第123話 忙しいけど平穏な日常





「るあぁぁぁ!」


「おああぁぁい!」


「ねえ、あの掛け声はどうなのかな」


 今日も31層に行こうとした時、21層で育成施設の子供たちが戦っているのに出くわした。

 えっと、随伴しているのはダグランさんとガルヴィさんか。


「もっと腹から声を出せ!」


「気合、気合だ」


 あのおっさんたちが元凶か。



「とえあぁぁ」


「むふぅぅん」


「おりゃぁぁ!」


 うちの子たちが影響を受けたじゃないか。後で絞める。

 そろそろモンクもコンプリートだね。次はどうしよう。


「ターンは次、どうするの?」


「ん、ビショップ」


 ターンもエンチャンターのコンプリート間近だ。今日はわたしたちがコンプしたら上がりだね。



「ターン、サワ!」


「おお、お帰り」


『ブラウンシュガー』が31層にやってきた。チャートが元気に手を振っている。

 彼女たちは最近、44層で一度ゲートキーパーを倒してから、38層で狩りをしまくっている。

 お陰で『ブラウンシュガー』は、頭一つ抜けてヴィットヴェーン最強パーティだ。


「『大魔導師の杖』出た!」


「やったね! シーシャかな」


「どうだろ」


「わたしたちはもうちょっとでコンプだから、先に戻っててね」


「気をつけろよ」


 すっかり稼ぎ頭の風格だね。



 地上に戻って、協会事務所に素材を卸したその足で、ジョブチェンジだ。結局ターンと一緒にビショップになった。

 ズィスラとヘリトゥラ、キューンとポリンが居てくれるから、バランスも考えずにジョブチェンジできて助かるよ。

 そんなキューンとポリンだけど、今はモンクだ。



 ◇◇◇



「サワねーちゃーん!」


「ターン、みんなー!」


 クランハウスへの帰り道、育成施設の子供たちが声を掛けてくる。

 皆が斧やらツルハシやら抱えてて、アンバランスの極みだね。だけどこの子たちは、頼もしい我らが開拓者だ。


 開拓開始から3日、毎日報告は受けているけど、もう予定の1割が伐採終了してしまってる。

 しかも毎日増員されてるんだ。今日は30人くらいが作業しているはずだね。末恐ろしい。



 それとわたしの呼ばれ方だけど、それは黙認してる。


「わたしはいいけど、偉そうな人を見たら黙って跪くんだよ、頭を上げないで」


「わかってるー」


「うん!」


 もしそれでも難癖を付けるのが居たら、わたしが叩き伏せる。ってか、多分マーサ男爵夫人が黙ってないだろうね。

 今、近郊で一番ヤバそうなのは、ヘーストランさん家のイェールグートだけど、しっかり釘は刺しておいた。本人より、むしろ従者さんたちがビビっていたので、なんとかしてくれるはずだ。


 その内、マナー講座を開くことも考えよう。



「わたくしでいいんですか?」


「うん、わたしはビショップの上級で。まだ前衛ジョブもあるし」


 シーシャとキューンの会話だ。どうやらキューンは回復系メインで行くらしい。『狐火』とか出せるジョブがあったら、無条件で薦めたんだけどな。


「ありがとうございます。ビショップをコンプリートしたら、エルダーウィザードになります」


 またひとり、大魔導師の出現だ。ベルベスタさん、フェンサーさん、リッタ、リィスタ、ヘリトゥラに続く、ヴィットヴェーン6人目のエルダーウィザードだね。全員『訳あり』だよ。

 そろそろ大手クランは手が届きそうだけど。


 ああ、ジュエルトリアはホワイトロード、ヒロインことアリシャーヤはエインヘリヤルだ。何だってあいつらが。アイテム渡したからだけどさ。



「その『高貴なる者たち』から伝言があります」


 ハーティさんが冷静に告げた。厄介事か?


「サワノサキ領にクランハウスを建設したいそうです」


「ぶふぉあ」


「許可されますか?」


 紅茶を噴き出したわたしをものともせず、ハーティさんは続けた。そういう冷静なとこ、お母さん似だよね。


「みなさんの意見を聞きたいです」


「いいんじゃないかい」


「凄く嫌だけど、特に問題は思いつかないわね」


 サーシェスタさんとリッタは問題なしと判断したみたいだ。だけどリッタ、言葉が棘生やしてるよ。


「少しは金も落とすだろう。いいんじゃない?」


 アンタンジュさんもか。


「キモいけど、仕方ない」


 シローネ……。

 あとドールアッシャさん、シャドーボクシングは止めてください。ヴァハグンがそれやると、シャレにならないから。


「セリアンと女の子に手を出したら、『訳あり』が処断すると言っておいてください」


「もう言ってあります」


 意思統一がなされているのは素晴らしい。


「区画はハーティさんに任せますね。あと資金が必要なら、融通も」


「分かりました」


 厄介な住人にならないといいんだけど。



 ◇◇◇



「もっとレベリングしたい、ですか」


「ああ、ここの連中を見てるとな。儂らもまだまだって思い知らされちまった」


 そう言ってきたのはドワーフのおっちゃんたちだった。

『高貴なる者たち』のクランハウス建築を頼んだところまでは良かった。それを育成施設の子供たちが手伝ったのもいい。

 だけど、それを見たおっちゃんたちに火が付いた。ちなみにジョブはシーフが殆どで、一部ウォリアーだ。


「どこまでですか?」


「それをサワ嬢ちゃんが言うのかい? とことんだ」


「とことんですかぁ」


 こういう時は『ホワイトテーブル』に丸投げだ。ごめんなさい。



「こうなると拠点をココに移したくなるな」


「ダメです」


 この世界で領民は領主の所有物だ。こっちの待遇が良いからと、おいそれと移動など許されるわけがない。

 育成施設の子たちは、フェンベスタ伯爵が『人頭税も払えないのは要らない』と言ったから貰えたんだ。今じゃ補助金も貰っていない。わたしのモノだ。

『世の漆黒』については、伯爵に特別の許可を貰った。男爵就任祝いみたいなものだったらしいよ。


 実は各方面に『要らない孤児、引き受けます』と打診はしている。一人につき幾らとまで言ってあるんだ。さらには、フェンベスタ、サシュテューン両伯爵に付け届けも忘れていない。

 まったくもって面倒くさいんだけど、そこら辺の差配は『ホワイトテーブル』がやってくれてる。本当にごめんなさい。


『高貴なる者たち』? 知らん。あれは貴族子息たちの道楽だ。そのうち、出てくだろうさ。


「彼らは多分、サシュテューン伯爵とヘーストラン子爵からの人質です」


 なんだよそれ。



『ホワイトテーブル』、特にハーティさんの負担を減らすためだけど、冒険者を希望しない孤児のINTを上げて、事務員を増員する計画まで動き出している。

 人員はソルジャー、メイジ、ウォリアー、シーフ、ウィザードの順番で育てていく予定だ。恐るべきはジョブ格差社会よ。


「国民皆兵ならぬ領民皆冒険者、です」


 発展を続けるためならそれしかない。多分誰も損をしないから、そういう方針で行こう。



「ジャイアントヘルビートルの素材を卸してください。フェンベスタ閣下の許可もございます!」


 今度はボータークリス商店の会長が現れた。


「幾つですか?」


 面倒なので、言葉が短くなるのも仕方ないってもんだ。


「あるだけを」


「資金はあるんですか? 暴落させたいんですか?」


「……最低でも10は」


「分かりました。12個譲りましょう。お代は頂きますよ」


「感謝致します!」


 どうやらわたしたちの装備が何でできているのか、漏れたらしい。それが嫌だったから黒く塗ったのに。『高貴なる者たち』が怪しいなあ。こんど突いてみるかな。



 ◇◇◇



 そうやって、冒険以外も忙しい日々が続く。


「こんぷりーとしたよ、おねーちゃん!」


「そっかあ、やったね」


「うんっ!」


 育成施設に所属している13歳以上の子は、全員がソルジャーをコンプリートした。その内、8割方はメイジもコンプしている。

 そこからウォリアーとシーフに分かれて、ウォリアーが大体50人、シーフが30人ってところだ。その内、冒険者志望は70人くらいだ。ほとんどだね。

 この子達が今のジョブをコンプしたら、天下が取れる。


「こらっ」


 怒らないでよハーティさん。冗談ですから。



 キューンとポリンはファイターになった。いよいよ前衛系を突っ走るつもりらしい。

 わたしはシーフを経由して、今はカラテカだ。そしてターンはパワーウォリアーからグラップラーになっている。



 そろそろ計画の第2段階が始められそうだよ。ぐふふ。


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