第122話 レベリングされる側もアリだね
「押し付けになるようで申し訳ないけど、ウチの領民は色々な選択ができるような、そんな強さを持ってもらいたいと、そう思っています」
「はいっ!」
わたしは今、育成施設の中庭で訓示? をしている。施設が完成してから、ちょこちょことレベリングはしていたけど、マーサさんを始め職員さんたちが高レベルのモンクになった。
ここらで本格的にマルチジョブレベリングを開始しようと、そういう話になったんだ。
「最初はソルジャーかメイジです。この中にはマスターレベルに到達している人も多いでしょう。ですが足りません。コンプリートです。まずは両方のジョブをコンプリートしてください」
「は、はい!」
みんなが結構ビビってる。まあ下級とは言え、二つのジョブをコンプリートなんて、一流冒険者の領域だ。いや、1年前なら一流どころじゃない。
わたしはそれをやれと言ったんだ。
「まずはそこからです。それから冒険者、農民、木こり、職人、なんなら商人でも構いません、選んでください。わたしたちは全てを応援します。そのためのステータスを身に付けるために、援助を惜しみません」
これは本心だ。だけど、ただ援助するだけじゃダメだ。
「努力をしてください。最初は自分のやりたいことが見つからないかもしれません。それは当たり前です。でも、何もしないで食べていけるなど、思わないでください」
自由は保障する。だけどそれには責任が付きまとうんだ。
「育成施設では食事や寝る場所が与えられています。でもそれは、みなさんが自分自身の力で生きるためにやっているんです。わたしたちは最後まで、それを手助けをします。それを心に刻んでおいてください」
「はいっ!」
子供たちの元気な声が空に響いた。
うーん、我ながら説教臭かったかな。今後はもうちょっと文言を考えてみよう。
「立派でしたよ」
そうかなあ。
◇◇◇
「よおし、じゃあ行くぞお」
「はい!」
久々のダグランさんとガルヴィさんが、4人の男の子を連れて出発した。子供たちは支給した簡易装備だけど、21層くらいなら万全だろう。
さあ、肩の凝る話は終わりだ。わたしたちも迷宮に行こう。
「サワ」
「ん? なにヘリトゥラ」
「ありがとう」
「何のことか分からないけど、どういたしまして」
まあ、育成施設の件なんだろうけどね。
「サワとターンは必ず守るから、頑張って」
「おう」
ターンも気合を入れ直している。彼女は今、モンクだ。
わたしはまだメイジ。今日中にコンプリートしてやる。次はウィザードにしようかな。
「よっし! コンプリート」
31層で2時間くらい、メイジがコンプリートした。
「サワ、乗って!」
「え?」
ズィスラが背負子を背負って背中を向けた。乗れってか。
「いいから早く」
「はぁい」
なるほど、背負子レベルアップってこんな気分になるんだ。他の人にすべてを預けるって、結構度胸がいるね。だけどズィスラなら大丈夫って安心が心地いい。
「ヘリトゥラに先に言われたけどね、サワ、ありがとう」
「どういたしまして」
「わたしたちは強くなったわ。だから今度はサワとターンがもっと強くなるのに、全部協力する」
「うん、ありがと」
そうやって、ズィスラに背負われながら、わたしは迷宮から地上に戻った。
そして、そのまま冒険者協会まで直行だ。これはちょっと恥ずかしいんだけど。
「スニャータ! 直ぐにサワのジョブチェンジ!」
「あ、はいっ!」
なんでタイムアタックみたいになってるんだろう。
とりあえずノリで、わたしは急いでウィザードになった。
「さあ乗って!」
「えええ、ここで!?」
「いいから!」
そうやって疾風のごとく、わたしたちは迷宮に舞い戻った。
「『ティル=トウェリア』」
5時間後、わたしは31層でウィザード最強魔法を放っていた。
レベルアップした時に新しく覚えたスキルは1回だけ使えるという、なんとも微妙な仕様のお陰だ。だけど結構気持ちいいね、これ。
「ウィザードもいいね」
横では、他のメンバーがうんうん頷いている。そうだよね、全員ウィザードできるもんね。
しかも3人がハイウィザードで一人はエルダーウィザードだ。過剰火力にも程がある。
「ターンも早くハイウィザードになるぞ」
ターンの鼻息が荒くなるのも分かるってもんだ。わたしもだぞ。
◇◇◇
「シュリケンが出た」
みんなで夕食を食べながら報告会を開くのが、『訳あり令嬢たちの集い』の定番になっている。
本日最大の成果は『ブラウンシュガー』がもたらした、シュリケン獲得の報告だ。チャートがちょっと誇らしげだね。
「えっと、シーシャとワルシャンは、後衛系とナイト系だよね。だったら、キューンかポリンかな」
「わたしはまだ早い」
「わたしも」
キューンとポリンがそれぞれ、向上心の塊みたいなことを言う。すっかり『訳あり』に毒されてるね。良い傾向だよ。
「サワの計画にも使えるし、温存でもいいんじゃない?」
ウィスキィさんもそう言ってくれるけど。
「4人の目標以外は、アイテム温存で良いと思います」
だけど、ポリンあたりはニンジャが似合いそうなんだよね。タヌキ耳ニンジャ。ドロンって感じで。逆にキューンは魔法使いイメージだね。わたしの勝手な妄想だよ。
「ハーティさん、育成施設の方はどうですか」
「ソルジャーが12人、メイジが8人コンプリートしたそうです。順次ジョブチェンジしてレベリング中ですね」
この場合のジョブチェンジはソルジャーがメイジに、メイジがソルジャーにって意味だ。それにしても20人か。いいね、いいね。
「それと……」
「どうしたんですか?」
なんかハーティさんが言い難そうだ。
「お母様が38層に行きたいと」
「はい?」
午前中に会った時はそんな素振り無かったよね。
「何かこう、サワさんに感化されたようで」
「わたしのせいじゃないですよっ!」
マーサさん、何考えてるんですか。
「……『ホワイトテーブル』で対応しておきます」
「お願いします」
まあ『ホワイトテーブル』の3人とレベル34のモンクなら行けるか。残り2人も職員さんなのかな。武闘派な育成施設になっていくなあ。
「じゃあ『ホワイトテーブル』はマーサさんたち職員さん、『クリムゾンティアーズ』と『ブルーオーシャン』は子供たちのレベリングですね」
今の『クリムゾンティアーズ』と『ブルーオーシャン』なら、一人につき2人は牽引できるはずだ。つまり12人をいっぺんにだ。もちろん『緑の二人』にも手伝ってもらおう。これで16人。
「『ブラウンシュガー』は38層から44層でアイテム漁りだね。あと『ルナティックグリーン』は」
「サワとターンをレベリングする」
キューンがわたしの言葉を引き継いだ。分かってくれてて嬉しいな。
「ありがと、よろしくね」
◇◇◇
1週間後、わたしはハイウィザードを経由してモンクになっていた。これで魔法は使い放題だうひひ。ターンはハイウィザードをコンプリートして、エンチャンター。
これで『ルナティックグリーン』は全員がハイウィザードを経由したことになる。圧巻だねえ。
キューンとポリン、シーシャとワルシャンはビショップになって、これで後衛系は終わりにできる。
さて、ここからどうするのかな。そろそろ自主性を求めてもいいかな。
「あの、これは」
「鍬と斧です。あと鉈も」
「ええ、そうですね。こんなに沢山なのは驚きです。それとこちらは?」
「鋤ですね」
こっちの世界にもあるんだよね。プラウとか言うんだっけ? 人力メインなんだけど。
ドワーフの工房に、マーティーズゴーレムの木材とクリーピングアイアンから落としたインゴットを大量に持ち込んで、作ってもらったんだ。ついでに、ボータークリス商店からも戦斧とかを買い占めた。
「すっげえ」
「たくさんあるねー」
立ち並ぶのは20人くらいの子供たちだ。だけど侮るなかれ、この子達は全員がマスターを超えているウォリアーなんだ。もちろん、ソルジャーとメイジを経由してる。
「あんたたち、まずは斧を持ちなあ」
「ちゃんと付いてきてね」
引率はサーシェスタさんとウィスキィさんだね。一応初回なので、わたしとターンも後に続く。
「じゃあ、斬るわね」
切るじゃなくって、斬るとは如何に。ごっつい戦斧を担いだウィスキィさんがそれを振り下ろす。
どっかんって音が鳴って、直径50センチくらいある木の半分くらいが断ち切れた。おいおい。伊達にレベル34ツカハラはやっていない。
ちなみにだけど、迷宮ではジョブに適合した武器を使わないと、大幅にマイナス補正が入る。
地上では別だけどね。そんなわけで、今の現象が起きたわけだ。
みしみしと木が倒れてくる。一撃でこれだ。開始10秒ってとこかな。
「ほれ、どけてな」
倒れる方向に素早く回り込んだサーシェスタさんが、あっさりと大木を受け止めて、地上に下ろした。
これぞヴィットヴェーン式林業。サワノサキ領の開拓が始まるぞ。
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