第134話 よそ者だってさ
「おう、手前ぇ邪魔なんだよ!」
「何するんだよ!」
「お前らみたいなちゃっちいのが冒険者とか、笑わせんなあ」
「お、兄貴、ちょっともっさいけど、片方は女ですぜ」
「おうおう、おいそこの、俺たちのパーティに入れてやろうじゃねえか」
「止めろ! ワッシャアに手を出すな」
「そういうのはなぁ、強くなってからほざきやがれ」
「ちくしょうっ」
冒険者協会事務所で繰り広げられる、あまりにベタでテンプレ展開に、わたしは思わず見物側に回っていた。
絡んでいるのはおっさん二人、被害者はわたしと同じくらいの男女二人だ。
なんだかどこかで見たパターンだね。
他の冒険者たちは、わたしたち『ルナティックグリーン』が来ているのを見て、逆に手を出さないでいる。何を期待してるのかな。
「そこまでです」
応えようじゃないか。
「なんだあ手前は」
背後から声を掛けたわたしを、胡散臭そうな目でチンピラが見ている。
「中々強そうじゃありませんか。それが弱い者いじめですか?」
「へっ、腕っぷしの足りないガキに、世の道理ってやつを教えてやろうってんだよ」
道理なんて単語を知ってるなら、こんなことしないだろうに。
「見ない顔ですが、どちらから」
「俺たちかあ、ベンゲルハウダーからだよ。最近、ヴィットヴェーンの景気が良いって聞いてなあ、ここなら俺たちでも楽勝さ」
「なるほど、さぞ強いんでしょうね」
「おうよ、俺はパワーウォリアーのレベル23だ」
「あっしはファイターのレベル26だぜえ」
へえ、確かにまあまあだ。だけど前時代的だね。あと、あっしってなんだ。
「じゃあ、わたしも言わなきゃいけませんね。ホーリーナイトのレベル0です。さっきジョブチェンジしたばっかりなんですよ」
「レベル0だあ? ナイトの派生なんだろうが、ヴィットヴェーンにゃそんな酔狂なジョブもあるのかよ」
こっちを馬鹿にしきった表情だ。ジョブツリーも分かってない上に、レベル0ってことで舐め切っている。
「で、どうします?」
「どうするって、何をだあ」
「弱い者いじめを続けるなら、わたしが相手をするって言ってるんですよ」
「……本気で言ってんのかてめぇ。俺が女子供だからって、手加減すると思うなよ」
「安い。安いですよ。わたしと喧嘩をしたいなら、もう少し値を上げてください」
「わけわかんねえことを言いやがって。なにもんだ、てめぇ」
「名乗ってませんでしたね。ヴィットヴェーンの冒険者、サワと言います」
まあすぐ傍にターンやズィスラ、ヘリトゥラ、キューン、ポリン、すなわち『ルナティックグリーン』の仲間がいるんだけどね。
って、あれ? いない。あ、離れたところで、おっちゃん方にミルクを奢ってもらってる。ズルいぞ。
大体さあ、こういうシーンだと周りが殺気立ったり動揺したりするのに、何故か場がほんわかしているんだよね。おかしいでしょ。
◇◇◇
「じゃあ、行こうか。今日は慣らしだから、35層くらいかな」
「おう」
ターンとズィスラは、気絶したおっちゃん二人を肩に担いでいる。
ちょっと訓練してあげただけだ。何の問題もない。ちゃんと訓練場に移動してからだからね。
「『オディス』『オディス』」
迷宮に入ってすぐの所で治してあげた。起こしてあげたとも言う。
「ううっ、俺はいったい?」
「あっしはどうして」
「お疲れ様でした。気を付けてお帰りください。あと、ああいうのは良くないので、今度見つけたら訓練が厳しくなりますよ」
わたしたちはおっちゃん二人を激励して送り出した。頑張ってね。
「さあ、レベルアップしに行こう」
==================
JOB:HOLY=KNIGHT
LV :0
CON:NORMAL
HP :264
VIT:92
STR:113
AGI:102
DEX:118
INT:64
WIS:38
MIN:51
LEA:17
==================
ハイニンジャのレベル53でジョブチェンジしたお陰もあって、基礎AGIがついに3桁になったよ。何気にMINも50を超えた。不動たる心の持ち主よ。
さてナイトの上位ジョブ、ホーリーナイトだけど、聖属性スキルが身に付く。簡単に言えば、ターンアンデッド系が使えるようになる。これはプリーストには無いスキルだ。
とは言ってもこの世界のアンデッド、普通に斬れるし、燃える。なのでちょっと特効が付く程度だ。まあWISが上がるナイトで、大体合ってる。
「だけど流石に鈍いね」
「やむなし」
明らかに反応速度が落ちてる。ハイニンジャでブイブイいわしてたから、この感覚に早く慣れないとね。
こればっかりはジョブチェンジの明確なデメリットだ。身体の感覚が低くなる方で変わるっていうのは、よろしくない。
「まあ頑張るよ」
「ほら行くわよ!」
「待ってよズィスラ」
「『ホーリースラッシュ』」
聖属性を纏った攻撃がロックリザードを切り裂く。うん、単純に『スラッシュ』だねえ。エフェクトは綺麗だけどさ。
あんまりホーリーナイトをネガっていたら、現役でレベル60超えのイーサさんに怒られそうだ。ここら辺にしておいて、素直にスキルが増えるのを喜ぼう。それが目的なんだし。
「マスターレベルになったよ。今日はこれくらいかな」
「調子はどうだ」
「大分慣れてきたかな、STRの伸びは良いから、力の乗りと速さも実感できてきたよ」
「ふむ」
繰り返しになるけど、AGIは反応速度で、STRは力と速さだ。両方が揃って初めて、冒険者の速さになる。どっちも大事。これ大切。
◇◇◇
「会長がですか」
「ええ、サワさんをお呼びです。『ルナティックグリーン』全員でも構わないそうです」
スニャータさんがそう言うので、執務室に向かった。わたしは一応ここの職員だから、フリーパスなんだ。
「どうぞ」
一応ノックして入室する。婚約破棄騒動以来、結構疎遠だった気がするね。
「待っていたよ」
「ご用件は」
「今日君たちが処理をした冒険者だけど、ベンゲルハウダーから来たそうだね」
「はい。そんなことを言ってましたね」
「実は午後にも似たようなことがあったんだ。そちらはボルトラーンの冒険者らしい」
この国にある、4迷宮の名前がこれで揃った。
ボルトラーン、ベンゲルハウダー、王都キールランター、そしてヴィットヴェーンだね。
「裏はあるんですか?」
「確証はない。僕としては無いと見ているよ。あったとしても情報収集程度かな」
「景気に釣られた、ですか」
「そうなんだろうね。何せ50層までのマッピングが終わっている迷宮だ」
諸悪の根源みたいに言われたら心外だ。マッピングは冒険者の義務みたいなもんだし、わたしたちはそれを協会に全部提出してる。当然報奨金は貰ってるけどね。
「でも冒険者っていうのはもう少し」
「それは僕もそう思っているよ。ただ、地元から遠くのこちらに流れてきた連中だからね」
確かに冒険者だって色々だ。大多数は気の良い人たちなんだけど、調子こいた新人とかもいるし、強くなって勘違いするのも出てくるか。元々の人間性だってある。
で、そういうのは地元に居づらくなって、こっちに流れてきたと。面倒くさい。
「もちろんこの件は、全ての冒険者に伝達する。ただサワ嬢、君の領地が一番危ない」
「え?」
そこで会長は、ちらっと『ルナティックグリーン』を見た。お行儀よくしてるよ? ああ、そういうことか。
「見た目ですね」
「そうだね。君の所ほど見た目と実力がかけ離れているクランは無い。それは『世の漆黒』、そして『サワノサキ・オーファンズ』もだよ」
確かに会長の言う通りだ。この場合の問題は、誰かが怪我をするとかじゃない。トラブル自体が面白くないってことだ。そんな暇があったら迷宮に入れってもんだよ。
「情報をありがとうございます。皆には揉め事を極力さけるよう、周知しておきます」
「理解が早くて助かるよ。それにサワ嬢の仕事でもある」
「仕事?」
はて。
「君は『調査部別室の室長』でもあるんだよ」
「そうでした。じゃあ『シルバーセクレタリー』にも手伝ってもらいます。一応裏取りは必要でしょうし」
「頼むよ。ウチの『捜査課』を使ってもいいからね。それとサワ嬢なら分かっていると思うけど」
「ええ『冒険者の揉め事は冒険者に』。血の色は持ち出しません」
「それでこそ冒険女男爵だね」
これはみんなの育成を進めないとね。シュリケン出ないかなあ。
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