第216話 冒険卿と共に戦いし者たちを寿ぐ
「魔法無効化大、物理耐性それなり。あと、ビームを撃ってきます」
「ビーム?」
王様が不思議そうに聞いてきた。そっか、ビームって単語自体を知らないんだ。
「なんかこう光って、ピシャどかーんってなって、ダメージとスタンが入ります。見たらわかります」
「そ、そうか」
そうなんです。
「前言を撤回します」
さて、この場合の戦い方だ。予定変更だね。
「物理重視は大正解でした。なので役立ってもらいます。貴顕、近衛組は2人ずつ各パーティに編入。盾構え。タンク! キューン、ジャリット、イーサさん、お手本お願いします」
「サワっ!?」
クリュトーマさんが焦ってるけど、これが最適だ。
「魔法組はアイアンを攻撃、露払いを徹底」
「了解よ!」
リッタが軽快に返事をしてくれた。いいねえ。
「それ以外は遊撃。鉄床戦術!」
すなわちタンクが抑えて、剣で叩く。この場合、タンクがちょっとロイヤルだなってくらいだ。
なぁに、自己ヒールは出来るし、エンチャントもある。なんなら。
「『BFS・WIS』『ラン・タ=オディス』『ディバ・ト=デイアルト』」
ほうら、ポリンの常時回復だ、オマケでスタン対策も付いてるよ。
◇◇◇
事前の打ち合わせでパーティ編成は終わってる。すなわち即戦闘可能ってわけだ。
正直派手にレイドバトルといきたいとこだけど、残念ここは迷宮内だ。6人パーティルールは厳守される。仕方ないね。
「では陛下、それとエルラーさん、絶対に盾から顔を出さないでくださいね」
「わかっておる」
「わかりましたあ!」
『1番隊』のメンバーは陛下、近衛のエルラーさん、ポリン、ズィスラ、ヘリトゥラ、そしてわたしだ。もうパーティ名を考えてる場合じゃない。
ヘリトゥラがタンク兼ヒーラー、陛下とエルラーさんがタンク、残りは遊撃だ。ポリンとヘリトゥラはエンチャンターもやる。ヘリトゥラ3役だね。
『2番隊』以降も貴顕1、近衛1、『訳あり』4で編成した。全部で『6番隊』までだね。『雲の壱』だけは単独で遊撃だ。よろしくね。
「接敵判定。タンク、シールドチャージ!」
わたしの掛け声で、盾持ち3人組が前に出る。王様にコレをやらせるのって、史上初じゃないかな。王族先頭。じつに誉れ高い事例だね。
ジャービルだったヘリトゥラは、今回に合せてエインヘリヤルになってくれた。何気に一番苦労してるんじゃなかろうか。レベルは40台。
「抑えたぞ。ハンマーを振り下ろせ!」
王様が盾の向こう側から叫んだ。いいノリだ。やっちゃる。
「ズィスラ、ポリン!」
その瞬間、タンクが抑え込んでたプラチナゴーレムの両目が光って、光線が放たれた。
「うわあっ!」
タンクのひとり、エルラーさんが吹っ飛ばされた。
つまりだ、プラチナゴーレムの出した光は物理的衝撃力を持ってる。荷電粒子か重金属粒子か知らないけど、温度もわからないけど、エルラーさんの盾が無事なのを見れば、単純に物理攻撃なんだろう。そこらへん、ゲームチックだねぇ。
「盾が溶けなくって何よりです。エルラーさん、立て直してください。長い棒で突かれたようなもんです」
「わ、わかりましたあ」
「『BFW・SOR』『BFS・STR』『BFS・STR』」
「『BFS・STR』『BFS・AGI』『BFS・AGI』」
ズィスラとポリンのバフが飛ぶ。
「『マギステリウム・ソード』『マギステリウム・ソード』。ズィスラ、行くよ!」
「『乾坤一擲』『一騎当千』『バーサーク・ムーヴ』。やれっ、ヘリトゥラ!」
「『渡来』!」
バフマシマシのズィスラが消えた。
「『メングラッド=フレイヤ』!」
次の瞬間、プラチナゴーレムの頭上ギリギリに登場したズィスラが、剣を振り下ろした。
「真っ二つだね。やるやるう」
「わたしとヘリトゥラが組めば、あったりまえよ!」
そこでヘリトゥラの名前が出てくるあたり、ズィスラだねえ。
「負けてられないわね。『円卓』」
大分ラウンドナイトに慣れてきたわたしだ。『円卓』を足場に空中マニューヴァ。
刮目せよ。超位冒険者は空を制するのだ!
◇◇◇
「サワねーちゃんがんばれー!」
「リッタねーちゃん、やっちまえ」
「チャートかっこいーぞー」
「ふむ、おじさんたちの動きが良くなってる。レベルアップもあるだろうけど、そうか、役割がはっきりしてるから上達も早いのか」
扉の反対側にいる『オーファンズ』の声援も頼もしいね。てか、最後の一人、どういうキャラさ。おじさんたちって、偉いさんだからね。
実際タンク専念組の動きが良くなってる。冒険者としてはいかがなものかだけど、盾持ちガードとしてはいっぱし以上だよ。要人とパーティっていう違いはあるかもだけど、近衛っぽくていいねえ。半分は守られる側の貴顕だけどさ。
「タンクはスキルを出し惜しんで。レベルを上げて、実戦経験を積んだんです。出来るでしょう?」
「やってやるさ!」
第1王子がニヒルに笑う。あれ、キャラ変わってない?
「くくくっ、我を盾に戦うとはな」
第3王子!?
「どこからでもかかってくるといい。この大楯、抜けると思うな」
「ふふふ、この歳になって血が滾るわ。まだまだベースキュルトに家督は譲れんなあ。それとシローネちゃん、がんばれ。後でお菓子をあげよう」
「おう!」
あの、メッセルキール公、ブルフファント侯。どうしちゃいました?
ついでに侯爵の闇が漏れだしてきてるような気もするんだけど。シローネも快諾するなし。
「貴顕と共の前線だ。近衛の誉れぞ! 押し負けるな! いや、押し出せい!」
近衛の皆さんまでさあ。
「ぐああ」
そうして6時間、ついにタンクが崩れ始めた。『雲の壱』もだ。
スキルは尽きて、VITも足りない。そろそろ限界かな。ここまでありがとう。正直偉いさんを侮ってたよ。ごめんなさい。万能感ですぐ付け上がるのはわたしの悪いとこだ。
キールラントの誇りは見届けたからさ。だから。
「貴顕と近衛、『雲の壱』は退避。背後にまわれ。後はもちろん」
「『訳あり』がやるわ!」
堂々とランデがわたしのセリフを奪っていった。
「……『アイギス』」
メンバーを撤退させるために、ジャリットが『アイギス』を使う。ナイスタイミング。だけど、盾は壊れるし、レベルも飛んじゃったね。後で取り返そう。
「貴顕組全員安全確認を。『雲の壱』を護衛に強制睡眠3時間。後で出番があるかもですよ!」
「戦場で眠るか。得難い経験だな。相わかった」
なんか王様まで微妙に性格変わってない?
「さて、こっちはパーティチェンジです。左から『ライブヴァーミリオン』『ブラウンシュガー』『ルナティックグリーン』『ブルーオーシャン』。『訳あり』、前進!」
「おう!」
戦場の主役たちが前に出る。その名は『訳あり令嬢』だ。
抜けるものならやってみろや。
「『訳あり』の強さと誇りを見せつけるよ。一匹たりとも後ろに逃すな!」
「おう!!」
◇◇◇
「終わりましたわ!」
コーラリアの叫びが終戦を告げた。黒門が消えていく。
あれからさらに15時間、『訳あり』たちは戦い続けて、そして言葉通り1体の敵も後ろに逸らさなかった。
「ミスリルゴーレムの攻撃は中々だった」
ターンがごちる。
うん。ミスリルゴーレムの突破力と額と両目から発射されるビームは、なかなかきつかった。
「おれは見てから避けた」
シローネが自慢気に述懐する。いやあ、遊撃組は本当にソレをやったから凄い。タンク組にしても、きっちり盾を斜めにして、ビームをそらしてた。これぞプレイヤースキルの極みよ。
「ざくざく」
黒門が消えたお陰で駆け込んできた『オーファンズ』や『万象』に囲まれながら、ドロップを確認してるポリンは、いつになく楽しそうだ。ジョブチェンジアイテムやら、ミスリルやプラチナインゴットが沢山だもんねえ。
「山分けってことで、いいですよね?」
3時間睡眠後、見てるだけだった貴顕組にわたしは提案した。王様を筆頭に、みんな凄く悔しそうな表情だね。だけど、これが現実さ。
「そなたらだけで、解決できたのではないか?」
「そうかもしれませんし、そうじゃなかったかもしれません。皆さんがいなければ、どこかで崩れていたかも」
「まあいい。余らは、サワノサキ卿と戦場を共にした。それで良いのだな」
「ええ」
王様とわたしの表情が一緒に晴れる。戦友だからね。当り前さ。
「王都に戻り、戦勝式典を」
なんか第1王子が面倒なことを言い出した。
「わたしたちは遠慮しておきます。協力者ってことにしておいてください」
「なんだと?」
これだけの武を見せたのに、なんで強気かなあ。
「王族を筆頭とした、王都の貴顕が事件を解決したのです。権威を高めて、将来の立太子に使ってください。横暴したら、ターナとランデを送り込みますからね」
「ぐぬう」
「ああ、折角だし、ミスリルでバッヂでも作りましょう。記念品です」
「冒険者の流儀か?」
「ええまあ、そんなものです」
後日、ヴィットヴェーンに届いたバッジに描かれていたのは、わたしの横顔だった。周りをぐるりと囲む文字列は『冒険卿と共に戦いし者たちを寿ぐ』。
おのれ第1王子め、やってくれたなあ。
どうしてわたしがここまで早く帰りたかったかというと、妙なやりとりがあったからだ。
「ターンちゃんを始めとした『ルナティックグリーン』は実に素晴らしかった。我が侯爵家として全面的に支援を約束する」
ベースキュルトの父親、ブルフファント侯爵の発言だ。
こいつ、『ルナティックグリーン』のメンバーに目を付けたらしい。政治的にじゃない、個人的趣味でだ。これだから貴族ってのは。
「そうだな、定期的に菓子を送ろう。君たちの笑顔を遠くで想像するだけでも、胸が躍るというものだ」
「えーっと、ターンどう思う?」
「中々見所のある奴だ」
「それって、お菓子に引き付けられただけじゃ?」
「……中々見所のある奴だ」
……ターン。
とにかく、とっとと帰ろう。
「じゃあ、そろそろヴィットヴェーンに帰ろうか。『ライブヴァーミリオン』もいい?」
「ええ、次に会った時にはもっと強くなっていますよ、あなた」
「当然だな! どこまでもいけ!」
実にオーブルターズ殿下らしいお言葉で、クリュトーマさんをはじめ、わたしたちの背中が押された。
さあ、帰ろう。帰って、ブルフファント侯爵のことを忘れよう。
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