第30話 さあ、とことんレベルアップをしよう!
「なあ、いい加減にしないか?」
「なんでですか?」
「あんたら、何時間戦ってるか分かってるのかい?」
アンタンジュさんが何か言っている。今、こっちは忙しいんだけど。
「もう夜の8時を回っていますわ。12時間以上戦っていますのよ?」
フェンサーさんまで、何を馬鹿なことを。
「その、今回の勝利の立役者に対して、大変申し訳ないんだけどね」
ついには、冒険者協会副会長のなんとか男爵令息まで出張ってきた。
「ええー、皆さん楽しそうでいいじゃないですか」
「どうしてこうなったんだろうねえ」
今、青いバトルフィールドの中では、わたしとターンが戦い続けている。周囲はレッサーデーモンのドロップで滅茶苦茶だ。
そして周りでは、何故か冒険者の皆さんが宴会を開いていた。酒のつまみはわたしたちのバトルらしい。
「いいぞー、ターンちゃん!」
「サワお嬢は、腰が入ってないぞ、腰が」
わたしはプリーストで、エンチャンターだ!
基本はわたしがタンクで、ターンがアタッカーだ。メイスで敵の物理攻撃を受け止め、そこにターンが一撃をぶち込んで、トドメって感じだ。
サモナーデーモンは基本無視だ。魔法を使おうとしても封じ込められ、物理攻撃は躱されるか、わたしが受け止めて速攻で治る。やれることと言ったら、新しいレッサーデーモンを召喚するくらいだね。気のせいか目が死んでいないか?
◇◇◇
「ところでサワ」
「なんですか、サーシェスタさん」
「あんたとターンで、あのサモナーデーモン、倒せるのかい? 弱体化しているったってねえ」
「そうですね。今のままだとちょっとムリっぽいですね」
「あんたねぇ」
「サーシェスタのおばちゃんよお、一旦戦闘切って、俺たちでかかればいいじゃねえか」
「何言ってんですか。わたしたちが逃走したら、特殊効果が全部消えて、ふりだしに戻る、ですよ。それに経験値もドロップも全部消えるじゃないですか。ありえません!」
「じゃあどうすんだよ」
「こっちも回復魔法尽きかけですし、そろそろ仕方ないですね。ターン次のジョブは決まってるの?」
「ん」
「ならやるかあ。コンプリートはちょっと惜しいけど、仕方ないね」
わたしは覚悟を決めた。さすがに回復魔法無しだと、ターンが危ない。
だからわたしは『次の奇跡』を起こす。
「『ラング=パシャ』!」
私の願いはちっぽけな奇跡だ。『戦闘中のジョブチェンジとレベルアップ』。これでまた、レベルが2つも持っていかれる。やるせない。
わたしとターンの身体を銀色の光が包み込んだ。
==================
JOB:WARRIOR
LV :28
CON:NORMAL
HP :22+108
VIT:17+87
STR:17+97
AGI:17+21
DEX:19+39
INT:31
WIS:19
MIN:17
LEA:17
==================
こっちがわたし、レベル28ウォリアーの誕生だ。勿論コンプリートレベルだけど、スキルは省略。
==================
JOB:WARRIOR
LV :32
CON:NORMAL
HP :24+135
VIT:21+103
STR:20+111
AGI:25+29
DEX:25+41
INT:10
WIS:9
MIN:14
LEA:19
==================
そして、ターン。レベル32のウォリアーだ、補正ステータスが3桁入っているのが素敵。『奇跡』のお陰で、わたしの方がレベルが低いのが、なんとも悔しい。
◇◇◇
「さて、そこの2体のモンスターさんよぉ。弱体化してるようだけど、レベル32のウォリアー相手にどうするのかな」
「ぶっとばす」
「まあまあ、落ち着いてターン。さっきのジョブジェンジでバフが吹き飛んじゃったからさ」
私はバフを掛け直す。
「『BF・INT』」
例によってINTバフからだ。
「『BF・VIT』『BF・STR』『BF・AGI』『BF・DEX』『BF・WIS』『BF・MIN』『BFW・SOR』『BFW・MAG』『BFW・LEA』!! そして『ピィフェン』(個盾)!」
これを2回。
「ん、『芳蕗』『向上』『活性化』」
ターンも自分なりに自己能力向上スキルを発動した。
「あははっ、なんか少年漫画の主人公みたいだ!」
「なんだそれ?」
周りで見ている観衆たちもゴクリと喉を鳴らす。
「おい、勝てるか?」
「勝てるわけねーだろ。なんだありゃ」
「エンチャンターって2割向上いや、サワ嬢ちゃんなら2割1分上昇か」
もちろん相性とか、連携とかはあるだろうけど、この瞬間、ヴィットヴェーン最強の個体はわたしとターンだ!!
「ターン、わたしはそっちのよわっちいデーモンやるから、親玉任せるよ」
「かしこまり」
もはや突っ込むまい。
新しいウォリアーのスキルが沢山あるけど、面倒だ。
「『強打+1』『強打+1』『強打+1』ぃ!!」
どごぉぉん! どごぉぉん! と大きな音を立てて、レッサーデーモンは粉々になって消え失せた。
そしてターンだ。
「『無拍子』『発勁』『掌打』、からの『鉄山靠』」
それだけで、サモナーデーモンはチリになりかけた。
「『裡門頂肘』!」
トドメの肘が、相手の胸に突き刺さる。そのままターンは残心し、そしてゆっくりと構えを解いた。
冒険者たちの歓声が上がる。
こうして、『ヴィットヴェーンの黒門事件』は終わりを迎えた。
◇◇◇
その後は、まあ、色々あった。副会長から『ヴィットヴェーン特別従軍勲章』を送るという話だとか、ウィザード互助会とシーフ互助会も、淡々とわたしたちを狙っているとかだ。今回の戦いに参加した全員に勲章が配られるらしい。わたしの胸に、3個目の勲章が加わるわけだ。何処の偉いさんだ?
そういえば、冒険者協会の会長さんは帰ってこなかった。どうなったんでしょう。
後は、素材の始末だ。実に500枚以上のレッサーデーモンの皮と、30個ほどのレッサーデーモンの肝。素材査定担当者さんは頭を抱えていた。さすがに通貨扱いするには値が高すぎたようだ。
もう少ししたら、サーシェスタさんも引き継ぎを終えて、『クリムゾンティアーズ』にやってくるだろう。『名誉最高顧問』という役職が確約されている。
要は、レベルアップは続くけれど、『第1章 レベルアップ編』は終わりを告げ、『第2章 クラン設立編』が始まろうとしている。
そういえば、クランの名前ってどうするんだろう?
そんなわたしとターンは今、冒険者協会の『ステータス・ジョブ管理課』にやってきていた。
「今日は、お二人ともジョブチェンジですね?」
先の作戦の後方指揮所で、辣腕を振るっていたお姉さんが確認してきた。なんでこの人、まだ受付やってるんだろう。冒険者協会の幹部になっていてもおかしくないと思うんだけど。
「さて、どうするんですか。楽しみですね」
「じゃ、ターンからどうぞ」
「うす!」
そう言って、ターンは手のひらをかざした。
==================
JOB:THIEF
LV :0
CON:NORMAL
HP :37
VIT:31
STR:31
AGI:27
DEX:29
INT:10
WIS:9
MIN:14
LEA:19
==================
ついにと言うか、ターンはシーフとなった。基礎パラメータが30超えている一般人がいるかっ!
何にしてもついにターンは歩み出したのだ。果てしないニンジャ道を。
次にわたしだ。
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JOB:SAMURAI
LV :0
CON:NORMAL
HP :32
VIT:25
STR:26
AGI:19
DEX:22
INT:31
WIS:19
MIN:17
LEA:17
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なんかこうすっごいなだらかなパラメーターだけど、これでも一般から比べれば脅威だ。そして私の選んだジョブは『サムライ』だ。良いよね日本刀。コンセプトは回復とバフができてバサバサと切りまくる、一人プラトゥーンだ。
そう、私も昇り始めたのだ。先の見えないサムライ道を。
さあここからだ。まだまだここからだ。最強にも究極にも至っていない。だけどわたしは上り詰めるし、そこにターンも付いてきてくれたら嬉しいな。
ゲームみたいな異世界で、強くなって、そして人たちと出会って、わたしは変われたのかな? これからも変われるのかな? それがなんとなく嬉しいよ。
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