第215話 ロイヤルレベリング





「プリーストで自己回復、ウォリアーで基礎体力、シーフでAGIとDEX、パワーウォリアーでHPとVITとSTRを稼ぎます」


 これが基本方針だ。ホントはカラテカとかエンチャンターを挟みたいけど、柔らかいのは致命傷になりかねない。今回はオミット。

 ついでにウィザードもキャンセル。魔法無効化の敵だったら終わる。物理無効化の敵? そんときは隅っこで待機しててもらおう。


「とまあ、そういう趣旨です。時間に余裕があったら、ナイトでもロードでも上位ジョブに就いていいですからね。ご当人の努力次第です」


「なるほど煽ってくるか。乗せてくるのが上手いな」


「いえ別に。本音ですから」


 王様がウンウンと頷いてるけど、別にホントのこと言ってるだけですよ。


「そういうことにしておこう。30年ぶりに腕が鳴るわ」


 好きにして。

 まあ護衛の内二人、青い顔してる元ハイウィザードさん達以外は、ナイトやらロードやらの下地があるんで、問題ないでしょ。大丈夫、絶対に守り抜くから。


「近衛でしたっけ?」


「それが?」


「王家直轄なんですよね。オーブルターズ殿下につけて、ちょっと鍛えてみれば」


「この期に及んで、先のことか」


 王様がなんともいえない表情してるよ。先を見据えたっていいじゃない。


「……検討しておこう」



 ◇◇◇



「ええっと、最初に謝っておきます。ごめんなさい」


 わたしはみんなに、特にお偉いさんと護衛の皆さんに頭を下げた。申し訳ないって思ってる。ホントに。

 どこか迷宮の悪意を甘くみてた。ここがヴィットヴェーンじゃないってのもあった。ついでに言えば、『訳あり』の凄さを王都の偉いさんに見せつけてやるわ、って調子こいてた。

 だから謝る。そして、絶対に地上に戻す。


「ここからのレベリングは、皆さんを無事に地上に戻すためのものです。怪我はさせるかもしれませんが、絶対に死なせません。諦めてわたしたちについてきてください」


 もっかい頭を下げて、そして決意を固めた。さて、やるかあ。


「それじゃ行きますよぉ」


「おう!」


『訳あり』と『万象』からは威勢のいい声が聞こえる。それ以外は緊張で無言かな。まあ、仕方ない。

 偉いさん6人は『訳あり』で引き受ける。護衛メンバーは『雲の壱』が3人ずつで2パーティ。



「声を上げといてなんだけどサワ、ちょっと違うわ」


「ターナ?」


「そうでしょう。陛下、叔父様、お父様? 別に王家の危機という意味ではありません」


 いや、十分王家の危機でしょ。第2王子とか第5王子は地上だけどさ。

 王様以外でも継承権持ちが、えっと、7人もいるんだけど。


「わたくしたち王族が探索途中で『偶然』起きた迷宮異変。これは終息させるは、王族の責務。そうは考えられないでしょうか。わたくしはそう確信します。これはそう、高貴たる者の義務です」


 ターナが気を吐き、横ではランデが頷いてる。ロイヤルな理屈だねえ。でも、間違っちゃいないかな。


「これも何かのご縁。王国の禄を食む者として、わたくしサワノサキを筆頭にご助力を捧げたく思います」


 わたしたち『訳あり』が膝まづくと同時に、オーブルターズ殿下を筆頭にした『雲の壱』も、メッセルキール公爵とブルフファント侯爵、さらには護衛の皆さんも同じ姿勢をとった。

 ターナのせいで、コトが王族の責務案件になっちゃったよ。まあ、やることは変わんないか。


「此度の黒門氾濫を解決すれば、王家の名声もいや増すことになると存じます」


「わかった。ではオーブルターズよ、サワノサキ卿よ、差配は任せる。見事鎮圧せしめてみよ」


「御意!」


 今度こそ出撃していいんだよね?

 ちらっと王様を見る。


「先鋒は今指名した二人だ。行け!」


「はっ!」


 よかった。やっとこさ出撃だ。



 ◇◇◇



「リィスタはチャートと『ブラックイレギュラー』。ガンガンレベル上げて」


 リィスタのレベリングは急務だ。ぶっちゃけ、正面戦力は『訳あり』だけでやるつもりだしね。


「ターナはズィスラと、ランデはシローネ」


「わかったわ」


「了解ー」


 ターナはエインヘリヤル、ランデはベルセルクだ。硬いマルチウェポンファイターは、この状況だと最高の選択肢になる。もちろんレベリング前提だけどね。

 さて他のペアはと。


「第1王子殿下はポリン、第3王子殿下はキューン、メッセルキール公はヘリトゥラ、ブルフファント侯、えっと、ワンニェ。陛下はわたしです」


 これで『ルナティックグリーン』は消滅した。『ブラウンシュガー』も残り3人。


「『ブラウンシュガー』は3人で。『ブルーオーシャン』はリッタとイーサさん、それ以外に分割。『ライブヴァーミリオン』は4人でやってください」


「おう!」


 さあ、パーティはこれでいい。後はとにかく戦闘だ。

 53層へ突入。敵よ来い!



「陛下、申し訳ありません」


「よ、よい。……必要な行いなのであろう」


 許可は得てるけど、王様を肩に引っ担いで戦闘とは、わたしも想像の埒外だよ。背負子もってくればよかった。

 米俵状態の王様は、たまにグエとかゲェとか言いつつも文句は言わない。逆に痛々しいね。ごめんなさい。でも、戦闘のたびに銀色に光ってるから、まあいいですよね。


「陛下、レベルは?」


「ぐぷっ、7、だ」


「快調ですね。コンプリートまでいったらジョブチェンジです。ごめんなさい」


「ぐぼっ、な、なにがだ」


 なかなか素敵なコミュニケーションだ。よく考えたら王様と二人きりで会話なんて、初めてだね。


「本当ならWIS上げでレベル50までもってきたいんです。後日ビショップからナイチンゲールとカダで補完してください」


「げはっ、そこまで、する、のか」


 当然じゃない。第3世代レベリングはその領域なんだから。



「どう?」


「あと30分。それでコンプリートさせる」


 第3王子を引っ担いだキューンが断言した。ポリンやヘリトゥラも頷いてる。

 レベリング開始から大体5時間。ここまでは順調だね。


「コンプリートした」


 キューンの予言通り30分後、高貴なるプリーストたちがコンプリートした。ひとりメイジコンプもいたけど、彼は涙ながらにプリーストになった。良かったね。


「そうだ。サワ、これ」


 ポリンがインベントリから取り出したのはネービルイヴィーの蔦だ。


「ああ、それがあったかあ」


 本来はマーティーズゴーレムの木材と並んで、陣地構築用の資材だ。だけどこの場合。


「陛下、ジョブチェンジが終わったら、縛ります」


「縛る?」


 王様が怪訝そうだけど、今はそれどこじゃない。

 そんなわけで、ターナたちに手伝ってもらって、王様を背中に括り付けた。うん、安定度がマシマシだね。


「申し訳ありませんが、次もコンプ止まりです。シーフからは40以上目指しますから、期待しててくださいね」


「あ、ああ」


 王様が盛大に引きつってるけど、多分早くシーフになりたいんだろう。そうに決まってる。



 ◇◇◇



「まあ、間に合ったというか、間に合わせたってか」


「余がホワイトロードか。悪くはないが、なんともなあ」


 この4日で王様の口調がくだけた気がするね。

 貴顕なプリースト組は、プリーストとウォリアーをコンプリートして、シーフ、パワーウォリアーでレベル40を達成した。その後満を持して、近衛の皆さんはヘビーナイトやらロード、エルダーウィザードになってもらった。エルダーウィザードさんは滂沱の涙だったよ。ついでにメイジさんは一手遅れたけど、パワーウォリアーでレベル50台になった。それはそれでヨシっ!


「皆さんはこの4日を濃密に使い、いっぱしの冒険者になりました。それなりのジョブにも就き、実質レベルは30の後半といったところでしょうか」


 まあ悪くはない。悪くないけど、まだ足りない。


「ですが、それは数字の上だけの話です」


「どういうことだ」


 大分やさぐれた感じの第1王子が言った。


「未熟。その一言に尽きます」


 いつだか、ああ、わたしが伯爵にされた時だ、その時の言葉を繰り返す。


「皆さんはあの時の、ターナとランデにはるかに劣ります。しかも実戦経験が圧倒的に足りない」


「では、どうすれと言うのだ!」


 同じく目つきが悪くなった第3王子が叫ぶ。


「これからじゃないですか。門が開きます。敵がいっぱい出てきます。ほら、実戦経験です」


「狂人めえ」


 狂人で結構。自覚もあるよ。


「大丈夫。皆さんはわたしたちが守ります。ただし甘やかしません。死んだ気で生き残ってください」



「サワ、開くぞ」


 相変わらずターンのセリフは分かりやすい。

 黒門を挟んだ向こう側の階段じゃ『万象』やら『オーファンズ王都支部』が集まって大騒ぎだ。

 そうして門が開く。


「アイアンとプラチナゴーレム。ミスリルも混じってる」



 門から出てきたのは、ゴーレム軍団だった。ロボットモノかよ。


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