第213話 意味不明の迷宮探索





「2、3日泊ってゆけ」


「ええー!?」


 大きな声を出したのはランデだ。

 謁見が終わった後、わたしたちは応接に通された。前回と同じく、王様と宰相、第1王子なんかがいる。あ、ランデの父親、第3王子もだね。メッセルキール公爵やオーブルターズ殿下なんかもいる。


「久しぶりに孫に会えたのだ。これくらいは汲んでくれても?」


 陛下の目が私に刺さる。

 うーん、まあいいか。わたしにはよく分からない感覚だけど、おじいちゃん孝行くらいはアリだよ。だからそんな顔しないで、ランデ、ターナ。


「クリュトーマさん、ユッシャータ、コーラリアもオーブルターズ殿下の所に行ってください」


「サワたちはどうするの?」


 コーラリアの目が燃えている。ああ気付かれてるよ、これ。


「……潜ろう、か、な?」


「ずるいわ!」


「いや、だってコーラリアたちは親孝行が」



「落ち着けサワ、コーラリア」


「ターンっ」


 我らがターンのお出ましに、コーラリアも息を呑む。


「みんなで仲良く潜ればいい」


「そうよ! 流石はターン」


 コーラリア、なんか凄く名案みたいな感じを醸し出すのやめて。


「むふん。オーブルなんとかも一緒だぞ」


 不敬が限界突破してるよ、ターン。


「ついでに、王様とかもレベリングだ。強くしてやる」


 ターン……。


「こっちは、4パーティだ。10人はレベリングできるぞ」


「面白いことを申すではないか、ターンとやら」


「むふん」


 すげえ、王様と渡り合ってる。


「孫と迷宮探索か。悪くない、悪くないぞ。余とてマスターレベルのロードだ、足手まといにはならぬ」


「陛下、いえ、父上! それはズルくはありませんか」


「そうですぞ」


 ああ、第1と第3王子まで。


「サワ」


「なに? ターン」


「編成は任せた」


 ターン……。



 ◇◇◇



「まず『シュレッダーズグレイ』ですが、陛下と両殿下、ターナ、ランデ、そしてわたしです。暫定隊長はわたしになります」


 どうしてこうなった。

 王様と第1、第3王子と一緒に迷宮とか、事故ったらこの国終わるぞ。ああ、第5王子がいるか。いやいや逃避するな、わたし。久々だね、『シュレッダーズグレイ』。


「『ルナティックグリーン』はわたしと交代でブルフファント侯爵です。もちろん隊長はターン」


 こっちもどうしてこうなった。

 どっからか話を聞きつけたブルフファント侯爵が、参加を申し入れてきたんだよ。どういうつもりなんだか。


「『ライブヴァーミリオン』は、メッセルキール公爵家です。隊長はクリュトーマさんですね」


 他に比べたらまだマシかな。クリュトーマさん、ケータラァさん、コーラリアとユッシャータ、そしてオーブルターズ殿下とメッセルキール公爵ご当人だ。だからさあ。


「『ブラウンシュガー』と『ブルーオーシャン』は、それぞれ分割して護衛の皆さんをレベリングしてください」


「なんで敬語なんだ?」


「そういう雰囲気だからだよ、シローネ。『ブラウンシュガー』の分割した隊長はシローネとチャート、『ブルーオーシャン』はリッタとシーシャ」


「了解よ」


 リッタが面白くなさそうに返事した。貴族の相手してるくらいなら深くに潜りたいんだろうね。


「じゃあ出発」


 キールランター迷宮の入り口で打ち合わせしたわたしたちは、突入を開始した。



「で、どのあたりまで行くのだ」


「とりあえずは30層くらいです、ポールカード殿下」


 ポールカード殿下ってのは第1王子だね。


「30、だと!? 大丈夫なのか」


「お父様、敢えて楽勝と言っておきます」


「ターナ……」


 ご自分の娘が、とんでもない常識を身に付けたことに気付いたのかな。なんでわたしを見るのさ。


「できれば50層まで行きたいですねえ」


 だから言ってやった。


「くっ、安全は保障できるのだろうな」


「もちろんですよ。だけど王国存亡の危機ですよ、これ」


 ターンのアレ以来、わたしもなんか弾けちゃった感じだ。口調がヤバい。今からでも直そうかな。


「サワノサキ卿は、それが素なのだろうな。よい、公式の場以外では許す」


「ありがとうございます」


 陛下のお墨付きが出ちゃったよ。正直助かります。



「さて、会話を続けてもいいですけど、会敵です。ターナ、ランデ、やっちゃって」


「了解」


「わかったよー」



 ◇◇◇



「見えない、いや、目が追い付かないだと!?」


「AGIが足りないから仕方ないですね」


 王様が唸る。

 ターナもランデもとっくに3桁STRとAGI、DEXを達成してるからねえ。そりゃ見えないのも当然だ。


「『円卓』。ちょっと二人、敵を零してるよ」


「ごめんねー」


 前線の二人から流れてきたオークを『円卓』で叩き潰した。ダメだよ、ちゃんとしないとさ。

 ここは34層。はっきり言ってまだまだ浅い。『訳あり』のメンバーなら、一人で歩けるくらいだ。だからこそ緻密に戦ってほしい。


「ランデ、ターナ、温いよ。AGIとDEX活用して。素早く正確に、丁寧に」


「わかってるわ!」


「何を言っているのだ?」


「陛下、モンスターはただ倒すだけじゃ足りないんです。先ほど言った通りですよ。丁寧に丁重に、DEXを最大限活かして、素早く叩き伏せる。それが最強を目指す冒険者の在り方なんです」


「言っていることはわかるが、まったくわからんな」


「そんなもんですよ。自分の居る、そして目指す段階ですね」


 なんか適当に良いこと言ってやったぜ!


「でもまあ、実際まだまだですね」


「……アレでか」


 あ、こんどは第3王子がちょっとムカついてる。事実なんだけどなあ。

『ルナティックグリーン』とか見たら、それどこじゃないのに。


「ターナ、ランデ、引いて。どうもお父上たちが勘違いされてるようだよ」



「お父様、サワに毒されましょーよ」


「なんだその表現は!?」


「見ていればわかります。サワ、やっちゃってー」


「おうさ! じゃあ陛下と両殿下。モノホンの冒険者をお見せしましょう」


 円卓を台座にして、わたしは突撃する。接敵判定はオーク8体。


「そこにあるのは、経験! 復唱!」


「経験!」


 ターナとランデが叫ぶように応える。陛下たちはダンマリだ。ノリが悪いねえ。

 わたしの持つ武器は『古びた大鎌』だ。ラウンドナイトにはマイナス補正がかかるけど、あえてだね。さあ、踊ろう。


「スキルを使うまでも無し。だけど、陛下たちには『BFS・AGI』!」


 ちゃんと見ておいてほしいからね。


「『BFS・AGI』『BFS・AGI』。さあ、刮目ですよお!」


 ちゃんと見ててね。


「あはっ、あははははっ。まず一首。みなさん分かりますか、角度とか力加減とか」


 すぽんとオークの首が一個すっとんだ。

 大地に下ろした円卓の上で、わたしは仁王立ちする。さあ、どこからでもかかってこい。



「そもそもこんな鎌に対応したスキルなんて、ああ、あったよ」


 エインヘリヤルはマルチウェポンファイターだ。だからある。事実上の死にスキルだけど、日の目をみるってのは皮肉かな。だって名前がさ。


「『月光斬・三日月』!」


 鎌を持った時の専用スキルだ。何処で使うんだこんなのさあ。

 今だけどね。さあ大鎌を持って、踊ろう。


「あのようなスキル見たこともないが、どういうことだ?」


「わたしも正直、使ったのは初めてですよ、陛下。エインヘリヤル系ですね」


 じゃあ、やってみようか。


「『BFS・STR』『活性化』『一騎当千』、こんなもんで十分ですね。ちゃんと見ててくださいね。陛下、殿下」


「あ、ああ」


「『踏み込み』からの『月光斬・三日月』っ!」


 それだけでオークの首が三つ宙を舞った。



 まあ、リザルトとしては、王陛下並びに両殿下のレベルが40を超えたってくらいかな。

 個人的にはホワイトロードかロード=ヴァイになってもらって、レベル50台が落とし所にしたかったんだけどね。


「サワ……、マズい」


「え?」


 なに言ってるのターン?


「くる」


 チャートまで。えっと、なに緊迫してるわけ?


 直後、ずずんって音が迷宮に響き渡った。振動が走る。層転移じゃない。アレはもっと長く揺れる。

 じゃあこれってなにさ?



 ◇◇◇



 振動はすぐに納まった。


「しらじらしいぞ、キールランターぁ!」


「サワノサキ卿、どういうことだ?」


 王様がそれなりに落ち着いた声で聞いてきた。なかなか肝が据わってるじゃない。


「答えは目の前にあります」


「なにぃっ!?」


 そうでもなかった。

 さて、どうしたもんか。


「リッタ、わたしたち何層にいたっけ?」


「憶えてなさい。52層よ」


 ああ、そうだった。調子にのって、そんなとこまで行ってたんだっけか。

 さてじゃあ次だ。なあ、そこの黒門。



「上への階段塞いじゃってるよ。これ」


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