルアップができると喜んだ。

 ウィスキィさんは薄々気付いていたようだけど、そこは『クリムゾンティアーズ』だ。INTが高いウィザードのフェンサーさんはポジティブ志向で、ポロッコさんは引っ込み思案で言い出せなくって、新参のドールアッシャさんは事務方で不遇だった時代を忘れて今を楽しんでいる。


 そしてサーシェスタさんは気にも掛けない豪放な人柄で、アンタンジュさん、ジェッタさんは、物事を気にしない。ターンなど言わずもがなだ。



 結果としてわたしたちは、クランを作る前にクランハウスを造るという行為に疑問を持たず、しかも素材集めのために迷宮に飛び込むという行為に及んでしまったんだ。


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