第133話 深刻なシュリケン不足





「オーガロードとキングトロルかあ。再生アリだから油断しないでね」


「おう!」


『ルナティックグリーン』の面々が元気に返事をしてくれた。

 ここは迷宮49層。そして相手はゲートキーパーだ。


 わたしが心を固めてそろそろ2週間。毎日のように迷宮に潜って、深層探索とマッピングを続けてきた。昇降機は44層から48層までだった。


「『マル=ティル=トウェリア』」


「『マル=ティル=ルマルティア』」


 ハイウィザードの熱風と、エルダーウィザードの極低温が入り乱れる。


「『アビラウンケン・ソワカ』」


 キューンの投げつけた独鈷杵が息絶え絶えのオーガロードに突き刺さり、そのまま豪炎を巻き上げる。


「『大切断』」


 残りの取り巻きは、ズィスラの剣が葬った。


 そして、わたしとポリンが交差するように、ボスたるキングトロルの腱を叩き切る。

 トドメはターンだ。


「『後の先』『居合』『大上段』」


 キングトロルの頭部が縦に割れ、勝負はついた。なんで居合から上段斬りができるのか、謎だね。



『ルナティックグリーン』の現状と言えば、わたしはハイニンジャの52、ターンはケンゴーの39、ズィスラもケンゴーで55、ヘリトゥラはエルダーウィザードの51、キューンがウラプリーストの39で、ポリンがハイニンジャの48だ。

 流石にここまで来ると安定する。積み重ねてきた努力は嘘を吐かない。今のわたしたちなら、50層を狩場にできるだろう。


「うん、いいね」


「むふん」


「シュリケンが出た」


 最近はもっぱらポリンが宝箱係だ。本人も気に入ってるみたいで、嬉しそうに罠を解除する。揺れるタヌキシッポが可愛い。


「大分集まってきたわね!」


 ズィスラも例の計画に乗っかる気マンマンだ。でもニンジャ系のアイテムは『サワノサキ・オーファンズ』に流す予定なんだよね。なんてったって、彼らは我が領地の守り手なんだから。

 サワノサキ領の誇るニンジャ部隊を編成する予定なんだ。もちろん隠密系だよ。


 隠密系と言えば『シルバーセクレタリー』とハーティさんは、全員ハイニンジャをやってる。特にハーティさんはロード=ヴァイからメイジ、シーフ、ウォリアー、パワーウォリアー、プリースト、ハイウィザード、ニンジャ、ハイニンジャまで持ってきてる。恐るべしだ。

 基礎ステータスに乗っかった、ロード=ヴァイの高いVITとSTRあってこそかもね。


「レベルは嘘を吐かない。積み重ねてきたジョブはちゃんと力に繋がる」


「サワ、どうしたの」


 突然変なことを言い出したわたしを、ヘリトゥラが心配してくれた。


「んーん、大丈夫。再確認しただけだから。さあ50層に行って、もう少し狩ろっか」



 ◇◇◇



 迷宮に泊まるか事情の無い限り、『訳あり令嬢たちの集い』は全員で朝食と夕食を共にするのが通例だ。そこには事務員のオルネさん、ピリーヤさん、キットンさんも含まれる。

 そして報告会だ。まあ最近は誰がレベル幾つになったとか、どれそれのアイテムが出た、なんて話がほとんどだけどね。


「ハイッソーとアッシャーを、エルダーウィザードにしたいと考えています。よろしいでしょうか」


 ハイッソー、アッシャーは『シルバーセクレタリー』のメンバーだ。二人ともエルフだね。

 残り3人は、ドワーフのゲッタリン、犬耳セリアンのポナチーワ、ヒューマンのメンヘイラだ。それに加えてヒューマンのピンヘリア。彼女たちこそが、我らが事務員にして隠密の『シルバーセクレタリー』だ。どどん。

 ちなみに隊章は銀の万年筆だよ。あるんだよね、万年筆。


「大魔導師の杖が2本ありますので、そちらを使わせてもらいたいと」


 その首魁にして『訳あり』の裏番長、ハーティさんが提案した。


「異議なし」


 アンタンジュさんはあっさりと認めた。


「同じく」


 ターンが。


「おう」


「わたくしも賛成するわ!」


 シローネとリッタが賛同した。

 すなわち、1番隊から5番隊の許可が出たことになる。


「サワさんはどうでしょう」


「反対するわけ、ないじゃないですか」


 クランリーダーたるわたしも賛成する。これで決まりだ。


「ありがとうございます!」


『シルバーセクレタリー』のメンバーは、ハーティさんの教育で同じ言葉遣いを徹底している。メンヘイラなんかは本来無口なんだけど、仕事の時はハキハキになる。

 これも隠密としての嗜みだそうだ。怖いって。


「事務能力と隠密もそうだけど、迷宮じゃ高速ウィザードは凄く頼もしいから、期待してるね」


「はい!」


 これは紛れもない事実だ。STRとAGIに優れたウィザードは本当に強い。わたしもだけどね。

 だからこそ彼女たちは、シーフとニンジャ、ハイニンジャを、ウォリアーとパワーウォリアーを積み重ねてきたんだ。



 ◇◇◇



「ニンジャになりたい?」


「はい、そういう子たちが多いんですよ」


 そう切り出したのは、いつもにこやかな育成施設長、マーサさんだ。えっとモンクのレベル43でしたっけ。


「俺もなりたいです」


「ウチの子たちも多くって、ごめんなさい」


 そう言うのは『サワノサキ・オーファンズ』の、男子部隊長マッチャーと女子部隊長リンドールだ。ちなみにマッチャーが犬耳セリアンで、リンドールはヒューマンだね。わたしと同年代だ。

 しかしどうしてこうセリアンは、ニンジャ志向が強いかなあ。


『ルナティックグリーン』がいるのは、育成施設の応接室だ。

 なにか不備やら不足やらないかと質問しに来たら、こうなった。どうしよう。


「じゃあサムライ系も」


「いえ、そちらはあまり」


 バッサリだよマーサさん。どうしてさ。ニンジャに憧れるなら、サムライだってそうでしょ。こんなのおかしいよ。


「ナイトかロードがいいみたいです」


 リンドールが追い打ちをかけてきた。

 そうか、子供たちのレベリングに付き合ったのは『クリムゾンティアーズ』と『ブルーオーシャン』だ。サムライ系が一人もいないじゃないか。抜かった。


「そうですか。今度、ジェッタさんやイーサさん、ワルシャンあたりに慰問を頼みましょう」


「わあ!」


 リンドールが凄く嬉しそうだよ。ぐぬぬ。

 ターン、肩にポンって手を置くの止めて。


「ま、まあ、シュリケンやクナイの10や20、わたしたちにかかれば容易いことですよ。任せてください」


「あの、無理せずとも」


 すっごい痛々しい目でマーサさんが諫めてくれた。だが引けん。わたしはココの領主であり、最強を目指す者だ。ここでイモ引くわけにはいかないんだ。


「ターンに任せておけ」


「頼むぜ、ターン」


 ああ、マッチャーのシッポがブンブンだ。

 わたしもそうだけど、ターンも安請け合いしすぎだよ。ほら、ズィスラの視線も厳しいし。



「というわけで『ルナティックグリーン』『ブラウンシュガー』『ブルーオーシャン』はアイテム漁りを敢行します」


「サワ、それっていつもと同じじゃ」


「ウィスキィさん、意気込みの問題なんです」


「そ、そう」


「意気込みは大切ですわ」


「そうです、フェンサーさんの言う通り。心構えがあれば、アイテムは出るんです」


「……サワさんが言ってた、物欲せんさーは?」


 ポロッコさんまでツッコミを入れてきた。普段はこういう時、無口のくせに。



「だまらっしゃい!」


 わたしは『黒のクナイ』をかざし言う。


「我、信ずるならばそれを為し、欲するならばそれを得る!」


 いつの間にかターンも、そして『ブラウンシュガー』も真似てポーズを取っていた。いいねえ。

 他のメンバーは呆れてるけど、どうしてそうなるの!?


「で、あたしたちはどうすればいいんだい?」


「アンタンジュさん、よくぞ聞いてくださいました。そう、念じてください」


「念じるって」


「祈りでもささやきでも詠唱でも構いません。とにかく、シュリケンかクナイが出ると信じてください」


「あ、ああ、分かった。念じるよ。シュリケン、シュリケン」


「良いですねえ。さあ皆さんも!」


「しゅ、シュリケン、シュリケン」


「リッタ。もっと元気よく!」



 5日後、わたしたちの手元にはシュリケンとクナイか1個ずつあった。なんでさ!

 ちょっと物欲センサー、こういう時に限ってなんで良い仕事してるのさ。


「これは、偏ったねぇ」


 ベルベスタさんが笑ってる。


「まあいいじゃないか。『シルバーセクレタリー』の杖が全部揃った」


 サーシェスタさんの言うことも、もっともなんだけどさ。なんで『大魔導師の杖』は5本も出たんだろ。他にも『白銀の剣』とか『ナイチンゲール誓詞』とか、ジョブチェンジアイテムがサクサク出てきた。


「とりあえず誰か、ホーリーナイトになります?」



 周りは沈黙した。


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