さあ、とことんレベルアップをしよう! ‐薬効チートから始める転生少女の迷宮譚‐
えがおをみせて
第1章 レベルアップ編
第1話 どうかしている殴りプリースト、またの名を狂気の沙汰な日常
「ん?」
「どうした?」
「いや、戦闘音だな」
彼らは、ヴィットヴェーン、またの名を『迷宮街』を拠点とする、アベレージレベル11のパーティだった。
レベル11と言えば、全てのスキルを覚えると言われるレベル13、すなわちマスターレベルを目前としているということを意味する。所謂中級パーティだ。
「5層だぞ? そこらの連中だって入れる」
「ああ、だけど音がするあっちは、ポイズントードだ」
ポイズントード。名の通り、毒持ちカエルだ。その特性からベテランすら忌避する、面倒なモンスターだ。
「アホがあそこに行ったかもしれん」
「見物するっていうのか。趣味が悪いぞ」
「それならいいさ。だが、噂を聞いたことは無いか?」
「まさか……、『狂気の沙汰』か」
「ああ、たった一人で朝から晩まで、なんなら夜中までポイズントードを狩りまくっている、イカれた奴だ」
そんな6人パーティが向かったのは、所謂ハズレ区画だった。
広大なダンジョンでは、同じ階層であっても出現モンスターに偏りが出る。各々特性があり、それに対抗する各人のレベルやパーティ構成などで、所謂狩場としてハズレが存在するわけだ。
そんな中で、ハズレ中のハズレ。どんなパーティ構成でも損があり、蹴散らせるようなレベルになれば経験値上意味が無い。そんな狩場がソコだった。
◇◇◇
「あははは。レーベール! レーベール! じゃん、レーベール! レーベール!!」
とぼけた調子の歌を歌いながら、ポイズントードをメイスでボコボコ殴っている少女がいた。
「おいおい、マジモンじゃねーか」
「ああ。正直後悔してるよ」
「INT、INT、INT~! 賢くなるよ! ああ、プリーストだからWISもだねー! あはっ、欠片も信仰心なんてないけどね」
ここがハズレ呼ばわりされるのには、勿論理由があった。それがポイズントードの存在だ。このモンスターは2つの厄介な特徴を持っている。ひとつは名前の通り、毒持ちということだ。毒という『状態異常』は非常に危険だ。秒ごとに一定数ずつHPを削っていくのだから、放っておけばいつかは死に至る。
もうひとつは、仲間を呼ぶという特性だ。平均して大体3匹以下になると、高確率で仲間を呼ぶ傾向があるという。
要は毒攻撃を放ってくるポイズントードが延々と現れ続ける、という現象が起こるのだ。
それを打倒するためには、広範囲攻撃力をもつウィザード系のジョブ持ちと、毒を回復できるプリースト系が必要になる。スクロールやポーションで代用することは可能だが、採算が取れない。そして経験値は低い。
相対的に数が少ないウィザードとプリーストを組み込んだパーティが、こんなところを訪れるはずもなかった。
「おい、で、ありゃなんなんだ?」
「知るかよ。だけどおい、アレ見ろよ。ドロップ」
「ポイズントードのドロップって、皮か肉だろ? って、マジか!?」
少女の戦うフィールドには、少なくとも100以上のドロップが転がっていた。
「あいつ、何時間戦ってるんだ?」
「さあな……。おーい嬢ちゃん! 大丈夫なのか!?」
「おまっ、何、声掛けて」
「ご心配ありがとうございますー。だいじょーぶですよー! わたしプリーストだし、ポーションもありますからー」
ポイズントードの緑の毒唾と青い返り血に塗れた少女は、意外にも、いや異常とも言えるくらいの軽いノリで返事を返した。
「そ、そうか」
どの道、彼らは助けに入れないのだ。『バトルフィールド』、通称フィールドは迷宮内で戦闘が始まったと同時に形成される薄青色の壁である。入ることができるのは最大6人で、しかもパーティを組んでいる者たちに限定される。
そして戦闘で敵味方どちらかが全滅するか、目の前の少女が自ら『逃げる』判断をし、さらに相手よりAGIが高いという条件でもない限り、フィールドは解除されない。
見物客は見物以外することができない。ただし、目の前でパーティが全滅すれば、ドロップや装備品のハイエナは可能だ。
現地ではそういうモノだと認識されてはいるが、日本人ならこう思うだろう。まるでゲームとリアルを無理やり整合させたような世界だと。
「わたしは大丈夫ですから、気にしないでくださーい。帰り道ですよね? お疲れさまでしたー」
プリースト互助会から貸与された『エンハンスドチェインメイル』を着込み、『パワードメイス』を振り回しながら、少女は軽い感じで彼らの帰還を促した。
「お、おう。頑張れよ」
「はーい!」
そう言われれば仕方がない、彼らはその場を後にした。
◇◇◇
「いやあ、アレはヤベぇ。なんと言うかとにかくヤバいんだ」
「ネタだろう? 『狂気の沙汰』なんて居るわけねえだろ」
「いや、居たんだ。ありゃホンモノだ」
「なに馬鹿なことを」
先ほどの光景を見たパーティは換金を済ませた後、飲んだくれた勢いで噂をばら撒いていた。如何せんマスターレベルを直前に控えた中級パーティだけに、発言力は高かった。
同時に、与太を楽しむ冒険者たちである。ダンジョンの怪談など日常茶飯事だった。
そのとき、開け放たれた扉から、可愛らしい少女が入ってきた。
黒髪を肩まで流し、黒い瞳は勝気だ。整った顔立ちはしているが、よくいると言えばそこらにいるような、平凡な存在だ。
メイスを片手に、チェインメイルを着込んだ姿は、それなりに冒険者としてやっているという証左であろう。だが、全身は緑色で汚らしい。というか緑色とはなんだろうか。
だが、それを見た例のレベル11パーティは息を呑んだ。
「アレだ。アレが『狂気の沙汰』だ」
「何言ってんだお前。田舎から出てきた駆け出しじゃねえか」
彼らが飲みはじめて3時間は過ぎている。つまり彼女は、あれから3時間以上狩ったのだ。たった一人で。
その少女は、冒険者が当たり前にするようにカウンターへ向かい、査定担当者に何かぼそぼそと言った後、査定場へ連れていかれた。通常ならカウンターにドロップを並べて、後は任せるだけなのに。
「な、おかしいだろ?」
「何がだ?」
「馬鹿かお前。どうしてあんな娘が査定場へ呼ばれる?」
「大物か?」
「いや違う。多すぎたんだ。多分カウンターで出したら、大変なことになるくらいの量を持ち込んだ」
「何言ってんだおまえ」
「ブツはポイズントードの皮と肉だ。とんでもない量のな」
「ポイズントード? 与太もいい加減にしろよ」
◇◇◇
査定結果は明日ということになり、少女は帰ってきた。宿泊しているのは、プリースト互助会の所有する館だ。
「お帰り。今日も遅かったね」
銀髪を後ろで縛った、年配の女性が迎える。
「ごめんなさい。サーシェスタさん」
彼女はプリースト互助会の現会長、サーシェスタだった。
「まあ、いいけどさ。とっくにメシは冷えてるよ」
「あるだけマシですよ。点滴じゃないだけ」
「点滴?」
「手に穴の開いた針を刺して、無理やり食事を流し込むんです」
「うええ」
「お湯って、まだあります?」
銅貨を3枚差し出し、少女はサーシェスタに聞いた。
「用意しておいたよ」
「ありがとうございます」
銅貨を受け取りながら、あっさりと言い放つサーシェスタに感謝しつつも、少女はとりあえず冷めた料理を胃袋に叩き込んだ。
「どこまでやるんだい?」
「えっと、とりあえずレベル20くらいまでは」
「治癒師としてなら一生食っていけるだろうねえ」
「まだまだですよ。じゃあ、お湯貰っていきますね」
「ほい。おやすみ」
「おやすみなさい」
そうして少女は小さな自室に戻った。お湯で身体を拭き、そして泥のように眠る。だが、彼女はそんな生活をちいとも苦に思っていない。
だってこの世界では、レベルアップができるのだから。
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