第29話 舞台は整った!
「これを持っていきな」
「これは?」
「Vパワードメイスとハイエンハンスドチェインメイルって、あたしは呼んでるけどね。プリースト時代の愛用品さ」
メイス+2とチェインメイル+2ってところだろうか。何にしてもありがたい。今回だけは、自分も前線に出る予定なんだから。
「これも持っていくとよい。知性のネックレスじゃ。INTが上がる効果はあるはずじゃ」
「……ありがとうございます」
「これは、黒鉄の手甲と脚甲だ。使え。低確率だがクリティカルも出る」
「うん、ありがとう」
なんか『晴天』のリーダーさんまで、ターンになんか渡している。
「ブラックリザードの皮で作った革鎧だ。動きを阻害することはないだろう」
「うん、ありがとう」
そして『リングワールド』のリーダーまで悲壮感を漂わせている。あと、ターン、語彙力が足りないよ。
死装束扱いは勘弁だ。わたしたちは死に行くわけじゃないんだけどなあ。雰囲気が今生の別れっぽいのが気に食わないなぁ。
◇◇◇
「さて、6時きっかり。作戦開始だ」
ここは第8層から第9層への階段手前広間だ。副会長が高そうな機械式時計を置いて、作戦開始を告げた。実質これで、彼の仕事は半分終わりだ。残り半分は、失敗して撤退か、成功して目出度しかの宣言くらいだ。
9層のマップは完備されている。中央付近の大広間から東西南北に大通りが突き抜け、各所に部屋がある構造だ。南側が8層への階段。北側に10層への階段がある。
構造が比較的分かり易くトラップも無いことで、狩場として主に上級冒険者に重宝されているんだ。
今、その各所にシーフやニンジャが駆け抜けていく。何処に通常モンスターがいるか、何処にレッサーデーモンが何体いるか、そしてサモナーデーモンは何処にいるのか。
情報量を多くするために、パーティ単位ではなく単独もしくは多くても3人での、命がけの探索だ。
「2-5、ウォーキングスネイク12。2-7、レッサーデーモン2」
「3-27、ラージスパイダー5。3-19、レッサーデーモン1」
当たり前だけど、南側からの情報が早い。その後も索敵範囲は広がっていく。
「索敵範囲が4割を超えました。確認されたレッサーデーモンは12、その他は58です」
「出し処ですかね。南半分を一掃できますよ」
それぞれ受付嬢さんと査定担当者さんの言葉だ。
「一応出し惜しみをしようかね。レッサー狩りを6パーティ、その他を10パーティだ」
サーシェスタさんの言葉だ。レッサーを狩れるのは17パーティ、その他ウィザードを中心にしたパーティが27だ。3分の1の投入で南半分を抑えるつもりだ。
「おらおら、いくぞぉ」
「他の連中に負けんなよお!」
次々とパーティが飛び出していく。私たちの出番はまだ。
「17-15、いました! サモナーデーモンです!!」
「周辺の索敵を密にしろ!」
「やっぱり中央広間かあ。好都合ですね」
階段を降りて一直線だ。『クリムゾンティアーズ』もアップを始める。彼女たちは、わたしとターンの水先案内人だ。
「サワ、ターン。死ぬんじゃないよ?」
アンタンジュさんが心配そうな顔をこちらに向けた。
「わたしが死ぬと思います? わたしがターンを死なせると思います?」
「あはは。説得力がありすぎて、何も言えないよ」
「北側の索敵8割終了です。『晴天』『リングワールド』『白光』出てください!」
「あとは嬢ちゃんたちに任せるぞ!」
「任されました! そちらも気を付けて!」
「若い娘にそう言われたら、おぢさん頑張っちまうよ!」
なんだかんだ気持ちの良い連中だよなあ、冒険者って。わたしは冒険者できてるのかな?
◇◇◇
「ほぼ想定位置に、全パーティ到達。順調です!」
「さあ、最終段階ですよ。『クリムゾンティアーズ』『狂気の沙汰』出陣です!」
「おう!」
「ねえ、その名前って何? なんなの?」
「かっこいいな」
ターン!? まあ今は名前のことはいい。あとで問い詰めるけど。
わたしとターンは、両脇を『クリムゾンティアーズ』に挟まれるようにして、南北を貫く大通りを走り抜けていく。
脇では戦闘音が聞こえる。だれもが大通りに敵を近づけないように、奮闘していてくれるはずだ。誰も死なないで。お願いだから。
ふと、前方脇から2体のレッサーデーモンが現れた。
「出番だねぇ。サワ、ターン! 行きなあ!!」
「おう!」
レッサーデーモンを『クリムゾンティアーズ』に預けて、ついに二人きりとなったわたしとターンは駆け抜ける。いやあ、バイタルポーションがあるって助かるわ。
「見えた!」
ターンの目が、どうやら標的を捉えたらしい。
「取り巻きは?」
「2体!」
「ちっ。不味いかな」
「そいやああ!」
レッサーデーモンをぶん殴ったのは、サーシェスタさんだった。それに追撃をかけたのは『黒門』の報告をしてくれた例のパーティだ。
そのまま彼らはバトルフィールドを展開し、レッサーデーモンを取り込んでくれた。
「行けや、サワ嬢ちゃん! ターンちゃん!」
次の瞬間、ターンがブレた。『速歩+1』と『踏み込み』を連動させて、サモナーデーモンに迫る!
「どうりゃあ!!」
わたしがそこに到達した時には、ターンの『裡門頂肘』が敵に炸裂していた。戦闘判定だ。
わたしとターンと、そしてサモナーデーモンのみがバトルフィールドに取り込まれた。
さあこれで、こっちかあっちが倒れるか、それともわたしたちが逃げ出すかまで戦闘は終わらないし、誰にも邪魔はさせない。まったくもって、狙い通り!
◇◇◇
「『BF・INT』ぉ!」
開幕はINTバフからだ。そしてそこから。
「『BF・VIT』『BF・STR』『BF・AGI』『BF・DEX』『BF・WIS』『BF・MIN』『BFW・SOR』『BFW・MAG』『BFW・LEA』!!」
考えうる限りの全てのバフを、わたしとターンに掛けまくる!
「ついでに『ピィフェン』(個盾)!」
だがその間にも、サモナーデーモンからの魔法が襲う。炎系中位範囲魔法か。当然ターンにダメージが入る。わたしはほっといてもすぐ治るからいい。
「『ファ=オディス』(中癒)!」
「『芳蕗』!!」
ターンも負けてはいない。カラテカスキルの最上位、戦闘時間内のMINを30引き上げるスキルを使った。凄まじい集中力がほとばしり出る。
次の瞬間、サモナーデーモンがレッサーデーモンを召喚した!!
「それを待ってた! 『ラング=パシャ』!!」
プリースト最終スキル、『ラング=パシャ』は奇跡を起こす。ただし奇跡と言っても意外とショボい。神様の脚が降ってきて、敵を全滅させるなんてことはない。
しかもこの『奇跡』、術者のレベルを2つ下げる。
そうだ。わたしともあろうものが、レベルを犠牲にまでして望む、そんなちっぽけな奇跡とは。
「敵、魔法無効化解除ぉ!!」
わたしが望んだのは、魔法無効化を持つ敵のそれを解除する、それだけの奇跡だ。
「『モンサイト(魔封)』『モンサイト』『モンサイト』『モンサイト』『モンサイト』『モンサイト』おおおお!!」
わたしは、2体のモンスターの魔法を封じ込める。
「『DB・VIT』『DB・STR』『DB・INT』『DB・AGI』『DB・MIN』『DB・DEX』『DBW・SOR』『DBW・MAG』!!」
まずは、召喚されたばっかりのレッサーデーモンにデバフセットを送りつける。
「もう一丁! 『DB・VIT』『DB・STR』『DB・INT』『DB・AGI』『DB・MIN』『DB・DEX』『DBW・SOR』『DBW・MAG』!!」
さらにサモナーデーモンにもだ。これで準備は完了だ!
「さあさあ、舞台は整ったよ! わかってるよね? ターン」
「あいさ、敵を倒しきらない」
「だから言葉。でもそういうことだよ! ここから召喚されるレッサーデーモンは、『弱体化したまま』登場する!」
ゲームの仕様だ。この状態で召喚される新規モンスターは、直前1体のコピーになる。つまり、魔法無効化を持たず、魔法を封じ込められ、極限のデバフを抱えたモンスターが続々と登場するわけだ。
そんな時、君ならどうする?
わたし? 当然、レベルアップの時間に決まってるじゃないか!!
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