第73話 深層に挑む者たち





「サーシェスタさん、ベルベスタさん、ターン、そしてわたしまでは確定だと思っています。だけど、無理だと思ったら断ってください」


「いいさ、付き合うよ」


「またレベルが上がるねぇ」


「任せろ」


 各自がそれぞれの言葉で同意してくれた。正直言って結構危ない橋だ。

 もちろん限界と思ったら諦めて引き返すことは決めてるけど、どんな状況でも事故はある。その可能性が、今回は特別高いってことだ。


「いいかい」


「アンタンジュさん、どうしました?」


「面倒くさい確認は抜きだ。サワが戻ってくるまでに、全員が納得してる。好きなのを選びな」


「全員って」


「ああ、『クリムゾンティアーズ』『ブラウンシュガー』『ホワイトテーブル』、そして『ルナティックグリーン』全員だ。ああ、ハーティだけは、まだだったね」


『ホワイトテーブル』って、オルネさん、ピリィーヤさん、キットンさんもか。ズィスラとヘリトゥラも。

 みんな、どれだけ覚悟決めてるのさ。絶対に失敗できないじゃないか。


 候補は4人だ。後衛スキルを持っている硬い前衛、高い補正VIT。それが条件になる。どうする。


「……ひとりは、ポロッコさん。お願いできますか?」


「わ、わたしですか!?」


「はい。プリーストができて、今ウォリアーですよね。道中でジョブチェンジするかもしれませんけど、硬い前衛が欲しいんです」


「分かりました。やります!」


 さて後一人、どうしよう。こういう時、パーティ上限が6人なのが恨めしい。残り3人の候補の内、ドールアッシャさんは抜きだ。カラテカは柔らかい。

 エンチャンターを取るか、実戦経験を取るか……。


「最後の一人は、シローネ。行ける?」


「おう! おれはいつでも行けるぜ!!」


 シローネが元気に返事をしてくれた。

 正直最後まで、ハーティさんかシローネか、迷ったんだよね。


「全員前衛ができて、ウィザード2、プリースト4、エンチャンター1のパーティです。しかも硬いですよ」


 チャートやフェンサーさんなんかは凄く悔しそうだ。ごめんね。



 ◇◇◇



 いち段落して、ちょっと穏やかなムードになったところで、もうひとつ重大発表だ。


「他のクランが、40層まで露払いをしてくれるパーティを出してくれる予定です。そこに『訳あり』からも1パーティを出したいと思うんですけど、どうでしょう」


「やる!」


 真っ先に叫んだのはチャートだった。悔しかったんだろうなあ。


「そちらについては、わたしじゃなくって、みんなで話し合って決めてもらえますか」


「駄目だね」


「ああ、駄目だ」


 サーシェスタさんとアンタンジュさんが即ダメ出しした。なんでさ。


「決まらないからだよ。喧嘩になるぞ。あたしもそうだ」


「仲良くしてくださいよ!」


「だから、サワが決めた方が早いんだって」


「はぁ、分かりましたよ。だけど40層までだって、十分大変なんですからね。ボーパルバニーも出てくるし」


 全員が無言でこっちを見てるし。覚悟決まった顔してるし。

 まったく、この人たちはなんて素敵なんだろう。



「恨みっこ無しですよ」


 それでも無言。むしろ全員が目をギラギラさせてる。怖いって。


「ジェッタさん、ハーティさん、チャート、テルサー、そしてイーサさんとリッタ」


 物理アタッカー4、ウィザード2、ヒーラー3、エンチャンター1の構成だ。


 ジェッタさんは元タンクだし、ハーティさんは言わずもがなの万能戦士。守りに特化したイーサさんと、動けるウィザード、リッタというわけだ。

 チャートはとことん前衛で、逆にテルサーはウィザードとヒーラー兼任だね。

 正直、テルサーとフェンサーさんは迷った。決め手はテルサーがビショップだってくらいだね。


 もうひとつ、これは本当に凄く迷ったのが、アンタンジュさんの扱いだ。パーティリーダーをどうするか。なのでわたしはこれまでの付き合いから、判断する。


「隊長はハーティさんです」


「私が?」


「層転移の時に陣頭指揮を執ったじゃないですか」


「ですが、戦術指揮は」


「レベルとスキルが一番豊富なのがハーティさんです。自分を活かしつつ、みんなを見てあげてください」


「……分かりました」


「そして副隊長はチャート。前衛をまとめて」


「ぼくに任せて!」


 年齢的にはジェッタさんなんだけど、性格がリーダー向きじゃない。ごめんなさい。

 そしてもうひとつ、謝らなきゃならない人たちがいる。



「アンタンジュさん、ウィスキィさん、ごめんなさい」


 よりによって1番隊『クリムゾンティアーズ』の隊長と副隊長を選抜しなかったんだ。メンツを重んじる人たちじゃないってことは知っている。だけどなあ。


「気にしないでいいよ。時期が悪かっただけさ」


「わたしたちがいない間、残ったメンバーをお願いします。13層あたりでとにかく石を集めてください」


「石、か。任せときな」


 そうだ。同時並行しなきゃならないのは、石壁だよ。まずはクランハウスと育成施設を壁で囲う。


「オルネさん、ピリィーヤさん、明日一番にドワーフの棟梁に話を通してもらえますか」


「わかったよ」



「さて、ちょっと飲むかい」


 アンタンジュさんの音頭で年長組はお酒、年少組は紅茶に砂糖とミルクで宴会だ。


 冒険者同士だ、話題は尽きない。

 ズィスラとヘリトゥラを今後どうやって育てていくとか、『クリムゾンティアーズ』と『ブラウンシュガー』から何人かずつパワーレベリングする、なんて話も出た。


 明日からは、激動の日々になるだろう。ここで今、みんなで楽しく話をして、未来を想うんだ。

 誰も死なせやしない、なんて言ったら付け上がるなと神様辺りに言われるだろう。だけどそれでも、わたしはその覚悟で戦ってやる。



 ◇◇◇



 翌朝、『クリムゾンティアーズ』はズィスラとヘリトゥラを連れて迷宮に向かった。『ブラウンシュガー』は4人だけど13層くらいなら行けるはず。とにかく石材だ。


 そして選抜された12名が協会事務所へと向かう。



「ほう、『訳あり』は2パーティかい」


「はい。本命は『ルナティックグリーン』ですが、補助にもう一組です。40層を目指しますが、38層のゲートキーパーがキツいかもしれません」


「なるほど、で、パーティ名は」


「あっ!」


 決めてなかったぁ。ハーティさん達の方を見ると、全員が目を背けやがった。おい!


「僕の妹が隊長のパーティなんだ。さぞ素敵な名前なんだろう?」


 会長の口元が緩んでいる。コノ野郎。


 とりあえず色だ。色を決めよう。えっと、紅と白と緑と茶色の混合だから……、分からん!

 黒だ。もう黒でいい。ブラック、もしくはグレーで行こう、そうしよう。

 後は格好良いフレーズだ。意味なんて適当で良い。考えろ、病室で読んだ本や、プレイしたゲームを思い出せ。なんでわたしはこっちに来てから一番悩んでるんだ!?



「当然じゃないですか。彼女たちのパーティ名は『シュレッダーズグレイ』。行く道を、未来を切り開く者たちです!」


 よっしゃあ!

 何かソレっぽいこと言った。良いこと言ったぞ、わたし。


「ふうん、中々良い名前じゃないか。一晩かけて考えてくれたんだね」


 分かってて言ってるだろ、この男爵令息め。

『シュレッダーズグレイ』の面々はコクコクと頷いている。あんたらもあんたらだよ!

 ふとリッタのドリルを見て、メイルシュトロームグレーでも良かったかな、なんて思ったけど、まあいい。この話題、終わり。



「さて、他のクランもパーティを紹介してもらえるかな。ああ、敬語は不要だよ」


「分かりました。『晴天』からは『木漏れ日』と『木陰のベンチ』だ」


『晴天』のワンツーだ。相変わらず脱力系なのが素敵。


「『リングワールド』からは、もちろん『ワールドワン』と『ワールドツー』」


 うん、こっちも最強2パーティだね。分かり易い名前だ。


「『白光』は『赤光』と『紫光』。前回の恩は忘れちゃいない」


 層転移で助けられた『紫光』の隊長さんは、なんかこう、気合が入っているようだ。目がギラギラしてるよ。


「……『世の漆黒』から出すのは『暗闇の閃光と緑の二人』だ」


「ぶふぉ!」


「サワ嬢ちゃん、仕方ねえだろ」


「いや、だからって『緑』は無いでしょう」


「何言ってんだ。俺たちは『名誉ルナティックグリーン』だぜ。『緑』を名乗らなくてどうするよ」


 はいはい。でもダグランさんとガルヴィさんは、ソードマスターとナイトをそれぞれコンプした。ヴィットヴェーン屈指の後衛であるのに間違いない。硬い後衛っていうのは、これからのトレンドになるはずなんだ。



 さあ、深層に挑むメンバー紹介は終わった。後はやり遂げるだけだ。


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