第214話 52層で転職問答





「えっと、どうしよう」


「サワ、落ち着け。5日はかかる」


 ターンが指さした黒門を見れば、なるほど。


「桃色。けっこう深いね」


「おう」


 さて、報告だ。



「朗報と凶報です」


 もしもを考えて、ちょっと離れたところで待機してもらってたみんなに説明タイムだ。


「ほう。朗報からと言いたいが、まずは凶報からだな」


 なんだかその、わたしの言うところの朗報が信用されてない。

 いや、本当に朗報なんだから、聞いてよ王様。


「多分5日くらいで門が開きます」


「んなっ!?」


 変な叫び声ださないで、第1王子。


「まあ、上からの救援はあり得ませんね。黒門が塞いじゃってますから。当然わたしたちにも逃げ場がありません」


 地上に逃げられないって意味だと、最悪レベルの異変だね。迷宮の悪意がバリバリだよ。

 あ、下に降りて『ガル・ハスター』さんを探すってのはあるか。


「どうするのだ?」


「そこで朗報です、陛下」


「……」


 だから疑わしげな顔をするのやめい。


「……申してみよ」


「階層を降ります。黒門に対応するためのレベリングですね。素晴らしいと思いませんか?」


 ほれ『訳あり令嬢』たち、頷け。いいから、ほら。

 ごきり。鈍い音をたてながら首の骨を鳴らしたのはターナだった。いや、ランデもバキバキ指を鳴らしてるね。


「腕が鳴るわ」


「燃えるねー」


 あ、冒険者モードだ。第1王子と第3王子が驚いてるよ。二人が外で素を晒すとこなんて、見たことないんだろうなあ。



「し、正気か?」


「いたって健康です」


 こっち来てから風邪しらずですよ。


「そ、そうか。では我たちはどうすればよいのだ。隠れる場所は」


 ポールカード第1王子殿下が腑抜けたことをぬかしてる。横では第3王子もだ。あんたらさ、娘さんたち見て、それでもまだそんな態度なワケ?

 こんなことになったのは確かにターンの発案かもだけど、調子こいてそれに乗っかったのはそっちじゃないか。いやごめん、安全って言ったのわたしだったわ。反省、反省。


 というわけで、自分的言い訳アンド責任回避終了。我ながら酷いなあ。いや、これは現状を鑑みて、必要な措置だ。そうなのだ。

 ならば言うことは残り少ないぞ。


「王陛下、両殿下、そしてメッセルキール公、オーブルターズ殿下、ブルフファント侯。護衛の皆さんで合計18名ですね」


「あ、ああ、そうだな。どこに待機すれば」


 第1王子の声が震えてる。王様はっと。へえ、泰然としてるじゃない。


「非常事態なのは理解できる。余はサワノサキ卿の指示に従おう」


 すっげえ、この状況でわたしに全権委任してきたぞ。やるねえ、王様。


「お言葉に甘えて、まずはプリーストからです」



 ◇◇◇



 そうだよ。全員でレベリングとジョブチェンジだ。朗報って言ったでしょうに。

 多分、王様とオーブルターズ殿下、メッセルキール公爵あたりは気付いてたと思う。『訳あり』は言わずもがな。ブルフファント侯爵は知らん。


「承知した」


「へ、陛下!?」


 即答する王様に対して、動揺を隠せない第1王子と第3王子。対比だねえ。


「我と『雲の壱』、それとそこのプリーストはどうする?」


 オーブルターズ殿下の言う通り。今回の護衛の半分は『雲の壱』なんだ。実際助かるよ。

 そこのプリーストっていうのは護衛の残り半分、近衛騎士団のひとりだ。


「オーブルターズ殿下と『雲の壱』は好きにしてください。出来れば前衛系です。そこのプリーストさんは、そうですね、ウォリアーからやりますか」


「……はっ!」


 一瞬王様を見て、頷いたのを確認してからだけど、まあ素直で大変よろしい。


「陛下はご納得ですね。では両殿下、メッセルキール閣下とブルフファント閣下、プリーストです」


「必要なのだな、承知した」


「……よかろう」


 メッセルキール公爵とブルフファント侯爵が了解してくれた。公爵はわかるけど、侯爵、意外に素直だね。

 残りは護衛5人と両殿下か。


「わ、我にプリーストになれと言うのか!?」


「そうです」


「我は第1王子なるぞ、将来の王」


「黙れ、ポールカード。余はまだお前を立太子した覚えはない。無論、ケースローン、お前もだ」


「は、ははっ」


 ケースローンって第3王子の名前ね。


「そもそもだ。娘の前で取り乱すなど、普段から自認しておる高貴なる者としてどうなのだ? 恥と知れ!」


「ははっ!」


 王様の一喝だ。さすがに王子二人も縮こまったよ。ターナとリンデの視線が冷たい。ダメだよお父さんと居られる間は大事にしないと。

 さて、これで『訳あり』以外のジョブチェンジは決まりかな。


「あっ、あの、私、私なのですが、プリーストになれませんっ!」


 護衛さんの一人が叫ぶように言った。はて?


「何故ですか?」


「WISが、WISが足りないのです」


 ああ、ナイトはWIS上がんないもんねえ。だから、そう泣かんでも。


「えっと、メイジでどうぞ」



 ◇◇◇



「『訳あり』ですが、ターナとランデは好きにしていいからね。問題は……」


「『イーリアス』ね。わたくしはもちろん辞退だけど」


 リッタはそう言うけどさ、この『イーリアス』は超級ジョブ、『アイネイアールス』へのジョブチェンジアイテムだ。

 オーブルターズ殿下救出で出たもんだから、まだヴィットヴェーンには知らせてない。『クリムゾンティアーズ』なら、いざという時は好きに使ってもいいって、笑って言うだろう。そして、今、いざという時なんだよねえ。


「対象者はターン、ズィスラ、キューン、ポリン。チャート、シローネ、リィスタ、シュエルカ、ジャリット。イーサさん、ワンニェ、ニャルーヤ、ワルシャン。って多いわっ! てか、全員が条件満たしてるかもわかんない」


 わたしはラウンドナイトだから除外して、後衛系のメンバーも外して、さらに『クリムゾンティアーズ』『ライブヴァーミリオン』『セレストファイターズ』も選外にして、それでもこれだ。マルチジョブの数少ない弊害だね。弊害なのか?


「ごめん、ズィスラ。『ルナティックグリーン』も外して」


「わかってるわ! なんでわたしに謝るのよ」


 いや、一番なりたそうだったからさ。『ルナティックグリーン』を除外したのは、わたしがラウンドナイトだからだ。1パーティに二人の超級ジョブはちょっとアレだしね。


「わたしは辞退します」


「わ、わたしもですぅ」


 妙な圧のお陰かイーサさんとワルシャンが、まず脱落した。


「ぼくも、後で構わない」


「おれも」


「……わたしはエインヘリヤルを持ってない」


 続いてチャート、シローネ、ジャリットが降りた。ジャリットごめん。全員のジョブは把握できてないよ。

 ま、まあ、3人とも別の目標路線があるからね。

 というわけで残ったのは、リィスタ、シュエルカ、ワンニェとニャルーヤ。シュエルカあたり、辞退するかと思ったけど、残ったね。


「んじゃ、恨みっこ無しのジャンケンね」


「おう」


 こっちの世界にもあったんだよ、ジャンケン。別にわたしの知識チートじゃないからね。



「わたしの勝ち、です」


 勝者はリィスタだった。元々前衛志向が強いビルドだったし、特に直近がベルセルク、エインヘリヤル、グラディエーターと、まさに『アイネイアールス』を取得せいってノリのジョブ推移だったんだ。運命を感じるよ。

 ところでジョブチェンジまでの流れ、長くない?



 ◇◇◇



「『ラング=パシャ』」


 対象者だけをまとめて、一気にジョブチェンジだ。奇跡を担当してくれた『雲の壱』の皆さん、ありがとうございます。


「いいってことでさあ、姐さん」


 誰が姐さんか。



 さて、リィスタはアイネイアールス、ターナがエインヘリヤル、そしてランデはベルセルクだ。全員ウォリアー系だね。硬くて、スキル自由度が高いのを選んだってわけだ。方針わかってるじゃん。

 オーブルターズ殿下を含めた『万象』も剣士か、ウォリアー系を選んでる。ここらへん、冒険者としてどうすべきかわかってるのが頼もしい。


「これでよいのか?」


 まだ納得してないのか、第3王子がブスくれてる。こいつは。


「ではこれからの方針です」


 だけど既成事実はなった。もはや文句は言わせん。


「プリースト、ウォリアー、シーフ、パワーウォリアーで繋ぎます。目安はレベル30台です」


「ほわぁ!?」



 だから第1王子、変な叫び声あげないでよ。


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