第135話 自称冒険者ども、覚悟しろ!
「そういうわけなので、深層探索は『ブラウンシュガー』に任せたいと思います。他のパーティは『オーファンズ』のレベルアップに力を入れてください」
『訳あり』達にお願いする。もちろん『ルナティックグリーン』もやる。
「『シルバーセクレタリー』は、自分たちのレベリングと同時に、街を調査してください。大変だろうけど、ごめんね」
「構いません。朗報をお待ちください」
代表してピンヘリアが答えてくれた。
先日のシュリケン騒動のお陰で、ハーティさんを含めて、彼女たちは全員エルダーウィザードになっている。頼むね。
「ハーティさんは『世の漆黒』と、一応『高貴なる者たち』にも話をしておいてください。わたしは明日にでもマーサさんに言っておきます」
「分かりました」
さて通達はこれでできたとして、問題は他の領地から来た新人たちだね。『オーファンズ』に任せるのはちょっと危ないかな。
「組み合わせは『クリムゾンティアーズ』と『ブラウンシュガー』、サーシェスタさん。それと『ルナティックグリーン』と『ブルーオーシャン』、ベルベスタさんに分けます。ハーティさんは『シルバーセクレタリー』と一緒ですね。これで良いですか?」
「年長者が混ざるってことだねぇ。任せてくれていいよぉ」
ベルベスタさんが代表して説明してくれた。そういう意味だよ。
◇◇◇
「なるほど」
話を聞いたマーサさんが、ゴキリと指を鳴らした。怖いって。
「子供たちには話しておきましょう。最低でも3人一緒で行動するように徹底します」
「それは良いですね。ついでに変なのを見かけたら、すぐ逃げるっていうのも」
「そうですね」
ウチの子たちはシーフとウォリアーをコンプリートレベルで経由してるから、本職でもない限りは逃げ切れるはずだよね。
その後はふた組に分かれて、子供たちのレベリングだ。『ルナティックグリーン』が付き合うのは珍しいのか、なんか嬉しそうにしてる。よしゃよしゃ。
「サワ」
21層を通過中、ターンとポリンが、ほぼ同時に反応した。どした?
「何か言い争ってる」
ポリンがまるで自分の落ち度みたいに言った。言い争い?
「……ターン、誘導お願い」
「おう」
迷宮内で揉め事。冒険者が一番やっちゃいけないことだ。絶対にだ。
「どうしたんです?」
「ああ、サワさんか。いや、こいつらがさ」
「先輩冒険者とすれ違ったんだ。挨拶くらいしろって話だよ。何が悪い」
「ってことなんだ」
これは酷い。
片方は以前、テレポーター騒ぎの時にお世話になった『吹雪』だった。20歳くらいの男女3人ずつで、今では中堅パーティだね。
問題はもうひとつのパーティだ。少なくてもわたしの記憶に無い人たちだ。30代くらいの男の人6人パーティ。まさかとは思うけど。
「なんだなんだあ、ぞろぞろと。若造の次はガキのお遊戯かあ」
まあ確かにわたしたち、40人近くで行動してるんだよね。『ルナティックグリーン』『ブルーオーシャン』、ベルベスタさんに、それぞれ二人ずつ子供たちを連れてるから。
「わたしたちの人数はどうでも良いです。それより迷宮で揉め事って、最悪ですよね?」
「こいつらが素直に挨拶してったら、何も無かっただろうなあ」
「だからどうしたんです?」
「そうだなあ、渡すもん渡せば、水に流してやってもいいぜえ」
下卑た笑いを浮かべやがった。おいおいマジかこいつら。
ヴィットヴェーンに来て初めて見たぞ、こんなの。
「あの、本気で言ってますか」
「まさかあ、冗談だよ冗談。だけど今後も冗談で済むかねえ」
ダメなんだろうな、こいつら。それでも聞くしかない。
「……最後にひとつだけ、貴方たちは冒険者の仁義をご存じですか?」
「あったり前だろう。先輩は敬うモンだぜぇ」
ダメだったかあ。
「『吹雪』さん。証人になってもらえます?」
「……ああ」
何故迷宮内でのイザコザが厳禁なのか、理由は簡単だ。
「リッタ」
「『ティル=トウェリア』」
リッタが、バックアタックを仕掛けてきたモンスターを焼き払った。
そうだよ。これが理由だ。
「これが答えです。そこのおじさんたち、今のに気付いてましたか? 『吹雪』の皆さんは感づいていましたよ」
「だからどうしたってんだよ! てめえ、さっきからペラペラと。大人舐めてんじゃねぇぞ!!」
「確かに年長者を尊敬するのは、そうかもしれません。だけどそれは、尊敬に値する行動をする方に限ります」
この世界に来てさ、いろんなことがあった。腹を立てたり、自分の未熟さを悲しむこともあった。貴族どもの理不尽さに呆れることも。
だけどさ、わたしはどっかで冒険者たちを信じてたんだ。
ゲームだとさ、誰とも出くわさない。ただひたすら作業のごとく、目をつむってもできる、決まりきった道のりを踏破して、ただモンスターを狩るだけ。
だけどこの世界は違う。通りすがりに冒険者たちが居てさ、お互いに声をかけてさ、激励してさ。
ルールとか仁義じゃないんだよ。わたしは心地よかったんだよ。それなのにさ。
ああ、もう。なんでわたしは泣いてるんだろ。
「サワ、どうする?」
ターンや他の人たちが、心配そうにわたしを見てくれている。それだけで救われる。
「ごめんね、ターン。そうだね……」
もう、やるしかないね。
「わたしは、サワ・サクストル・サワノサキ=フェンベスタ・メルタ・メッセルキールと申します」
言いたくなかったな、こんな名前。
「お、お貴族様だってのかよ」
「貴族かどうかは関係ありません。わたしはヴィットヴェーン冒険者協会教導課課長並びに調査部別室室長を頂いています。その権限に基づき、貴方がたを捕縛します」
「なにいぃっ!?」
「ターン、ズィスラ、ポリン、ワンニェ、ニャルーヤ……。気絶させてあげて」
リーダー格らしい男の腹に肘を叩き込んで眠らせて、わたしは仲間にお願いした。やな仕事をさせてごめんね。
「こいつらが悪いさねぇ、サワ嬢ちゃんが気にすることないよ」
ベルベスタさんは分かってくれてるみたいだ。ありがとうございます。
◇◇◇
「ふむ、で、君らの言い分を聞こうかな」
「へ、へへ、俺たちは別に。ただちょっと行き違いがあった程度でさあ」
冒険者協会事務所にある、取調室みたいな所に居るのは、わたしとベルベスタさん『吹雪』のメンバーと会長、そしてゴロツキ6人だ。
他のメンバーが来てもしょうがないので、レベリングを続行してもらってる。子供たちが残念そうだった。おのれ、折角の機会を台無しにしてくれたなあ。
「会長、わたしが断言します。彼らは挨拶がないという、意味の無い理由で『吹雪』を恫喝した挙句、物品を要求しました」
「そうか、ならば由々しきことだね」
「まってくだせえ、それは一方的過ぎますぜ。俺たちの言い分だって」
「黙れ」
「そんな」
「いいから黙れ。君たちは今、罪を犯し続けているんだ」
会長の声が、今まで聞いたことのないくらい冷たい。婚約破棄の時とは大違いだ。
「いいかい、君たちの証言と彼女の証言、どちらを採用するなど言うまでも無いんだよ」
「会長、そこまでは」
「サワ嬢ならそう言うだろうね。さあ、どうしたい?」
どうしたいって、そりゃ。
「まず、不敬については見逃してあげてください。わたしの名乗りが理解できなかったんでしょう」
「不敬については、理解どうこうじゃないんだけどね」
「そこをなんとか」
「公爵夫人の願いならば仕方ないね」
「公爵夫人!? なんでそんなのが冒険者を」
「だからあ!」
なんでわたしが大声出さなきゃいけないのさ。これ以上面倒を増やさないで。
「もういいですから、とにかく黙っててください。貴方がた今、死の瀬戸際なんですよ。お願いだから理解してください」
「……」
やっと黙ってくれた。まったくもう。
「サワ嬢、君のやり方は理解できる。冒険者に貴族の威光を浴びせても仕方ないのは、僕もそう思う。なら、どうするんだい」
「当然冒険者らしくやりますよ」
「ほう?」
会長が面白そうに笑う。ベルベスタさんも『吹雪』の人たちもだ。
「表出ろ。訓練場行くぞ。6対1だ。文句はないだろうなあ」
「な、何を言って」
「あんたら冒険者だろう? だったら、度胸と力見せてみろ!」
わたしはなあ、悲しくてやりきれなくって、怒ってるんだよ。ホントだったら今頃、ウチの子たちと楽しくレベリングの最中だったんだ。
だからな。覚悟を決めろよ、そこの冒険者モドキども!
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