第124話 シルバーセクレタリー
「今日からお世話になることになりました、ピンヘリアです。よろしくお願い致します!」
「よろしくお願いします!」
目の前にいるのは、ハーティさんが直々に選抜して、さらにレベリングを施した13歳から15歳までの6人だ。もちろん全員女の子。
ソルジャー、メイジ、ウォリアー、シーフを経由して、ピンヘリアを含む4人がウィザード、残り2人はエンチャンターという、異色のメンバーだ。
「サワさん、パーティ名を授けてあげてください」
「なんでそんなに儀式めいてるんですかっ!」
「我がサワノサキ領においてサワさんは絶対の存在です。ましてや『訳あり令嬢たちの集い』に入るということは、彼女たちにとってこの上ない名誉なのです」
「そ、そうなの?」
ハーティさんが断言したけど、わたしにはどうも信じられない。なので、恐る恐る聞いてみた。
「はいっ! 是非お願い致します!!」
キラキラと光る目で、ピンヘリアを筆頭に6人が頭を下げた。
ああ、駄目だ。これは真面目に考えないとダメなやつだ。
えっとえっと、秘書官って感じになるんだよね。そっちはいい。後は色だ。イエローはちょっと違う気がする。グレイもブラックもパープルも使っちゃったよ。どうしよう。
ピンヘリアがじっとこっちを見ている。彼女の瞳は珍しい銀色だ。
「これだ!」
「何か思いついた?」
リッタが興味深そうにこっちを見ている。ええ、思いついたともさ。
「『銀の秘書官』」
「おお」
どこともなく、感嘆が漏れた。
「そう。『シルバーセクレタリー』。あなたたちは『シルバーセクレタリー』よ!」
「ありがとう、ございます……」
ピンヘリアたち6人がだくだくと涙を流していた。
泣くことか?
「あ、ほらもう『訳あり』の仲間なんだから、ね?」
「感謝致します」
てな感じで6番隊『シルバーセクレタリー』が結成された。
まあ事実上、ハーティさん直轄だね。
◇◇◇
謎の忠誠を誓う6番隊はどうとして、わたしたちは順調だ。
ここのところのふた月で、ソルジャーからパワーウォリアーのなんと10ジョブ。残っているのはナイトとヘビーナイト、ロードくらいなものだね。それはターンも同じだ。いや、ターンの場合はサムライも取れるか。
わたしもニンジャになりたいなあ。ちらっ、ちらっ。
でも次のシュリケンはポリンに取っておいてあげたいし、『計画』もあるから後回しかな。
「ぬおうるゃあぁぁ!」
ズィスラが『死霊のオオダチ』でモンスターを切り裂いていく。わたしからの貸し出し品だ。うむっ、今宵も血に飢えておるわ。あと、その掛け声止めて。
「『マル=ティル=トウェリア』」
わたしとターンのやることは簡単だ。魔法が効く敵が出てきたら、単独パーティになって魔法を撃つだけ。それだけの作業だ。31層から35層なら十分に通用する。
ターンはほぼ確実に先手を取るし、わたしは逆に少々のダメージならものともしない。アンデッドみたいだね。
そうこうしているうちに、『ブラウンシュガー』たちが下層から戻ってきた。表情を見るに、今日は収穫無しかな。
「出なかった」
やっぱり。
「まあまあ、こればっかりは運だからさ。気にしないで」
「うん」
「それよりもっと深層へ行く気は無い?」
「……うん」
これは否定の意味だ。どうやら彼女たちって『ルナティックグリーン』の先を、もっと正確に言うと、わたしとターンに遠慮してるみたいなんだよね。もうアベレージレベルは45を超えてるんだし、ここから先は彼女たちの独擅場なんだけどなあ。チャートに至っては、レベル62だし。
「ハイニンジャとケンゴーから上は、50層クラスじゃないとね」
わたしがヒキタ、ターンがイガニンジャになれたのは、転移氾濫騒動で『ゼ・ダ=ノゥ』が居たお陰なんだ。
まあレベルアップ自体は問題ないし、上位ジョブチェンジアイテムも結構手に入ってるから助かってはいるんだけどね。どうしたもんだか。
「まあゆっくり考えよう。そのうち『ルナティックグリーン』も前線に戻るからさ」
「おう!」
今度はシローネが嬉しそうにした。この子たちは素直だなあ。
◇◇◇
「新規の農耕地は4割程度が播種可能になりました」
「そう言えば、季節とかはどうなんです?」
「季節?」
なんとこの世界、と言うかヴィットヴェーンには季節らしい季節が無かった。
なので種まきは、適当だ。わたしが小麦と思っていたのは、どうやら季節に関係なく育つ、謎植物だったらしい。ご都合主義過ぎない?
「開拓、開墾が終わった畑から、順次種まきを行う予定です」
「そ、そうですか。農業の指導できる人とか、いるんですか?」
「『シルバーセクレタリー』の半分を、フェンベスタ領で研修させました。本人たち曰く、いけると」
「そうなの? ピンヘリア」
「はい。お任せください!」
新たなパーティが優秀過ぎる。
彼女たちは『ホワイトテーブル』が引率して、じわじわとレベルを上げているところだ。いくらINTが伸びると言っても、わたしの感覚だと魔法攻撃力が上がるっていう認識だったけど、どうやら実務にも影響が出るらしい。
「物事の飲み込みが速くなる印象ですね」
「なるほど」
ハーティさんがそう言うと、謎の説得力がある。あれ? となると。
「私もジョブチェンジを考えています」
彼女は今、ロード=ヴァイのレベル57。確かに知力も伸びるジョブだけど、後衛系のハイウィザードに比べれば低い。だけど勿体ないなあ。
「ハイウィザードからエルダーウィザード。もしくはオーバーエンチャンターでしたか、そちらを目指したいと思います」
本人が望むなら、仕方ないね。そういうクランだから。
オーバーエンチャンターっていうのは、エンチャンターの上位ジョブだけど、妙にジョブチェンジアイテムのドロップが渋いんだ。そこら辺はニンジャと似てる。なんでこんなに不遇なのか謎だね。
アイテムは『祝福の笛』。実際、まだ1個も出てないよ。
「ハーティさんの場合なら、まずは、ハイウィザードからですか」
「いえ、その前にメイジ、ウォリアーとシーフを挟みます。示しがつきません」
「ああ、なるほど」
ハーティさんはウィザード、エンチャンター、ソルジャー、ファイター、ロード、ロード=ヴァイという経歴だから、確かにウチの中ではジョブが少ない。
それはサーシェスタさんとベルベスタさんもなので、そういう意味で『ホワイトテーブル』は異質なんだ。
「分かりました。当然、ハーティさんの判断に任せます」
「ありがとうございます。お母様の我儘が終わったら、ジョブチェンジをしましょう」
ハーティさんのお母さん、つまりマーサさんは今、レベル39のモンクだ。もう十分でしょうに。
「あたしはまだまだ、このままだよ」
「あたしもさぁ」
サーシェスタさんとベルベスタさんは確固たる意志がある。モンクとウィザードを極めるんだ。
それはそれで、もちろんアリだ。色んな人材がいる方が面白いよね。
◇◇◇
そしてさらに半月後、いよいよ『計画』は進んでる。
ひとつはわたしとターンのジョブチェンジだ。わたしは今、ナイトを経由してヘビーナイトをやってる。ターンも一緒だ。
お互い似合わないジョブだねって笑えてしまう。
「だけど硬いジョブだから前にも出れて、楽できるね」
「おう」
わたしたちは、38層でジャイアントヘルビートルと戦っている。硬めのジョブでVITとSTRが伸びてるからやれる行為だ。
「シールドで、ずるり」
ターンの謎発声だけど、スキルを使ってるわけじゃない。ただシールドを器用に使って、相手の攻撃を流してるんだ。DEXとAGIがあってこその行動だね。
「じゃあわたしも、ずるりん」
そしてそれくらいなら、わたしにもできる。もう完全に約束組手だ。
レベル16のヘビーナイト二人が、38層ゲートキーパーを相手取る。傍から見れば奇跡みたいな感じだけど、わたしたちのジョブ遍歴がそれを可能にしているんだ。
「基礎ステータスが違うんだよ! 『切れぬモノ無し』」
「『イガニンポー:時雨』」
わたしたちのスキルがトドメになって、相手は崩れ落ちた。
銀色が身体を纏い、レベルアップする。最高だ。それに加えて、宝箱もある。繰り返しだけど最高だね。
「クナイだ」
「やったね!」
わたしとターンでハイタッチだ。さて、どんどん行くよ。
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